【ネタバレ考察】『スパイダーマン: スパイダーバース』が2019年暫定ベスト1な10の理由

スパイダーマン: スパイダーバース(2018)
Spider-Man: Into the Spider-Verse

監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
声の出演:シャメイク・ムーア(小野賢章)、ヘイリー・スタインフェルド(悠木碧)、ジェイク・ジョンソン(宮野真守)、ニコラス・ケイジ(大塚明夫)、キミコ・グレン(高橋李依)、ジョン・ムレイニー(吉野裕行)etc

評価:5億点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

…遂にディズニー/ピクサーの牙城が崩れた!

第91回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞したのはディズニー映画でもピクサー映画でもなかった!SONY×コロンビア製作のアニメ映画、しかもスパイダーマン映画が『シュガー・ラッシュ:オンライン』、『インクレディブル・ファミリー』を粉砕玉砕したのです!実に2011年に『ランゴ』が受賞して以来8年ぶりです。しかも『ランゴ』がアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した年というのは、ディズニー映画もピクサー映画もジブリ映画もノミネートしていない強敵なき回だったことを考えると本当に凄いことです。もちろんマーベルは今やディズニー傘下なので、厳密に言えばディズニー/ピクサーの牙城を崩したことにならないのだが、それでも本作はパラノイアに陥っていたアメリカアニメ界を変えたマスターピースであることに変わりはなかった。あまりの大傑作だったので、今日はじっくりと魅力について語っていきます。

ネタバレ記事なので、未見の方は悪いこと言わない。劇場で、それもIMAXとか爆音とか、上映環境の良い劇場で鑑賞することをオススメします。

『スパイダーマン: スパイダーバース』あらすじ


時空が歪められたことにより、異なる次元で活躍するスパイダーマンたちが集められた世界を舞台に、主人公の少年マイルスがスパイダーマンとして成長していく姿を描いた長編アニメーション映画。ニューヨーク・ブルックリンの名門私立校に通う中学生のマイルス・モラレス。実は彼はスパイダーマンでもあるのだが、まだその力をうまくコントロールできずにいた。そんな中、何者かによって時空が歪めらる事態が発生。それにより、全く異なる次元で活躍するさまざまなスパイダーマンたちがマイルスの世界に集まる。
映画.comより引用

ポイント1:潔く《サンプリング》することが突破口だ!

アメリカアニメ界は、長らくディズニー/ピクサー的演出に縛られてきた。寓話ベースでコンピュータグラフィック全開なヴィジュアルを模倣しすることでしか物語ることができなかった。そして対岸の黄金の国ジパングで創られる圧倒的ヴィジュアルに嫉妬しながら、アメリカ興行の下を這いつくばっていた。しかしながら、10年前に降臨した救世主フィル・ロード&クリス・ミラーコンビの手によってその状況を変えた!

彼らは、ディズニー/ピクサーの牙城を崩す技術を発明したのだ。

それは《サンプリング》だ。

技術力で追いつけないなら、全力で真似しろ!引用し、作品に取り込め!

『LEGO ムービー』、『レゴバットマン ザ・ムービー』でレゴ足る世界とは何かを底の底まで考え抜き、単なるイロモノの領域を超えた傑作を創り上げた。徹底的に、森羅万象のサブカルを取り込むことで圧倒的に他の作品とは違う異次元を観客に叩きつけたのです。
この手法は難解映画の神であるジャン=リュック・ゴダールの手法と似ている。ゴダールは自分が引用することでしか物語れないことに悶々とし、スピルバーグやイーストウッドに嫉妬していた。しかし、悟り徹底的に引用することに徹したことで『ゴダール・ソシアリスム』、『さらば、愛の言葉よ』といった異世界の作品を創り上げ、最新作『イメージの本』ではパルム・ドールを超えるパルム・ドールを受賞した。

『スパイダーマン: スパイダーバース』では、「アメリカンコミックとは何か?」という軸と「スパイダーマンとは何か?」という2つの軸をぶつけ合い、徹底的にアメコミ的演出を真似することで全く観たことのない世界を創り上げることに成功していた。

まるで荒涼とし、文化すら生まれないような廃墟サウスブロンクスで、落書きや既成曲の使い回し、ダンスが融合しヒップホップカルチャーが生まれたのと似たような文化の創生がそこにはありました。物語全体の希望に満ち溢れた雰囲気もあり、『ワイルド・スタイル』に近い興奮を感じることができました。

ポイント2:《漫画的》を初めて完璧にアニメに落とし込んだ

ギャスパー・ノエか?

