#2022年上半期ベストYouTube動画ベスト10

#2022年上半期ベストYouTube動画ベスト10

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2022年もあっという間に半分が過ぎました。みなさん、いかがお過ごしでしょうか?私の上半期映画ベストテンは、2022/7/9(土)20時からのスペースにて発表します。今回は、その前夜祭としまして上半期に観て面白かったYouTube動画ベスト10について発表していきます。

私は、映画と同じくYouTube動画が大好きで、それこそ中学生の時から試験前は勉強よりYouTubeを観ていました。それこそ、MEGWINが毎日のように動画をアップしていた時代から、HIKAKIN、はじめしゃちょーの台頭。YouTuberが社会的に認知されるようになり、すしらーめん《りく》、東海オンエア、デカキンなどといった勢力が現れた流れをリアルタイムで観てきました。

YouTuberの動画は通俗さ故に、真剣に分析されていない印象が強いが、よくよく観ていくと高度なことをしている。特に最近ではアニメのキャラクター(アバター)を操作して顔出しせずに配信するVTuberがテレビ顔負けの配信をしている、また、「にじさんじ」という団体は「パリピ孔明」ばりのアグレッシブな配信戦略でもってファンのコミュニティを増やしており、この様子はコミュニティ作りに苦戦しているように見える映画業界の参考になるとみている。

さて、そんな私が選ぶ2022年上半期ベストYouTube動画はなんでしょう?

レギュレーションとして、ひとつのチャンネルひとつの動画で選出しております。

1.松平健『マツケンサンバ』歌おうとしたら…


チャンネル名:ガーリィレコードチャンネル

1967年にジム・マクブライドはYouTuberの配信動画の原点ともいえる『デイヴィッド・ホルツマンの日記』を制作した。しかし、YouTuberが日常に浸透した2020年代において、この作品のような立体的な空間で撮影したような動画はあまりない。文字テロップに頼り、狭い部屋でのっぺりした構図の中、語る作品があまりに多すぎる。そんな中、ガーリィレコードチャンネルは文字テロップカットに頼らず、フェニックスが切り取るユニークな構図でもって、狭い部屋を豊かな空間に仕上げる。私が衝撃受けたのはこのマツケンサンバネタだ。

一見するとよくある背景が壁の中二人が喋っているだけの動画に見える。しかし、雨野宮将明と秋山太郎が扉を開け、中を覗き込むと黄金を纏った高井佳佑がうろ覚えのマツケンサンバを歌い踊り狂う。ガーリィレコードチャンネルが生み出した、扉を使った奥行き構造、扉の先に作り出す異界の構図はヴェチェッリオの「ウルビーノのヴィーナス」を彷彿させる空間の豊かさがある。10年以上YouTube動画を毎日のように観ているし、映画も今まで1万本近く観てきたが、この構図を生み出し、そして笑いとしてものにしてしまうのは初めて観た。今年の上半期初期は、ガーリィレコードチャンネルにハマり、cinemas PLUSさんで布教記事を書いたぐらいに夢中になりました。また、フェニックスのカメラワークの鋭さにも注目していただきたい。確実に決定的瞬間を仕留める彼のカメラワークを観ると、映画撮ってほしいなと思わざる得ない。

2.【ASMR/DummyHead】世界に1つだけのダミヘで甘々Valentine🍫whispering binaural【物述有栖】【にじさんじ】


チャンネル名:♥️♠️物述有栖♦️♣️

私がYouTube動画を漁っている時、何気なくASMRで検索したところ、不思議の国のアリスをモチーフにしたキャラクターが5時間に渡って心臓音を聴かせ続ける動画を見つけた。これがVTuberという異界を開くきっかけとなった。アンディ・ウォーホル『SLEEP』を再現し、10万回以上再生され、コメントも好意的な異様な光景に惹かれ、私は物述有栖の動画を観るようになった。ゴツいトラックを運転しながら雑談する動画カラオケのデュエットを擬似的に生み出す動画、彼女のユニークな動画は私を虜にしたのだが、一番強烈だったのはバレンタインデーのASMRだった。

