【チェブンブンシネマランキング2022】旧作部門
さて、今年も恒例のこの企画がやってまいりました。
「チェブンブンシネマランキング2022」!
今年は新しい動画配信サイトEASTERN EUROPEAN MOVIESに登録したり、哲学書を読んだり、VTuber研究に励んでいた関係で、旧作ベストは理論的な作品が多く並ぶこととなりました。年間ベストはその時の自分の思索のアーカイブ。数年後に見返した時に印象に残るベストとなりました。今年は、年末ベストをYouTube配信することが急遽決まり、その準備に追われたため、11位〜20位の説明はありません。すみません。
※タイトルクリックすると詳細作品評に飛べます。
もくじ
- 1 1.Next Stop Paradise(Terminus paradis,1998)
- 2 2.斧(The Ax/Le Couperet,2005)
- 3 3.クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立(Crimes of the Future,1970)
- 4 4.わたしは潘金蓮(はんきんれん)じゃない(我不是潘金蓮/I Am Not Madame Bovary,2016)
- 5 5.ストレンジ・リトル・キャット(Das merkwürdige Kätzchen/Strange Little Cat,2013)
- 6 6.サドのための絶叫(Hurlements en faveur de Sade/Howlings for Sade,1952)
- 7 7.ヌーヴェルヴァーグ(Nouvelle Vague,1990)
- 8 8.絶壁の彼方に(State Secret,1950)
- 9 9.炎(Sholay,1975)
- 10 10.Tilva Rosh(Tilva Roš,2010)
- 11 11位以下
1.Next Stop Paradise(Terminus paradis,1998)
監督:ルチアン・ピンティリエ
出演:Costel Cascaval,Dorina Chiriac,ゲオルゲ・ヴィス,ヴィクトル・レベンギュウク,ラズヴァン・ヴァシレスクetc
済東鉄腸さん(@GregariousGoGo)主催の東欧映画スペースで紹介されたルチアン・ピンティリエ作品を観ようとEASTERN EUROPEAN MOVIESで探して見つけた作品。これが冒頭から壮絶な内容となっており、のどかな日常が、男の逃走によって破られ、いきなり軍が出動する戦争状態にまで発展するのだが、群衆はのほほんと野次馬本能でその光景を見つめる。このグロテスクな構図に惹き込まれた。『Balanţa(The Oak)』もそうだが、ルチアン・ピンティリエは突然、映画の雰囲気がガラリと変わる演出が面白い監督である。強烈な戦争描写と、閉塞感ある密室家族劇、そして『魔女の宅急便』みたいな爽やか顔で戦車から猫と共に顔を出す。このジェットコースターのような作劇に圧倒された。
2.斧(The Ax/Le Couperet,2005)
監督:コスタ=ガブラス
出演:ジョセ・ガルシア、カリン・ヴィアール、ジェオルディ・モンフィルetc
コスタ=ガブラス映画は政治思想が強すぎて頭でっかちな映画を作るイメージが強いのですが、こんなにスタイリッシュな修羅場映画を作っているとは思いも寄らなかった。失業した男が、ハローワークで名簿をゲットして同じく休職中の男を次々と殺めていくのだが、『ハウス・ジャック・ビルト』さながらグダグダな殺人という滑稽さ。そして案の定、「あなたと同じ会社の面接を受けている人が次々と死んでいるんですよね。」と警察にめちゃくちゃ怪しまれる修羅場。それを紙一重ですり抜けていくスリリングさが最高でした。特に注目してほしいのは、カフェテリアからトラムに乗って、スーツ屋まで追跡するも、更衣室の中までターゲットが入ってきてしまい、狭い空間の中、デカい斧を必死に隠す修羅場だ。明らかに詰んでいるのに、尻にしいて見たり、服の内側に隠そうとしたりとテクニカルな方法で切り抜けていく様に爆笑した。
3.クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立(Crimes of the Future,1970)
