【チェブンブンシネマランキング2022】新作部門第1位はタイの監督がコロンビアで撮ったあの映画!

【チェブンブンシネマランキング2022】新作部門
さて、今年も恒例のこの企画がやってまいりました。

「チェブンブンシネマランキング2022」!

今年は新しい動画配信サイトEASTERN EUROPEAN MOVIESに登録したり、哲学書を読んだり、VTuber研究に励んでいた関係もあり、日本公開作品のレベルが高かったこともあり、日本未公開映画のランクインは少ないです。また、年末ベストをYouTube配信することが急遽決まり、その準備に追われたため、11位〜20位の説明はありません。すみません。


↑音声版です。自分のベスト間違っていますが、下記の順位が正式なものです(やってしまった!)。

※タイトルクリックすると詳細作品評に飛べます。

1.MEMORIA メモリア(MEMORIA,2021)


監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:ティルダ・スウィントン、エルキン・ディアス、ジャンヌ・バリバール、ダニエル・ヒメネス・カチョ、フアン・パブロ・ウレゴ、ダニエル・トロetc

ロシアのウクライナ侵攻、コロナ禍、経済危機が同時に起こる中で、人々は分断されていく。また、膨大な情報が飛び交う中で、人々は「タイパ」を求めて行動してしまう。コミュニケーション不全に陥る現代において、タイの監督アピチャッポン・ウィーラセタクンがイギリスの俳優ティルダ・スウィントンとコロンビアへ渡り、スペイン語、音、感覚と様々な形の「言語」に触れ、他者への理解を深める。他者への理解を深めることで見えてくるその地の歴史。そこに流れる痛みを受容する物語に私は涙した。また、今となっては「名作」とラベリングされたある映画が公開された当時の衝撃をまさかこの映画で体験できるとは思ってもいなかった。

2.タバコは咳の原因になる(Fumer fait tousser/Smoking Causes Coughing,2022)


監督:カンタン・デュピュー
出演:ジル・ルルーシュ、ヴァンサン・ラコスト、ウラヤ・アマムラetc

今年は、CINEMAS+にカンタン・デュピュー布教記事を書くほど、彼の作品に夢中となった。彼の新作は集大成ともいえる作品で、『ラバー』、『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』はもちろん、Mr. Oizo時代に作った伝説的MV「Flat Beat」の要素まで取り込んでいて、ファン大歓喜の映画となっていた。それ抜きにしても、タバコ戦隊が怪獣を肺ガンにさせて倒す演出の滑稽さ。しかしながら、有害物質で倒す様子はヒーローの有害さを象徴している強固なものとなっており、相変わらず侮れない作品に仕上がっている。しかも、本題はタバコ戦隊が怪獣を倒すところになく、すべらない話を通じて「恐怖とは何か?」を突き詰めるところにある意外性に驚かされた。

3.The Timekeepers of Eternity(2021)


監督:Aristotelis Maragkos

今年は、「映画を早送りで観る人たち」でファスト映画が注目された。実験映画の世界においてファスト映画的アプローチが用いられることは少なくない。マイケル・スノウは『波長』を15分に圧縮した『WVLNT (“Wavelength For Those Who Don’t Have the Time”)』を作った。ジャン=リュック・ゴダールは『ゴダール・ソシアリスム』 の予告を作る際に、全編を早送りにし数分の予告編を作った。さて、『The Timekeepers of Eternity』はトム・ホランド監督がスティーヴン・キング「ランゴリアーズ」を3時間のテレビドラマにした。これを1時間に圧縮したある種のファスト映画である。面白いのは、スクリーンの質感を紙に置換しており、シーンの一部が破れて別の場面が覗き込んだり、くしゃくしゃになった存在が主人公たちに襲い掛かったりする。『ランゴリアーズ』は未観であるが、少なくとも得体のしれない恐怖の濃度は上がっている。そんな衝撃作であった。

4.NOPE/ノープ(Nope,2022)


監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユァン、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレア、バービー・フェレイラ、ドナ・ミルズ、ジェニファー・ラフルール、ライアン・W・ガーシア、コナー・コワルスキーetc

銃ではなく、眼差しを持った西部劇は、消費されてきた者の歴史を炙り出す。クラシカルな、でも真新しさもある可変式UFO。一見すると馬鹿馬鹿しくも見えるが、その馬鹿馬鹿しさこそが他者を消費することを象徴していて、ジョーダン・ピールの理詰めホラー炸裂な作品であった。そしてなんといっても、新旧様々なカメラを用意してUFOを仕留めようとする場面が素晴らしくて惹き込まれた。

5.アポロ10号1/2: 宇宙時代のアドベンチャー(Apollo 10½: A Space Age Childhood,2022)


監督:リチャード・リンクレイター
出演:グレン・パウエル、ザッカリー・リーヴァイ、ジャック・ブラック、ジョシュ・ウィギンス、リー・エディ、ブライアン・ヴィラロボス、ジェニファー・グリフィン、Natalie L’Amoreaux、ミロ・コイ、サミュエル・デイヴィスetc