「グッドイブニーング、おまたせー」

と現れ、2時間半に渡り、凄まじい手数で魂を奪っていく。特に50分付近の畳み掛けるような囁きは、何度聴いてもドキドキします。そして、ギー・ドゥボールが映画(=映像メディア)におけるスペクタクルを切り離すため、白画面に断片的な発声を載せたものと黒画面の無音を交互に挿入した『サドのための絶叫』を発表したが、ASMR動画は画と音は接着と乖離を繰り返すスペクタクルだと証明した。画はあまり観ることはないだろう。しかし、瞳を開ければ、目の前に大写しになった彼女の顔がある。まるで隣にいるような距離感が独特な体験を与える。また終盤になると、音楽作りに対する独白が始まり、前半のトーンから想像もつかない親密さの次元へと連れて行く。この距離感については映画を分析する上で今後、活かされそうな知見となった。

3.え〜今日の晩御飯ゴーヤチャンプルか代


チャンネル名:油粘土マン

人間はせっかちとなり、刹那の時間でどれだけ満足を得られるかを求めるようになった。それは切り抜き動画やファスト映画の需要を見れば明らかだろう。さてYouTube動画においてある変化を昨年末あたりから感じた。それは1~2分程度でコントをしたり解説をする動画が増えたことだ。1分で遊戯王カードを紹介する「よっちーの闇のゲームチャンネル」、闇遊戯とマリクのモノマネコントをメインとする「闇あかめくんch【遊戯王声真似】」、トーマスの物語を独自にナレーションする「かわなみのアフレコ」を見つけた。いずれも1分程度で確実にオチまで持っていく華麗な編集さばき、会話捌きがが魅力的だ。短い動画が主流となりつつある時代における人間の進化を観ているような気にさせられるのだが、中でも凄まじいのは油粘土マンだ。「タネマシンガンを撃つウソッキーのモノマネ」のように、存在しないであろう事象に対して「モノマネ」と称する謙虚さに反して毎回、衝撃的な画を叩きつけるこのYouTuberの最高傑作は、日本の国歌「君が代」に自分のゴーヤチャンプル茶番劇をサンプリングした動画だろう。

1970〜80年代にニューヨーク、サウス・ブロンクスで生まれたヒップホップカルチャーは、既存の音楽をサンプリングして新たな音楽を生み出していたが、これは違う。既存の曲、それもよりによって国歌に切り刻み、引き伸ばした茶番を乗せていくのである。「さざれいしの」に「苦い、イボい、WHY?」を重ねる独創性。そして、ふにゃふにゃ動く油粘土マンの全身を使った感情表現の豊かさに、ノックアウトされました。なお、油粘土マンの動画は全身を巧みに使ったアクションをスタイリッシュに魅せていくため、音を消しても楽しめる。つまりサイレント映画のようなパワフルな画に満ち溢れているのだ。

4.名取さな – モンダイナイトリッパー!【オリジナルソング】


チャンネル名:さなちゃんねる

名取さなのオリジナルソング「モンダイナイトトリッパー」、擬音、リエゾン、言葉遊びをふんだんに詰め込んだ歌詞の魅力を引き出すようにピンクに彩られた高密度な世界を敷き詰めていく。スマホ、パソコンから世界に飛び出しどこまでも行ける様子をウィンドウからウィンドウへと駆け抜ける疾走感で表現。そして、お気に入りのチャンネル動画は何度も観ることを象徴するように、同じ画を畳みかけるように反復させていく。コロナ禍で現実での行動は制限された。しかしながら、インターネットなら宇宙も未来も駆け巡れアラウンド・ザ・ギャラクシー。悲惨な時代に輝く花のようなミュージックビデオであった。ちなみに、歌詞でいうとサイコーなTripper、創造なTripperとさりげなく名取さなと掛けているところが個人的に好きなところである。

5.ピーナッツくん 『 グミ超うめぇ 』Official Music Video / Album “False Memory Syndrome”


チャンネル名:ピーナッツくん!オシャレになりたい!

VTuber、アニメーターそして、ゆるキャラ王者であるピーナッツくんの代表曲である「グミ超うめぇ」のミュージックビデオもまた、画と音楽のマリアージュが魅力的である。グミの海で踊るピーナッツくんはチャンチョと共にベルトコンベアへと乗せられる。工場のオートマティックに出荷まで突き進む魅力を宿しながら、型が取られ、色彩を与えられていくグミと共に道中を進む。ジェットコースターのようなゴンドラに乗ると、ディズニーシーのアトラクションのように、予測不能な動きをしながら怪物と対峙するのだ。工場の魅力から、遊園地のようなスペクタクルへと遷移する。それはグミという工場で作られたものを一度口にすると異世界の扉が開かれる様子の象徴と捉えることができるだろう。

