バッド・ブラック(2016)
BAD BLACK
監督:ナブワナIGG
出演:Bisaso Dauda,Nakaye Jane,Kabuye John,Alan Hofmanis,Nattembo Racheal Monica etc
評価:90点
かつて、クエンティン・タランティーノは黒人の黒人による黒人のための映画であるブラックスプロイテーション映画を劇場で観て衝撃を受けたらしい。そして、後にブラックスプロイテーション映画の名優パム・グリアを主演に『ジャッキー・ブラウン』を撮った。ウガンダ、ワカリウッドの混沌としたエンターテイメント映画を観た私はまさしくタランティーノが受けた衝撃に近いものを感じている。新宿ピカデリーにて開催の「エクストリーム!アフリカン・ムービーフェスティバル」で『クレイジー・ワールド』の後に観た『バッド・ブラック』も強烈な作品であった。
『バッド・ブラック』あらすじ
アフリカ、ウガンダの映画製作会社ラモン・フィルム・プロダクションによる“ワカリウッド”映画の1作で、ワカリウッドを代表する鬼才ナブワナIGGがメガホンをとったアクション映画。ウガンダのスラム街で働く医者アランは、ひょんなことから軍人と間違われ、バッド・ブラックと呼ばれる女に金品を奪われてしまう。復讐を誓ったアランは弟子の子どもにカンフーを学び、バッド・ブラックのもとへ向かうが……。「エクストリーム!アフリカン・ムービーフェスティバル」(2021年9月3日~/東京・新宿ピカデリー、大阪・なんばパークスシネマ)上映作品。
ワカリウッドのウェズリー・スナイプス兼ミヤギ師匠がアメリカ人をコマンドーにする話
ウガンダではシュワちゃんのことを「スワズ」というらしい。
貧しさから子どもと共に銀行強盗するスワズはたちまちカーチェイスに巻き込まれる。激しい銃撃戦の中で、スワズは業火に包まれ、本編が始まる。ウガンダのスラム街は壮絶だ。『ウエスト・サイド・ストーリー』や『ロミオとジュリエット』の一つや二つは当たり前に勃発し、街中でストリートファイトが繰り広げられる。それに巻き込まれた八百屋の人は、売り物がなくなってしまい泣き崩れている。子どもたちは、道で物乞いをする。心優しい人がお恵みを与えるが、盗んだものだろうと大人に虐められる。孤児たちは狭い空間に押し込められ、親分の金稼ぎの道具として扱われる。ネオリアリズモ的生々しい貧困の姿が捉えられており、ある種のウガンダ社会のドキュメンタリーとなっている。
本作は相変わらず、天の声の滑稽なナレーションに従い進行するのだが、社会派の要素を強めており、ウガンダ深部の問題を辛辣に描いていく。例えば、男が新しい女を連れ込み、親の前で「俺はこいつと結婚する」と豪語する。しかし、彼女は、かつて男がヤるだけヤッて放置した女の娘であった。親に言われるまで気づかない惨さは壮絶である。
また、前作以上に平等な死が隣り合わせとなっている。スラム街にとって、一瞬の迷いは死に直結する。だから、女の子が搾取する大人から銃を奪い取るとあっさり射殺したりする。カンヌ国際映画祭で上映され、スノッブな批評家たちにもてはやされるアフリカ映画よりもよっぽど問題に向き合っていると言える。
そして、本作は娯楽映画である。無茶苦茶なギャグがメインとなる。ワカリウッド映画が好きすぎてウガンダに移住してきたアメリカ人アラン・サリ・ホフマニス演じる医者とウガンダのウェズリー・スナイプス兼ミヤギ師匠(こども)とのかけあいが、初期の「家庭教師ヒットマンREBORN!」さながらの豪快さである。
「ネックレス付けている。お前コマンドー。修行しよう。」
と少年はヘナチョコな医者に熱血指導する。容赦無く、石を投げつけ、ビンタを食らわせる。
「そんな缶詰食ってないで、ウガンダ飯を食え!」
とグチャっとした謎のご飯と、恐らく水溜りから掬ったであろう泥水を差し出し、アメリカ人を困惑させる。
だが、そんな修行を経た彼はシュワルツェネッガーさながら筋肉モリモリマッチョマンとなって復活を遂げ、敵のアジトに殴り込みに行くのだ。
そしてMCUばりにワカリウッド映画のキャラクター、例えば『クレイジー・ワールド』のブルース・Uなどが参戦し、天の声が「スーパー座頭市キック、スーパーゴジラ」と無茶苦茶な造語を連発しながら、激しい銃撃肉弾戦が展開される。
まさしく、混沌のウガンダから醸造される極上の社会派エンターテイメントでありました。
ワカリウッド映画
・【ウガンダ映画】『クレイジー・ワールド』自称ウガンダのコール オブ デューティ
アフリカ映画関連記事
・【MUBI】『KETEKE』出産まであと僅か!鴛鴦夫婦は荒野を大爆走!
・【アフリカ映画研究】「Samba Traoré」ブルキナファソ映画を観てみた
・TIFF2016鑑賞映画15「護送車の中で」護送車の中から観るエジプト98分(最終回)
・【カンヌ国際映画祭特集】「掟 Tilaï」審査員特別賞グランプリ受賞のブルキナファソ映画
・『Yomeddine』ハンセン病患者と少年の旅、時折《手錠のまゝの脱獄》にやっすい着地点
・【カンヌ国際映画祭特集】アフリカ映画「ひかり」はドラクエでありSWだった件
・【Netflix】ナイジェリア映画「オクラを買いにいかせたら(GONE TOO FAR!)」が大大大傑作だった件
・【アフリカ映画】『マカラ/Makala』コンゴにおける迂闊な値切りは命取りだ!
・【アフリカ映画】『U-Carmen eKhayelitsha』金熊賞獲ったのに日本未公開?コサ語で語られる新しいカルメン
・【アフリカ映画】『ラフィキ:ふたりの夢』ケニアで上映禁止になった同性愛映画!歴史的重要作だが、、、
・【アフリカ映画研究】『黒人女…』アフリカ初の長編映画に挑戦
・【アフリカ映画研究】「XALA」勃たなくなったら人生終了のセネガル産ブラックコメディ
・【アフリカ映画研究】「母たちの村」意外とバレるかバレないかサスペンスの傑作だった件
・【死ぬまでに観たい映画1001本】『メートル・フ』悪意ある泡吹くガーナ人像
・【アフリカ映画】『IN THE NAME OF CHRIST』コートジボワールの不穏すぎる儀式
※映画.comより画像引用