【アカデミー賞特集】『永遠の門 ゴッホの見た未来』Goghの視点にあなたは驚く

永遠の門 ゴッホの見た未来(2018)
At Eternity’s Gate

監督:ジュリアン・シュナーベル
出演:ウィレム・デフォー、ルパート・フレンド、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリックetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第91回アカデミー賞で主演男優賞にウィレム・デフォーがノミネートされています。そんな彼の出演作『永遠の門 ゴッホの見た未来』、今年ギャガ・松竹配給で日本公開が決まっているのですが一足早く鑑賞しました。

『永遠の門 ゴッホの見た未来』あらすじ


「潜水服は蝶の夢を見る」「夜になるまえに」のジュリアン・シュナーベル監督が画家フィンセント・ファン・ゴッホを描き、2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で、ゴッホ役を演じた主演ウィレム・デフォーが男優賞を受賞した伝記ドラマ。幼いころから精神に病を抱え、芸術家仲間たちともうまく人間関係を築くことができず、常に孤独の中にあったゴッホ。唯一才能を認め合ったポール・ゴーギャンとの出会いと決別や、作品が世に理解されずとも筆を握り続けた不器用な生き方を通して、多くの名画を残した天才画家が人生に何を見つめていたのかを描き出す。
※映画.comより引用

ゴッホ映画はあたりが多い

画家や芸術家の半生を描いた映画、あなたは何本思い浮かぶでしょうか?急に訊かれるとパッと浮かびにくいジャンルでしょう。意外と、ウィリアム・ターナー(『ターナー、光に愛を求めて』)、ポール・ゴーギャン(『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』)、フランシス・ベイコン(『愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像』)など探せば割とあるのですが、どれもどうも銀座マダムや奥渋谷マダムに消費されて終わっているイメージが強い。そんな地味な印象が強い画家映画のジャンルの中で眩しい明かりを灯している画家がいます。それがフィンセント・ファン・ゴッホです。彼に関する作品は、多く、しかもアラン・レネに始まりヴィンセント・ミネリ、ロバート・アルトマン、モーリス・ピアラ、そして黒澤明といった錚々たる大御所の手によって映画化されました。
2年前には、実写とゴッホタッチの絵が融合した驚異のアニメーション映画『ゴッホ 最期の手紙』が公開され話題となりました。ゴッホ自体逸話が多く、しかもその逸話の狂気性が映画作家を刺激してなのか、どれも強烈な作品となっていてハズレも少ない異彩を放っています。ブンブンは何と言ってもモーリス・ピアラの『ヴァン・ゴッホ』が好きで、あの完璧な風景とゴッホの描く絵のマリアージュに卒倒しそうになった記憶があります。

さて、本作について語る前に、ゴッホについて語っておくとしよう。

ポスト印象派主義としてのゴッホ

ゴッホの作品は美術史における《ポスト印象主義》に分類されます。1860年代にマネが登場し、色彩によって《光》を表現しようとした印象派。マネ、モネ、ルノワールが薄っすらと色彩の点を塗し、光を捉えようとした作風に対して、1880年代頃から反発するような作品が発表されていきました。その中でシニャックやスーラを中心とした印象派の点描画に着目し、特化させていった新印象主義、そしてゴッホ、ゴーギャン、セザンヌを中心とする日本の浮世絵やステンドグラスなどといった他ジャンルの芸術との融和を試みたポスト印象主義が生まれていきました。

今となってはゴッホは誰しもが知る有名な画家ですが、生前彼の絵は全く売れず、唯一『赤い葡萄畑(La Vigne rouge)』が売れた程度の功績でした。しかも活動期間はたった10年。しかも、精神的に不安定で自分の耳を切り落としてしまう程の錯乱状態にありました。しまいにはサン・レミの精神病院に入院し、銃で自殺。37歳という短命でした。

↑《星月夜(La nuit étoilée)》※パブリックドメイン 世界の名画より引用

↑《自画像(Van Gogh self-portrait)》※パブリックドメイン 世界の名画より引用

ゴッホの作風といえば、畝るような線。部屋という空間はグニャッとしており、ヒマワリは枯れ朽ちていく自分の運命に逆らうような出で立ちをしています。そしてゴッホが自殺する直前に描かれた《星月夜》や《自画像》になってくると、強烈な渦巻きが画面を支配します。

↑ゴッホが死ぬ前に自画像を描いてから100年以上経った時代。若きブンブンはゴッホに魅せられて卒業式に飾る自画像はゴッホ風に描きましたw

↑実際にオランダ・アムステルダムにあるゴッホ美術館に大学時代行きました。ゴッホ美術館のグッズは購買意欲そそるものが多く、傘とか、耳のピンバッチとか買いそうになりました。

ゴッホの目で世界を観てみる

本作は、画家のジュリアン・シュナーベルがメガホンをとっている。彼は映画監督でもあり、日本では『潜水服は蝶の夢を見る』で有名な監督ですが、彼のデビュー作はジャン=ミシェル・バスキアの伝記映画『バスキア』だ。バスキアの野生的な作風に惹かれ彼の半生を映画化したことを考えると、彼がゴッホを撮るのも納得だ。IndieTokyoの記事「[731] 画家の描くゴッホの一生 ジュリアン・シュナーベル監督最新作『永遠の門 ゴッホの見た未来』」を読むと、本作に登場する絵の多くは監督自身がゴッホを意識して描いたものである。

そしてシュナーベル監督は、自身が画家であり絵に詳しい利を活かして他の巨匠が見えなかった目線を捉えようとしている。まさしく、あの時代、カメラや映画なんて未知の存在だったあの時代に我々の見る《光》を捉えようとする画家のようにシュナーベル監督は、筆を、カメラを振り回した。

それだけに本作は、他のゴッホ映画とは違う変わった撮り方がされている。手持ちカメラで、グァングァンとカメラを振り回し、ウィレム・デフォー演じるゴッホを至近距離から捉えていくのだ。そして、カメラの性能が上がった今だからこそ、絵の具と絵の具の層が織りなす立体を緻密に捉えていきます。そして、あまりに美しい風景に身を置くゴッホから、「実は彼の心は自然の中では穏やかだったのでは?」といった問いかけを観客に投げつけてみたりします。

なんといっても特記すべきポイントは、突然映画の色彩が黄色に覆われたり、美しいオレンジの景色から急に白黒に変わったりといった妙な演出がされているところにあります。これを観てブンブンは、そうか!と納得しました。ゴッホは草間彌生に近い幻覚に悩まされていたのかと。草間彌生は、幼少期から幻覚や幻聴に悩まされており、それをアートという形に落とし込むことで世界に衝撃を与えた芸術家です。ゴッホも、自身の内面に渦巻く狂気の世界を絵に落とし込んでいく。それでもって自分を悪夢から解き放とうと生涯試みていたのではないだろうか?本作はあくまでシュナーベル監督の解釈としてのゴッホ像。他のゴッホ映画が割と、ゴッホにインスピレーションを受けて自分の才能を爆発させているのに対し、本作は論文のようにゴッホと向き合った作品と捉えることができそうです。

これは大傑作なので、日本公開した際には是非足を運んでみてください。

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