カイエ・デュ・シネマがベストテンに選ぶまでリチャード・リンクレイターの作品がNetflixで配信されていることに気づかなかった。配信時代は巨匠の作品ですらいつの間にか観られる状態になっていることに気づかない時代となっていて大変だ。さて、慌てて観てみたらこれが大傑作だった。ロトスコープの使い手でもあるリチャード・リンクレイター監督。彼は、幼少期に観た映画やテレビ番組、ニュース映像をロトスコープで再構成することで、「思い出の中の映画」を表現する手法としてロトスコープが使えることを発明した。そして、技術の負の側面が着目される今において、楽観的な60年代の技術信仰はどこかSFに見えてしまう様子も的確に表していて素晴らしかった。

6.映画 おそ松さん(2022)


監督:英勉
出演:向井康二、岩本照、目黒蓮、深澤辰哉、佐久間大介、ラウール、渡辺翔太、阿部亮平、宮舘涼太、髙橋ひかるetc

アニメの映画化でアイドル映画。それもよりによって「おそ松さん」。映画として成功するとはいえないこのテーマに対して英勉はフランク・タシュリン映画さながらの手腕で乗り切った。アニメが実写になると生々しくなってしまう様子に言及するメタ演出から始まる本作は、スパイもの、タイムリープもの、デスゲームもの、そして『七人の侍』とあらゆる映画ジャンルを横断する。収拾がつかなくなった状態を収めるために、デウス・エクス・マキナの擬人化を召喚するも、それすら狼狽させる無軌道なおそ松軍団のアクション。そして、ちゃんと物語を着地させる英勉の曲芸に圧倒された。

7.ノー・シャーク(No Shark,2022)


監督:コーディー・クラーク
出演:Ian Boyd、イリース・エドワーズ、ビル・ウィーデン、コーディー・クラーク、Livvy Shaffery etc

サメが出ないサメ映画として話題になった本作。ネタ映画だろうと思って蓋を開けてみたら、フランスのバカンス映画のような解放された空間で展開される自問自答の映画となっており、そこで炙り出される孤独がもたらす醜悪な感情に関心を抱いた。孤独の概念の果てで、他者に手を差し伸べる選択を取る美しさは、ジャン=リュック・ゴダールの『ヌーヴェルヴァーグ』に匹敵するものがある。実はエリック・ロメールやギヨーム・ブラックといったバカンス映画好きに観てほしい傑作である。

8.THE FIRST SLAM DUNK(2022)


監督:井上雄彦
出演:仲村宗悟、笠間淳、神尾晋一郎、木村昴、三宅健太etc

「SLAM DUNK」は高校時代に1巻読んで挫折した。しかし、今回映画を観て、また漫画を読んでみたくなる程燃え上がるものを感じた。アニメ映画の伸縮自在な時間の芸術の特性をここまで捉えた作品がかつてあっただろうか?漫画がアニメになる瞬間を描くオープニング。バスケットボールでドリブルするように、早回しとスローモーションを駆使したキレのあるアクション。なぜ、彼らがこの場に集まっているのかを客席にいるモブキャラにまで適用させていく力強い作劇に感動した。

9.ライフ(Жизнь/Life,2022)

監督:エミール・バイガジン
出演:イェルケブラン・タシノフ、カリナ・クラムシナ、イェルジャン・ブルクトバイetc

バックアップの移行作業中に事故が発生して、会社の全映像データが吹き飛ぶというエンジニアにとって胃がキリキリする物語。いきなり極限状態から始まる訳だが、中途社員の主人公はなぜか地下帝国に連行されるのではなく、社長に就任し地獄の資金繰りを強いられる。そして、映画は追い詰められた主人公の心象世界を映し出し、まるでエヴァンゲリオンのような情景が広がっている。果てしなく終わらない悪夢。弱くてコンテニューを繰り返す、苦いコメディにエミール・バイガジン監督の新しい業を目の当たりにした。

10.ピンク・クラウド(A Nuvem Rosa/The Pink Cloud,2021)


監督:Iuli Gerbase
出演:Renata de Lélis,Helena Becker,Girley Paes,Lívia Perrone Pires,カヤ・ロドリゲスetc

2019年に撮影されたにもかかわらず、コロナ禍の心理や情景をピタリと当ててしまったこの恐怖に打ちのめされた。ピンク色の雲に汚染され、引きこもり生活を強いられた夫婦。やがて子どもが生まれるも、ピンクの雲がある世界しか知らない子どもたちは何故母親が精神的に追い詰められているかわからない。この生々しさ、あと数年後に我々が直面するであろうことの解像度があまりに高くて息が詰まるような思いをしながら画を凝視した。一方で、ここまで高解像度な映画は我々が置かれた状況を客観視するのにも役に立つ。コロナ禍でなければベストに入らなかったかもしれない映画だが、2022年を表す一本にこの映画を推したい。

11位以下

11.リフレクション(Відблиск/Reflection,2021)
12.グリーン・ナイト(The Green Knight,2021)
13.EO(2022)
14.VORTEX(Vortex,2021)
15.ガール・アンド・スパイダー(Das Mädchen und die Spinne/The Girl and the Spider,2021)
16.麻希のいる世界(2022)
17.恋人はアンバー(Dating Amber,2020)
18.オカルトの森へようこそ THE MOVIE(2022)
19.ALIVEHOON アライブフーン(2022)
20.There Will Be No More Night(Il n’y aura plus de nuit,2020)

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