ビッグ・シティ(1963)
原題:MAHANAGAR
英題:The Big City
監督:サタジット・レイ
出演:アニル・チャタージー、マドビ・ムカージetc
評価:65点
アートインド映画の巨匠サタジット・レイの『ビッグ・シティ(旧邦題:大都会)』のブルーレイを取り寄せてみた。本作はベルリン国際映画祭で銀獅子(監督)賞を受賞した作品だ。果たして…
『ビッグ・シティ』あらすじ
病気の父の介護をしながらも、一家の大黒柱として銀行で働く男シュブロト。稼ぎはさほど多くなく、困窮している。見兼ねた母親は働きに出ることにする。最初は冷笑していたシュブロトだったが、妻は凄腕営業として評価されていく。そして彼の勤める銀行がある日倒産してしまい、立場が逆転する…サタジット・レイが贈るハードコア・サザエさん
』を観た時にも思ったことだが、サタジット・レイの現代劇ってどうもサザエさん感が強い。サザエさんはサザエさんでも江利チエミ主演の実写版
だ。都市って煩いはずなのだが、どうも静か。そしてその中で素朴に生きる人々の時にユーモラスな人間ドラマって雰囲気が似ているからなのだろう。とはいえ、本作はハードコアな内容だ。東京医科大が入試点数を不正に操作し、女子の受験生を差別した問題が明るみに出た日本は、全国民必修で本作を観た方が良い程、ジェンダーの差別をシニカルに描いている。
主人公の男はプライド高き銀行マン。1950年代のインド常識のせいもあるが、「女は家事をすべき。」と考えている男である。娘に対しても「家庭科の勉強さえできれば良い。」と言い放つ程、男尊女卑が身に染みている。しかし、銀行員の仕事は思うように金がたまらない。おまけに病気の父親の介護までしないといけない。彼が、フラストレーションを家族にぶちまけているのを妻はよく知っている。だから、家計の為に妻は働く決意をするのだが、夫はプライドが高いので、「成功するわけない」と否定する。また、「もし君が魅力的じゃなければ、働いてほしいと思う。君みたいな美人は、男の仕事の邪魔になる。ことわざがある。”女の居場所は家にある”」と、愛情を匂わせようとして猛烈に女を踏み躙るセクハラ発言をしてしまう。しかし、彼女は諦めない。皮肉にもシュブロトが貶した《美》はビジネスにおいて最大の武器となる。ウナギのぼり滝登りで出世して行く。一方、夫は仕事がうまくいかず都会で消耗しまくっているばかり。おまけに会社が倒産してしまう。
堕ちに堕ちた男はようやく気づく。差別の形に。そんな彼に優しく手を差し伸べる妻。展開こそオーソドックスで、ツイストはない。故にA to Z話の展開が分かってしまうのだが、素朴で美しい構図の中に凝縮された差別の形は観るものの心に刺さるものがある。是非とも地上波、無理ならNHKで放送してほしい作品だ。今放送することに意味があります。
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