また、歌詞もユニークだ。グミを讃える歌なのだが、「最後の晩餐もグミ食べたの誰かで揉めているキリスト」と壮大な物語につなげているところが面白い。ピーナッツくんの想像力の高さがうかがえる。ピーナッツくんは自分の心情の言語化にも長けており、「Fulltracker」において「Windows ノーパソ RTX1080 はじめてみたピーナッツ3Dが動くとこ無我夢中 小さい画面でみる僕をブルーライトに呑み込まれるよ」と、VTuberとして自分の像が動いた時の興奮を韻を踏みながら語る様子には涙しました。

6.絶対地球破壊したいのばまんVS絶対物語を終わらせたくないAI


チャンネル名:のばまんゲームス

軟禁コースターで知られる令和版緑の悪魔こと「のばまん」は、様々なシミュレーションゲームで知的に大殺戮、拷問を行う。この冷静な語りと、笑いの狂気に毎回惹き込まれる。そんな「のばまん」が、AIのべりすとを相手に小説を書く回があるのだが、機械学習の恐ろしい側面を10分で実演している。

なろう系小説を書かせようとするAIに対して、土星の大きさの隕石を地球にぶつけて物語を終わらそうとするのばまん。AIは夢オチにして、再度物語を展開しようとするが、のばまんが執拗に土星の大きさの隕石を地球にぶつけようとする。すると、やがてAIも隕石を物語に組み込み始めるのだ。これは機械学習において、意図的に大量の情報を学習させることにより自分の思い通りに操れることができることを証明している。まだこれはAIのべりすとだから笑って過ごせるが、AIが悪用されることによる恐ろしさに警鐘を鳴らしているといえる。のばまんは、目の前のものを変った目線から動画化する傾向があり、VTuverがアバターの仮面を被って活動する中、生身の自分を素材として仮想世界に送り込む動画を作っており、VTuberとは何かを考えるきっかけを与えてくれる。

7.ガチ恋ぽんぽこ、出馬します。


チャンネル名:ぽんぽこちゃんねる

VTuberの多くは、雑談やゲームの実況配信を行うスタイルだが、甲賀流忍者!ぽんぽことピーナッツくんのコンビは、基本的に従来のYouTuberのような商品紹介やドッキリをする10分程度の動画を配信している。ふたりはVTuberとリアルYouTuberの狭間で何ができるのかを常に考えており、その中で、着ぐるみやぬいぐるみ、アバターを織り交ぜた動画を作る。VTuberの中で最も現実と仮想を行き来する存在である。さて、そんなぽんぽこチャンネルにおいてVTuberの特性を活かした動画を見つけた。それはガチ恋ぽんぽこさんシリーズだ。

通常は男勝りな話し方をするぽんぽこさんが、恋に恋するギャルを熱演する動画群である。アバターを変えることで、全く別人になることができるVTuberの特徴を捉えている。そんなガチ恋ぽんぽこが、ピーナッツくんに賭け事をけしかける動画が「ガチ恋ぽんぽこ、出馬します。」である。3つの競技に対してピーナッツくんが優勝候補を選ぶのだが、1試合目から驚愕である。3人に分身したガチ恋ぽんぽこが、辛ラーメン、たこ焼き、そしてスコーピオンを食べる。どのガチ恋ぽんぽこが、一番最初に完食するのかを当てる。3人同時に始まる食レポ。しかし、自ずと誰のセリフか分かる編集。そしてピーナッツくんの鋭いツッコミのアンサンブルが面白い。個人勢VTuberが仮想空間に世界を作り、バラエティ番組顔負けの企画をサクッと作れてしまうことに脱帽である。そして兄妹共にVTuberから大型フェスに参戦するぐらいの大物になっていくドラマに脱帽する。私がもっとも応援しているVTuberグループの一つである。

8.【3D】 #森中花咲誕生日3Dライブ2022 ~もっと私の歌を聴け!!~【森中花咲/にじさんじ所属】


チャンネル名:森中花咲

にじさんじのライバーは定期的に3Dライブを行う。特設の仮想空間で、全身がぬるぬる動く。現実よりも可動域は狭いにもかかわらず、仮想世界で自由に遊ぶライバーたちの姿を観ると、デヴィッド・クローネンバーグの世界のようにみえる。仮想世界は、自然が与えた物理法則と比べ、物理法則を意図的に作り出すことができる。3Dライブではその恩恵を受けており、様々な実験ができる。にじさんじの3Dライブでの実験精神は、そのまま映画に転用できるレベルに到達しており、森中花咲の3Dライブにおける壁からヌルッと飛び出す剣持刀也、姿形、大きさまでもが変わり、小さくなった身体を使ってバラエティ番組のような企画を行う森中花咲の姿に魅了された。ここまで身体とアバターがシンクロするならば、日本でも2019年の『ライオン・キング』のような映画が作れると思う。にじフェスでは演劇に挑戦するようだが、数年以内に映画を作り始めるんじゃないかと期待している。他のライバーだと、でびでび・でびるや周央サンゴの3Dライブもアイデアの宝庫と言えよう。