『スパイダーマン: スパイダーバース』は、『エンター・ザ・ボイド』、『CLIMAX』を思わせる様々なフォントアートが飛び散るオープニングから幕を開ける。そしてロイ・リキテンスタインよろしく、インクのドット感が強烈に浮き出た世界観が観客を没入の世界へと誘う。物語の動きは、漫画のコマとコマを意識させ、セリフは時に吹き出しとなってやってくる。そして、スパイダーマンのコミックを元に主人公マイルス・モラレスはヒーローへの道へと歩み出す。

そこに未知なる核融合が押し寄せる。異世界からカートゥーン、モノクロ、ジャパニメーションが押し寄せて無理矢理世界との共存を始めるのです。それぞれは自分の色を主張し邪魔することはない。それぞれの世界観を完璧にコピーし(驚くことなかれ、日本語描写も全部考え抜かれています。デタラメ漢字なんて使われていません。)、マイルスの世界に溶け込むのです。

アメリカのアニメって確かに人種とか政治を反映して大人向きだったりするのですが、表現の観点から観ると未だに「子供向け」と軽視されている気がする。しかし、これはどうでしょうか?徹底的に拘ったヴィジュアル。フランク・ミラーを思わせる硬派なヴィジュアルに驚くことでしょう。アニメに慣れている日本人にとってハリウッドアニメは柔く見えがちですがこれは違う。本当の意味でアニメと向き合った作品と言えます。

ポイント3:フィル・ロード&クリス・ミラーコンビによる最強のヒーロー誕生譚

本作は、見掛け倒しの映画なのか?

いやいやそんなわけがありません。

なんたってフィル・ロード&クリス・ミラーコンビ映画なのだから。『くもりときどきミートボール』では、大量生産大量消費社会アメリカを強烈に皮肉った。『レゴバットマン ザ・ムービー』ではヒーローの虚栄心を映し出した作品となっていた。本作は王道ながらも強固なヒーロー誕生譚となっている。

スパイダーマン好きな、平凡な高校生マイルス・モラレスはひょこんなことからスーパーパワーを手に入れ、スパイダーマンから使命を託されてしまう。あんなにカッコ良く街を飛び回り、強敵を倒すスパイダーマンになんて俺はなれないよと落ち込むマイルスの前に、異次元からやってきたダメダメスパイダーマンことピーター・B・パーカーが手ほどきする。お互いにダメダメだが、そのダメダメを埋め合うことで1歩、1歩前へと進んでいく。彼らの前に現れる強敵、強烈な試練を仲間と共に乗り越えていく。その試練が、敵が親友だったみたいなありがち展開なんだけれども、しっかりと敵は敵なりの哲学や物語を埋め込むことで心揺さぶられる話へと昇華されていきます。そんな試練を乗り越え、学校に友だちがいなく、内気な少年が、家族を作り上げていく姿には涙が出てきます。

鑑賞後には、仲間っていいよね!と思うことでしょう。

ポイント4:異次元の共存を実現させてしまう驚異のヴィジュアル

ハリウッドアニメ的丸々としたフォルム、カートゥーンのデフォルメ、モノクロノワールにジャパニーズアニメな萌え、こんなのが共存できるわけないと思うのですが、これが『スパイダーマン: スパイダーバース』で実現されています。サイケデリックでバグったような世界で機敏に飛び回る異なるタッチのキャラクター。それを違和感なく共存させた世界観はアッと驚かされます。しかも、全ての世界観をアクションの演出レベルにまで落とし込み、それぞれの世界観をコラボレーションさせた連携アクションまで繰り出されるのです。

観ていて「楽しい」しかありません。

ポイント5:魅力的すぎるキャラクターたち

そんな異次元のキャラクター。これが全員魅力的で、誰一人ハブられていないというのが嬉しいところだ。しかも全キャラクター、名探偵コナンばりのキャラクター紹介シーンがあるのです。そのコミカルさにコナン映画好きはワクワクすることでしょう。ここで各キャラクターについて語っていきたい。

スパイダーマン1:マイルス・モラレス

黒人のスパイダーマン。根は真面目なのだが、音痴だったりおっちょこちょいだったり間抜けなところが愛くるしい。勇気を得ようと地を這うようsにしてヒーローになっていく姿は、天才的能力なんてない我々一般人にとって共感しやすいキャラクターなのではないでしょうか?

根は凄い真面目なので世界を平和にし、警察官である父と会う際にふとスパイダーマンの言いつけ「素顔は明かすな」を思い出し、スパイダーマスクをつけたまま父を抱きしめる。このラストにはなんて可愛いやつなんだとブンブンも抱きしめたくなりました。

スパイダーマン2:ピーター・B・パーカー

異次元のダメダメスパイダーマン。一度はスーパーヒーローに輝いたのだが、夢破れカノジョにも振られたフリータースパイダーマン。ダメダメクズ男が、マイルスに対し虚栄心を輝かせる痛々しさから一点。最終的に、チームをまとめていき、マイルスを我が子のように可愛がる姿に熱くなります。そしてラスト、マイルスが「ここは僕に任せて。故郷に帰ってくれ!」という言葉を受け止め、「頑張れよ!」と光に消えていく姿は号泣でした。

