『斧』失業なう、求職中、ライバルは銃でナイフで消してしまえ!

斧(2005)
Le Couperet

監督:コスタ=ガブラス
出演:ジョセ・ガルシア、カリン・ヴィアール、ジェオルディ・モンフィルetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

Amazon Prime Videoを漁っていたら、Filmarks未掲載のコスタ=ガブラス映画『斧』を見つけました。コスタ=ガブラスといえば政治ドラマ『Z』や『戒厳令』が有名である。個人的に政治批判色がメインに出過ぎていて、映画としてはあまり面白くないと思っていた。しかし、『斧』を観ると、政治批判とサスペンスの塩梅が絶妙でとても面白かった。

『斧』あらすじ

ある化学者(ガルシア)は、アウトソーシングによって仕事を失ってしまう。 2年経っても仕事がない彼は、純粋にライバルを排除するという解決策を思いついた。

Amazon Prime Videoより引用

失業なう、求職中、ライバルは銃でナイフで消してしまえ!

大企業は、コスト削減のために工場を海外に移転させることがある。本作で登場する製紙会社は、コスト削減のためにルーマニアに工場を移転する。主人公はその流れで、勤続10年以上の代ベテラン技術者にもかかわらず解雇されてしまう。2人の子供と妻を養う必要がある。しかし、求職しても中々仕事に在りつけない。プライドもあり、アルバイトすることもできない。フラストレーション溜まる彼は、製紙会社の中途採用に応募する人の情報をハローワークで入手して暗殺することにする。

しかし、素人チキンやろうなので、どの暗殺もガバガバとなってしまう。本作は、ヨーロッパにおける工場移転に伴う失業問題をテーマに、普通のサラリーマンが殺人を犯していく様子をスタイリッシュに描いている。冒頭から暗殺シーンが挿入されるのだが、そこにはセリフはない。ジャン=ピエール・メルヴィル映画のように、主人公が対象に眼差しを向けて、じっくり殺しを実行していく過程が描かれる。しかし、これがガバガバだから観る者はハラハラドキドキさせられる。車で追跡して銃を向けるのだが、手ぶれが激しくて、中々照準が定まらない。ながら運転をしているので、交通事故を起こしかける。てんやわんやしている中で、対象を轢いてしまう。銃殺をするように思わせて轢き殺す演出は面白い。

同様に、レストランに入る対象を外から張り込みし、そのまま列車内での追跡へと展開され、やがてショッピングモールの試着室内で殺すか殺さないかのサスペンスへと発展していく過程は凄まじい。ようやく試着室で対象と二人きりになるのだが、距離を上手く取れず、デカいナイフを服の中や尻に隠しながら、殺すタイミングを狙っていく展開は、狭い空間ながらも的確に武器と人間の距離感を捉えていく。

終盤には家族と一致団結して罪を隠し始め、それにより家族仲が修復されていく。映画ならではの倫理観の逸脱を通じて、家族仲が修復されていく展開に映画を観た多幸感を得た。隠れた傑作だといえよう。

※MUBIより画像引用