9.サカナクション / ショック! -Music Live Video-


チャンネル名:サカナクション sakanaction

サカナクションのこのミュージックビデオは明らかにトーキング・ヘッズのライブ映画『ストップ・メイキング・センス』の面影を感じる。リポーターがマイクをサカナクションに向けるも、無視され苦笑いする彼女。やがて山口一郎がステージから降り、デイヴィッド・バーンのようにカメラに向かって歩き始める。レポーターと共に横移動すると、断絶されているはずのスタジオに山口一郎が侵入していき、謎のダンスを伝播させていく。スマホ画面、テレビ画面の外側で他人事だと思って観ているものが、目の前の事象に影響され無意識にコントロールされていくメディアの側面をスタジオと舞台、スマホを見る者とニュースの関係性で風刺し、バイブスを上げていくこの視点はサカナクションのミュージックビデオの中でもトップクラスの切れ味を誇っている。

10.【初配信】壱百満天原サロメですわ!!!【ですわ】


チャンネル名:壱百満天原サロメ / Hyakumantenbara Salome

デビューするなりあっという間に登録者数100万を達成した大物新人ライバー壱百満天原サロメ。彼女の成功の裏には、「パリピ孔明」さながらの戦略的な魅せ方があるだろう。彼女の個性を活かしつつ、丁寧着実にファンを増やしていく様子に「にじさんじ」5年分の集大成を感じる。さて、VTuberを研究する者にとって壱百満天原サロメの初配信は、文化を知るのに最適な例であろう。VTuberの配信は、ライバーの語りだけが全てではない。Twitterや配信のコメント含めて一つの作品である。動画の外側での文化作りが重要視されるのだが、彼女の場合最初の配信の時点で、イラストやコメント用のハッシュタグを定義し、リスナーの動線を確保している。

また、趣味を紹介するコーナーでは8つの趣味を並べ「このうちの2つだけが本物の趣味ですわ」と語り、リスナーの興味を掻き立てる。そして気を衒った要素として、自分の内面を見てもらおうと、胃カメラの画像を魅せる。強烈なインパクトと、興味の持続のさせ方。とても初配信とは思えない手慣れた語りのドライブ感が凄まじいのである。

極め付けは行動予定表だ。日程がぐちゃぐちゃとなっている且つ7日中6日が「バイオハザード7」という狂いようを魅せている。そして1日だけ「みじかいゲーム」と書くことで、リスナーは「何をやるのだろう」と好奇心がくすぐられる。実際に行われたゲーム選びがこれまた秀逸であり、トラックを運転するシミュレーションゲーム「Euro Truck Simulator2」であった。物述有栖の配信を観ると分かる通り、このゲームは雑談と相性が良い。ゴツいトラックをお姫様が運転する珍しい光景も観られるため、バイオハザード週間の合間の息抜きにはこれ以上にない最適ゲームと言えよう。実際に、壱百満天原サロメの淀みないボケの切れ味もあり本動画は2022/6/27時点で180万回再生以上を叩き出した。

最後に

YouTube動画のカジュアルさ故、どうしても短い時間に要素や技巧を詰め込むミュージックビデオが多くなってしまうのだが、今回のベストはこんな感じとなりました。VTuberの動画は面白いけれどもブログで紹介しにくいハードコアな領域もあれど、全体的に映像表現で何ができるかの探求精神に満ち溢れていると思います。私は毎年のように『映画 おかあさんといっしょ』シリーズをはじめとする子ども映画こそ映像表現の宝庫だと叫んでいますが、VTuberの動画も同様に劇映画に応用できるであろうアイデアに溢れた金脈だと思いました。にじさんじを運営するANYCOLOR株式会社は上場するなり株価が鰻登り滝登りとなっており、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のような激しさとなっている。個人的には、映画業界、それこそ白組とタッグを組んで映像技術を発展させ、日本のしょっぱいVFX技術改善に繋がってほしいなと思う。

さて下半期はどんなYouTube動画に出会えるか楽しみだな。

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