すべてうまくいきますように(2021)
原題:Tout s’est bien passé
英題:Everything Went Fine
監督:フランソワ・オゾン
出演:ソフィー・マルソー、アンドレ・デュソリエ、ジェラルディン・ペラス、シャーロット・ランプリング、ハンナ・シグラ、エリック・カラヴァカ、グレゴリー・ガドゥボワetc
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第74回カンヌ国際映画祭コンペティション作品に選出されたフランソワ・オゾン『すべてうまくいきますように』。彼の撮る作品のジャンルは多種多様であり、『彼は秘密の女ともだち』のような官能サスペンスを撮ったかかと思えば、バカンス映画『Summer of 85』や実録もの『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』を作る。さらにはエルンスト・ルビッチ『私の殺した男』やライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』のリメイク的作品を放つ。そんな彼がカンヌで発表したのは安楽死を巡る物語だった。日本公開2023/2/3(金)に決まっている本作をキノフィルムズさんのご厚意で一足早く拝見したので感想を書いていく。
『すべてうまくいきますように』あらすじ
芸術や美食を楽しみ、ユーモアと好奇心にあふれ、何より生きることを愛していた85歳の父アンドレが突然、安楽死を願う。脳卒中で倒れたことによって、身体の自由がきかなくなったという現実が受け入れられず、人生を終わらせるのを手伝ってほしいと娘のエマニュエルに頼んだのだ。小説家のエマニュエルは妹のパスカルと、父の気が変わることを望みながらも、スイスの合法的に安楽死を支援する協会とコンタクトをとる。一方で、リハビリが功を奏し日に日に回復する父は、孫の演奏会やお気に入りのレストランへ出かけ、生きる喜びを取り戻したかのように見えた。だが、父はまるで楽しい旅行の日を決めるかのように、娘たちにその日を告げる。娘たちは戸惑い葛藤しながらも、父と真正面から向き合おうとする──。
俺は死を選ぶ、私は選ばせない、私は生を仕向ける
ソフィー・マルソー演じるエマニュエルは家を出ようとするが一旦、洗面所に戻りコンタクトを着ける。まるで、これから起こる大変な問題を直視するかのようにコンタクトレンズを着けるのだ。父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)は、身体が動かなくなり、記憶も少し曖昧になりつつなる中で静かに死を待つのなら、安楽死を選びたいと語る。しかし、フランスでは安楽死はできない。そしてアンドレの周囲にいる人々の間でも様々な思惑が交差する。本作は原題”Tout s’est bien passé”が「すべてがうまくいった」と語っている通り、アンドレの安楽死自体が重要なのではなく、その過程に力点を置いている。
悲しみと静けさが包む空間の中で、個々の思惑がぶつかり合いながら、Xデーへと向かっていく。その駆け引きが興味深い作品となっている。例えば、フランスの病院サイドは、患者を生かすことが仕事となっている。だから、アンドレの死への願望を逸らそうと、抗鬱剤を仕向けたり、複雑な手順でもってスイスでの安楽死を阻止しようとする。
当然ながら娘エマニュエルも感情が揺らぐ。頑固で決して人格者とは言えない父。安楽死、望むところだとは思うも、夢で父を射殺する様子が浮かび上がることでハッとする。自分がやっていることは殺人なのではないかと。それでも長年、接してきて彼の気持ちが変わることはないだろう。だったら自分の手で坦々と手順をこなすしかないと思い始める。
そんな彼女の前には、彼の死を止めようと刺客が現れる。誰も悪役はいない。それぞれの正義と哲学の中で、この死と向き合う。しかし、それが事態を複雑化し、痛みと共に長い時を刻み込んでいく。さて、この状況下でアンドレの本心に最も歩み寄っているのは誰か?アンドレはどのような眼差しを周囲にむけているのだろうか?
フランソワ・オゾンが静かに観客へ投げかける問い。それが2022/2/3(金)公開『すべてうまくいきますように』なのである。
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※映画.comより画像引用