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ロナルド・モロジック、ジョン・リドルト、タニア・ゾルティ、J・メシンガーetc
デヴィッド・クローネンバーグの形而上映画のルーツとなる初期作。意味なき臓器を作った男の後を追う。冷静沈着を装っている男が、ゆったりと歩く謎の存在に導かれ、いつしか仮想世界のような場所に迷い込み、ミイラ取りがミイラになる。今までいた世界とは異なる場の表現として、がらんとした廊下を使う。シンプルながらも、どこか違う世界の説得力が高い構図を生み出した点で既に格の違いが現れている。また、今年観た『ステレオ/均衡の遺失』では、テレパシーでのコミュニケーションが当たり前となった世界で、他者からの干渉を防ぐために本心は別の箱に入れる概念は今のSNSに通じるものがある。『ステレオ/均衡の遺失』は動きがなさすぎて、この理論だけ面白く観たのだが、本作はその形而上的アプローチに運動の面白さが付加されており、鬼に金棒!3位に選出した。
4.わたしは潘金蓮(はんきんれん)じゃない(我不是潘金蓮/I Am Not Madame Bovary,2016)
監督:フォン・シャオガン
出演:ファン・ビンビン、グオ・タオ、チャン・ジャーイー、ユー・ホーウェイetc
5年ぐらい探している全編○画面映画『Lucifer』は、いまだに遭遇できてない訳だが、中国にも○画面映画が存在することがMUBIの配信で判明。しかもそれが、かつて大阪アジアン映画祭で上映されていたと知り熱くなる。夫婦で一つしか土地が所有できない法律を掻い潜るために偽装離婚したものの、無かったことにされてしまった女の不屈の訴えがやがて国家を動かすまでの事態に発展していく話。絵画的に構成された○画面が正方形になることで、まるで『Mommy/マミー』のような心理的開放を表現することに成功している。そして、『Mommy/マミー』以上に画郭変化に重要な意味を与えており、正方形がさらに広がり、また絵画的構図を取り始めることを通じて、歴史に名を刻んだ瞬間を表現する。この技術に「その手があったか」と唸らせられた。どのショットもカッコいい映画。大阪アジアン映画祭止まりなのが勿体無い作品である。
5.ストレンジ・リトル・キャット(Das merkwürdige Kätzchen/Strange Little Cat,2013)
監督:ラモン・チュルヒャー
出演:ジェニー・シリー、アンジョルカ・ストレチェル、ミア・カサロ、ルク・ファフ、マタイアス・ディトマーetc
フルクサスのワークショップを開いたラモン・チュルヒャー監督がタル・ベーラと出会い、『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』と出会う。その奇妙な巡り合わせから生まれた本作の独特な動きに目を奪われる。断片的な会話と、計算された密室で動く膨大な人。これはフルクサスにおける、コードに従って日常を再現することで、日常に芸術性を見出す「イベント」の概念を踏襲していると言える。そんな「イベント」的質感を持つ本作は、キャッチボールにもドッジボールにもならない言葉のやり取りを通じて、冷たき家族の肖像を暴き出す。停電といったハプニングが起きても、親密さが一定距離を保っているところが重要なポイントとなっている気がした。
6.サドのための絶叫(Hurlements en faveur de Sade/Howlings for Sade,1952)
監督:ギー・ドゥボール
今年の3月に、にじさんじライバーの物述有栖が5時間に渡って寝ている自分の心音を聴かせ続けるASMR動画に衝撃を受けた私が映画の観点から分析する時にたどり着いた一本の映画『サドのための絶叫』。断片的な読み上げがなされる白画面と、無音の黒画面が交互に展開され、最終的に24分間の静寂が包み込むこの作品は、ジョン・ケージ「4分33秒」に近いものを感じた。無を通じて周囲を意識せざる得ない状況を作り出すのだ。一般的に視覚メディアである映画から視覚的なものを取り除いた作品としてはデレク・ジャーマン『BLUE ブルー』が有名だが、こちらは読み上げと無音を交互に展開する運動によって、より周囲への意識を強調することに成功している。なお、物述有栖のASMR動画について語ると長くなるのでここでは割愛する。
