取り調べ描写で浮かび上がるボロ
このように、『万引き家族』は伝統工芸品のように緻密に、丁寧に描かれている作品だ。
しかし、あまりに丁寧な作り故に、物語を収斂させていく後半でボロが目立ってしまった。まず終盤、樹木希林扮するお婆ちゃんが衰弱死する場面。今まで、彼女の年金をあてにしてこの擬似家族は暮らしていた。しかし、このエピソードによって家族は重要なマネーソースを断たれてしまう。こうなると、より一層盗みを働いて暮らさねばならなくなる。確かに、治と祥太の盗みは激しくなるのだが、前半での盗みと質感が同様のまま進むので、そこまで必死さが伝わらない。また、お婆ちゃんのヘソクリを見つけるシーンがあることにより、生活の困窮緊迫感がイマイチ伝わってこない。ここは、もっとどん底に陥っていく様子を描いた方が良かった。
確かに、是枝裕和映画はリアリズムに見せかけてユーモアによるファンタジーを魅せてくる監督ではあるが、あのシーンでの会話はやり過ぎ且つ説明するだけのシーンに見えてしまい、あまり上手いとは言えなかった。
勝てる映画が勝利したことへの危機感
よって、間違いなく今年賛否が極端に分かれる作品であり、映画芸術あたりはワーストに選出する作品である。個人的には、是枝裕和映画が苦手な私でも彼の技巧と役者陣の迫真の演技に圧倒されっぱなしだった傑作だと思う。『そして父になる』以来、素晴らしい成長を遂げたことを評価したいし、最近は苦手だったが応援したくなった。彼のフィルモグラフィー上マスターピースであることは疑いようがない。
なんたって、忘れているかもしれないが、本作はフジテレビ映画、テレビ屋映画だ。テレビ屋映画であそこまで作家性を出す。完璧なマーケティングで商業映画としてもシネフィル向けアート映画としても両立させてしまうその手腕。『奇跡』の時もJR九州とジェイアール東日本企画からの依頼で、九州新幹線の全線開通記念向けに作られた《企画もの》でありながら、妥協なき是枝裕和の世界を構築していた。日本のどこを探してもこんな凄腕監督はいないだろう。
しかし、この作品がカンヌ国際映画祭で最高賞を獲ったことには危機感を覚える。映画祭とアカデミー賞の大きな違いは、有権者の数だ。アカデミー賞は、多くの人の投票の末に栄冠が決まる。なので、宣伝に金をかけた知名度の高い作品や、その時の社会情勢を捉えた作品が受賞しやすい。しかし、映画祭は、観客賞を除けば、少ない人数で栄冠が決められる。つまり、インディーズの宣伝もかけられないような陰日向の良作が輝ける場所なのだ。そして、アート映画が唯一輝ける場所なのだ。
また、本作のように直接的貧困描写中心の作品が栄冠を勝ち取ってしまうことで、社会的弱者を暗号のようにして映画に盛り込む『シェイプ・オブ・ウォーター』のような作品も段々となくなってしまうのではと危惧する。
もちろん、ブンブンだって、この手のダイレクトな貧困を描いた作品は評価している。『グッド・タイム』や『サラーム・ボンベイ!』なんかは高評価を与えている。ただ、どれもサスペンスとして、ドラマとして面白くしようとしている気概がある。極めて映画的なので評価している。やはり、勝てる方程式で作られた『万引き家族』と比べると、純粋な映画としての面白さがそこにあるのだ。
自戒も込めて、ブンブンも自分の感性を磨き、周りの評価に惑わさせずこの映画ブログを続けていきたい。
なので、『万引き家族』は良い作品であるが、ベストテンに入れる程の作品でも、ワーストに入れる程の作品でもないとここに宣言し、終わるとしよう。
是枝裕和映画レビュー
・【ネタバレ解説】「三度目の殺人」尾頭ヒロミは検察官に転職していた!
・“Ç”是枝最新作「海よりもまだ深く」許しが強すぎるんじゃない?
・【『万引き家族』パルムドール受賞企画】『奇跡』は是枝裕和監督のマスターピースだった!
・【『万引き家族』公開記念】利き樹木希林!貴方のキリン愛が試される!?
コメントを残す