『バイス』釣りをする者も釣られている?日本でも作られてほしい政治コメディ!

バイス(2018)
VICE

監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェルetc

評価:60点

第91回アカデミー賞8部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、編集賞)ノミネートし、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した政治コメディ。湾岸戦争、イラク戦争を仕掛けた黒幕ディック・チェイニーの生き様を描いた作品だ。

日本では、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』のような正統派社会派映画ですら全く作られない。それだけに、ここまでクレバーにフリーダムに政治を茶化し、尚且つ知られざる政界の裏側を魅せていく作品が作られ、アカデミー賞で多数ノミネートされる様を目撃すると羨ましく思う。ザ・ニュースペーパーがお茶の間で自由に暴れる世界にしないと日本に明日はないなと思う。

監督のアダム・マッケイは『マネー・ショート 華麗なる大逆転』に引き続き、メタ的演出と畳み掛けるような編集で政界を風刺しているようだが果たして…

『バイス』あらすじ


「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のスタッフ&キャストが再結集し、ジョージ・W・ブッシュ政権でアメリカ史上最も権力を持った副大統領と言われ、9・11後のアメリカをイラク戦争へと導いたとされるディック・チェイニーを描いた社会派エンタテインメントドラマ。1960年代半ば、酒癖の悪い青年だったチェイニーは、後に妻となる恋人リンに叱責されたことをきっかけに政界の道へと進み、型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドの下で政治の裏表を学んでいく。やがて権力の虜になり、頭角を現すチェイニーは、大統領首席補佐官、国務長官を歴任し、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領の座に就くが……。これまでも数々の作品で肉体改造を行ってきたクリスチャン・ベールが、今作でも体重を20キロ増力し、髪を剃り、眉毛を脱色するなどしてチェイニーを熱演した。妻リン役に「メッセージ」「アメリカン・ハッスル」のエイミー・アダムス、ラムズフェルド役に「フォックスキャッチャー」「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のスティーブ・カレル、ブッシュ役に「スリー・ビルボード」のサム・ロックウェルとアカデミー賞常連の豪華キャストが共演。第91回アカデミー賞で作品賞ほか8部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。
映画.comより引用

『ザ・マスター』との関係性

さて、本作は面白いことにポール・トーマス・アンダーソンの『ザ・マスター』と似た構造を持っている。『ザ・マスター』は教祖の話かと思いきや、彼を操る謎の男の話であり、しかもその男もまた操られようとするといった内容だった。

本作もVICE(=副大統領)ことディック・チェイニーがブッシュ大統領を操る話かと思いきや、その裏にさらに黒幕が手を引くという内容だった。VICEが《副大統領》という意味の他に《悪徳》という意味を持っている為、ディック・チェイニーの悪業を茶化すように思っていたら、意外と違う視点を魅せてくれるのが肝だ。

キーとなるのは、《フライフィッシング》。チェイニーは、まるで釣りをするようにブッシュを始め政界の人物を思うままにコントロールしようとする。しかし、あくまでチェイニーにとって政治は趣味でしかない。悪人というよりかは、自分が正しいと思うこと、やりたいと思うことを実践しているに過ぎないのだ。それが、あれよあれよと彼に戦争のトリガーを引かせてしまう。

確かにチェイニーは戦争で多くの人を殺した。ゲスいほどに政界を引っ掻き回した。だが、貴方は信念の為に生きることで誰かを傷つけているかもしれない。夢中になることで《心》を失ってしまうかもしれない。

本作は単なる政治批判の域に留まらず、我々一般市民にもチェイニーのようになるチャンスがある、もしチェイニーのように全てが思い通りになった時、どう考えるべきか?反面教師のサンプルとしてアダム・マッケイ監督は観客に問いかけているといえよう。日本公開は4/5(金)です。

おまけ:第91回アカデミー賞極私的ベストテン

第91回アカデミー賞作品ほとんど観たので、私的ベストテンを貼っておきます。えっ『ボヘミアン・ラプソディ』がないって?確かに『ボヘミアン・ラプソディ』は好きだが、映画として観た時に結構惜しかったんですよ…

1.スパイダーマン:スパイダーバース
2.野獣
3.ビール・ストリートの恋人たち
4.ROMA/ローマ
5.Hale Country This Morning, This Evening
6.未来のミライ
7.永遠の門 ゴッホの見た未来
8.万引き家族
9.Skin
10.Free Solo


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