【メーサーロシュ・マールタ監督特集】『マリとユリ』言いたいことは分かる、でも決まりなんだ

マリとユリ(1977)
Ök ketten

監督:メーサーロシュ・マールタ
出演:マリナ・ヴラディ、リリ・モノリ、ヤン・ノヴィツキetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨今、マニアックな映画のリバイバル上映が盛んに行われている。2023年上半期はオタール・イオセリアーニ特集が話題となったが、もう一つ注目の特集がある。それはメーサーロシュ・マールタ特集である。ベルリン国際映画祭やカンヌ国際映画祭での受賞歴がありながらこれまで日本ではほとんど紹介されていなかった監督メーサーロシュ・マールタ。昨年、MUBIで特集が組まれ界隈で注目されていたが、日本にも上陸することとなった。2023/5/26より新宿シネマカリテ他にて始まるこの特集に先駆けて、今回ライトフィルムさんのご厚意で一足早く彼女の作品を観ました。今回は、カンヌ国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞した『マリとユリ』を観ていく。

『マリとユリ』あらすじ

1975年の「アダプション ある母と娘の記録」で女性として初めてベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したハンガリーのメーサーロシュ・マールタ監督が、家父長制の残る1970年代ハンガリーでつらい結婚生活を送る2人の女性の連帯を、厳しくも誠実なまなざしで描いたドラマ。

偏狭な夫と暮らす中年女性マリと、アルコール依存の夫を持つ若い女性ユリ。つらい結婚生活を送る彼女たちは、慰めを求めあう。やがて互いの葛藤について知った2人は、それぞれの未来のため、ある選択をする。

「彼女について私が知っている二、三の事柄」のマリナ・ブラディがマリ、メーサーロシュ監督作の常連俳優モノリ・リリがユリを演じた。日本では「メーサーロシュ・マールタ監督特集上映」(2023年5月26日~、新宿シネマカリテほか全国順次公開)にて劇場初公開。

映画.comより引用

言いたいことは分かる、でも決まりなんだ

工場で働くユリはアル中の夫との都合で娘を寮に連れてくる。しかし、真面目な人から「娘をここにいさせてはいけない」と語る。ルールを重んじる彼女は「理由はわかるけれども規則だから」を口癖に彼女を追い詰めていく。本作は、正論で縛られた世界の閉塞感を徹底的に魅せていく。たとえば、寮からセーターが盗まれる事件が発生するのだが、正義感溢れる者が「セーターが見つかるまで外出禁止だ」と言い始めるのである。ルールを遵守している自分のアイデンティティを維持するために、他者のいかなるルール逸脱を認めない。それにより、逃げ道がなくなり苦悩する従業員像が観ていていたたまれなくなる。メーサーロシュ・マールタにとって工場とは、社会のシステムを暗示しており、人間が歯車として逸脱なく働くことを強要する場所として描かれている。今回は社員寮が物語の中心としてあるが、一貫した作劇であることが分かる。確かに彼女の映画は連続して観た方が発見ある作家だと感じた。

※映画.comより画像引用