7.ヌーヴェルヴァーグ(Nouvelle Vague,1990)
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:アラン・ドロン、ドミツィアーナ・ジョルダーノ、ロラン・アムステュツ、ラファエル・デルパールetc
今年は、吉田喜重、ジャン=マリー・ストローブ、青山真治など映画界の大御所が次々と亡くなった年であった。そして、映画を2本作ると語っていたジャン=リュック・ゴダールも亡くなった。ゴダール映画とは久しく距離を置いていたのだが、久しぶりに『ヌーヴェルヴァーグ』を観たらこんなに面白いのかと感動した。倫理なき国家によりシステマティックに蹂躙されていく個の叫び。国家側だった個が手を差し伸べることで、国家とは個人の集合であり、個人の運動一つで世界を変えることができるという希望を美しく描く。横移動で文字通り「新しい波(=Nouvelle Vague)」を表現する一発芸の面白さもあり再評価に至った。
8.絶壁の彼方に(State Secret,1950)
監督:シドニー・ギリアット
出演:ダグラス・フェアバンクス・Jr、ウォルター・リラ、ジャック・ホーキンス、グリニス・ジョンズ、ハーバート・ロムetc
Amazon Prime Videoにて大量追加されたジュネス企画映画。その中から面白い修羅場映画を見つけることに成功した。独裁国家に呼ばれて手術をする。しかし、患者は死亡する。その患者は首相だった。修羅場レベル100な極限状態。男は逃げる。こういう時、決まって袋の鼠になるような場所に駆け込んでしまうものであり、男は地下の床屋に逃げる。観ている方は、主人公同様、いつ捕まってもおかしくない状況にハラハラさせられる。水平、垂直の運動の末に行き着く絶壁。この高低差を活かしたアクションの切れ味も含めてとても面白かった。
9.炎(Sholay,1975)
監督:ラメーシュ・シッピー
出演:アミターブ・バッチャン、サンジーヴ・クマール、ヘマ・マリニ、ジャヤー・バッチャン、アムザード・カーン、ダーメンドラetc
高校時代に「101 CULT MOVIES」で存在を知ってから追うこと早10年。JAIHOにてついにその姿を表したインド映画は冴羽獠さながらのクールなガンアクションを披露するアミターブ・バッチャンに魅了されるのはもちろん、ホーリー祭でピンクに染まる村が敵の襲来で散り散りとなり、遊具に追い詰められた状態から始まる観たこともないような戦闘と見所が満載。これがエンターテイメント超大作だと叩きつけんばかりの熱量と業火。10年探し続けた甲斐がった。
10.Tilva Rosh(Tilva Roš,2010)
監督:Nikola Lezaic
出演:Marko Todorovic,Stefan Djordjevic,Dunja Kovacevic etc
労働者、大人たちがデモを行う中、進学か就労かの淵に立っているモラトリアムな学生の開けているような閉じられているような世界観を表す、廃墟でのスケボー、YouTuberなんてなかった時代の内輪だけのホームビデオの質感が感傷的な気分にさせられる。感傷的な青春映画には、大人や社会への反抗の火柱がスパイスとなる。おっさんとのストリートファイト、スーパーにぬるっとスケボーで侵入する場面がそれを盛り上げる。青春映画はいつだって若かれしころの甘い停滞時間の味を思い出させてくれる。
11位以下
11.猫に裁かれる人たち(Až přijde kocour/When the Cat Comes,1963)
12.逮捕命令(Silver Lode,1954)
13.白い鳩(Holubice/The White Dove,1960)
14.Keiko(1979)
15.風の電話(2020)
16.ピーター・グリーナウェイの枕草子(The Pillow Book,1996)
17.耳をすませば(1995)
18.アメリカン・ポストカード(American Torso/American Postcard,1975)
19.ANIARA アニアーラ(Aniara,2018)
20.必殺!恐竜神父(The VelociPastor,2018)