【東京国際映画祭】『野獣のゴスペル』単調な暴力、陳腐なテーマ

野獣のゴスペル(2023)
The Gospel of the Beast

監督:シェロン・ダヨック
出演:ジャンセン・マグプサオ、ロニー・ラザロ、ジョン・レンツ・ジャビetc

評価:30点

第36回東京国際映画祭コンペティションに出品されたフィリピンのヤクザ映画『野獣のゴスペル』を観た

『野獣のゴスペル』あらすじ

ある組織のために働き始めた貧しい青年が目撃する凄惨な出来事を通してフィリピン社会の闇の部分を描く作品。監督デビュー作『海の道』(10)が東京国際映画祭で上映されたフィリピンの俊英、シェロン・ダヨックの最新作。

第36回東京国際映画祭より引用

単調な暴力、陳腐なテーマ

フィリピン映画といえばブリランテ・メンドーサのような都市部の暴力を描いた作品を思い浮かべる。喧騒としたフィリピン都市部、そこで起こる暴力が国際映画祭では頻出テーマといえる。本作もその流れに乗る一本であったのだが、これがあまり良くなかった。

豚工場で働く青年はヒョこんなことから、自警団のような組織に入る。搾取に憤る者たちが搾取する者をフルボッコにし奪っていく。悪人には何をしてもいいだろうという正義感で動く組織だったが、実態はかなり酷いもので主人公は狼狽する。しかし、暴力の連続は麻痺を引き起こす。次第に彼も暴力的になり、簡単に強烈な暴力を加えるようになっていく。

暴力の連鎖は何も生まないことと、暴力に陥らざる得ないフィリピンの荒廃した様子を描いているのだが、ひねりのないテーマに単調な暴力の連鎖とひたすら退屈な描写が続いてしまったのが痛かった。暴力を描いて何かを語った気になるのはかなり危険だと感じる作品であった。

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※第36回東京国際映画祭より画像引用