スパイダーマン3:グウェン・ステイシー

王道の強い女性ヒーロー。人情あふれ、姉御として可憐に振る舞う姿はCOOL!!!!!!!!!としか言いようがない。ドック・オクに苦戦するマイルスとピーターの代わりに蹴散らす姿に魅了されました。

スパイダーマン4:スパイダーマン・ノワール

『シン・シティ』のケビン好きなブンブンにはたまらないハードボイルドスパイダーマン。常に高潔で、どんな状況でも飄々と敵をなぎ倒す姿はカッコいい意外言葉も出ません。フィギュアが欲しいレベルだ。

スパイダーマン5:ペニー・パーカー

最強の癒し。

彼女を観て萌えない人はいないのではないでしょうか?華奢な女子高生で、ロボットエンジニア。生身の攻撃力は貧弱だと思うことなかれ!ロボットの腕を片手で持ち上げ、巨大な敵を抜刀粉砕します。もう、ずっと観ていたいキュートさがありました。

スパイダーマン6:スパイダー・ハム

謎の豚キャラ。咬ませ犬。出オチかと思われる程違和感しかないデフォルメされたこのスパイダーマンも、邪険に扱うことなく魅力を引き出します。スマブラにおけるゲームウォッチさながらコミカルにウェポンを取り出し敵を叩き潰す。コメディアンの裏に潜ませるコンプレックスの哀愁に引き込まれます。

ポイント6:王道と思わせ、意外!意外!!意外!!!が観客をかき乱す

この作品の物語は王道をいくヒーロー譚ではあるのだが、思わぬところで意外なツイストを入れてくるので油断ができません。例えば女の子を口説くためにアーロン・デイビスから教わった肩ポン。これがラスボスを倒す必殺技に化けるなんて誰が想像できたことでしょうか?また、昨年亡くなったスタン・リーもStan Lee Will Returnの契りを交わしたかのように現れ興奮することでしょう。そっかアニメでもスタン・リーは出てくるんだね。

ポイント7:メイおばさんの素顔が明らかに!

従来スパイダーマン映画では彼を見守る存在としてメイおばさんが出てきました。ただ、今まではモブキャラ扱いでした。しかし、実は彼女もヒーローだったことが明らかにされます。亡きスパイダーマンの研究所を守るガーディアンとして君臨し、やってくるスパイダーマンにアイテムを提供する。しかも、おばさんだからと侮るなかれ!フランケンシュタインのようなモンスターを、一切ひるむことなく蹴散らしてしまうのだ。ここまでメイおばさんをカッコ良くかつ魅力的に描いたスパイダーマン映画があっただろうか?

ポイント8:スーパーパワーに頼らない、拳に頼る胸熱ラストバトル

本作の面白いところが、ラスボス・キングピンはテクノロジーを使わず素手でスパイダーマンと戦うところにあります。時空が歪みぐちゃぐちゃになった世界にも関わらず、スパイダーマンのせいで家族を失った恨みを果たすために拳をぶつけてくる。それに対してスパイダーマンも拳で戦おうとする姿。アメコミヒーロー映画ってテクノロジーや超能力に頼りがちなイメージが強いが、拳に拘るところに胸熱を感じます。

ここまで正々堂々拳と向き合った悪党も珍しい。だからこそ両方応援したくなります。

ポイント9:日本語吹き替え版の没入感が凄い!

今回、ブンブンは吹き替え版で鑑賞したのですが全く違和感ありませんでした。ハリウッドアニメにありがちな、英語表記が日本語表記に入れ替わっている箇所も違和感がありません。大塚明夫の安定した骨太ボイスはもちろん、マイルスのへなちょこ感を反映した小野賢章、ペニー・パーカーの可愛らしさを体現する高橋李依のボイスに感動を覚えました。

ポイント10:またアイツらと会いたくなる《別れ》

この作品を見終えるとこう思うだろう。

「またあいつらに会いたい」

疾風怒濤台風のように現れ、次々と押し寄せる困難を乗り越えてきた仲間たち。しかし時は残酷。あっという間に別れの時がきてしまう。しかしマイルスはエモーショナルに「別れたくない」とは言わない。それぞれ帰るべき場所で世界を守ってくれ。魂は繋がっているのだからと、一人一人にサラッと別れを告げていくマイルスに、「そんなこと言ったって、俺の心がまだ整理ついてないよ。大人になったなぁ…マイルス…」と号泣です。

そして、Spider-Man will return続編の案内がエンドロール後に現れ拍手したくなった。どうやら続編では東映版が出てくるとか?これは期待しかありません。

おわりに

怒涛のように5千字かけて『スパイダーマン: スパイダーバース』の興奮を綴ってきました。ひょっとすると、2019年ブンブンシネマランキングベスト1位になる可能性が高いこの作品。本当に生きていて良かった。映画っていいもんですねと言いたくなるような映像体験でした。ここまでハードルが上がると、来週の『キャプテン・マーベル』、来月の『アベンジャーズ/エンド・ゲーム』が不安にもなります。

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