【Netflix】『伯爵』歴史上の人物は永遠の命を得る、たとえ死を渇望しても

伯爵(2023)
El Conde

監督:パブロ・ラライン
出演:ハイメ・バデル、グロリア・ムンチマイヤー、アルフレード・カストロ、パウラ・ルクシンゲルetc

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ヴェネツィア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞したパブロ・ラライン最新作『伯爵』を観た。歴史上の人物を描いてきた彼がチリ近代史にとって最重要人物アウグスト・ピノチェトを描いた。それも彼は吸血鬼だったという設定で描いたのだ。Netflixで配信が始まったので観た。かなりハイコンテクストな作品であったが、アプローチとしては興味深く脚本賞も納得のできであった。

『伯爵』あらすじ

「伯爵」は、チリの近代史に着想を得た異世界を舞台に描く、ダークなホラーコメディ映画です。本作の主人公は、独裁政権の象徴アウグスト・ピノチェト。彼は、寒々しい大陸南端にある廃墟のような邸宅で、吸血鬼としてひっそり暮らしています。邪悪な欲望を満たすのは、この世で生き延びるため。250年ものあいだ生きながらえてきた末に、ピノッシュは生き血を飲むのをやめ、永遠の命という特権を手放す決意を固めていました。泥棒として人々の記憶に残ることに、これ以上耐えられなくなったのです。しかし、自分と相容れないご都合主義な家族の企みに反して、彼はある人との思いがけない関係を通じて、意気揚々と反革命的な情熱を持って人生を生き続けるという、新たな希望を見出します。

Filmarksより引用

歴史上の人物は永遠の命を得る、たとえ死を渇望しても

吸血鬼として人の生き血を吸いながら永遠の命を持っていたアウグスト・ピノチェトはクーデターによりアジェンデ政権を打倒し独裁政権を確立した。しかし、状況が悪くなり、死んだフリをして田舎の廃墟で隠居暮らしをしていた。永遠の命を手放そうとしてもなかなか手放せない葛藤、そしてピノチェトとして今もなお影響を与え続けていることが描かれている。非常に奇妙な作品であるのだが、発想としてはソクーロフの『独裁者たちのとき』と同じであろう。独裁者として歴史上の人物となった彼は死ぬことはできない。人々の記憶に残っている以上、独裁者として生き続けることしかできない。パブロ・ララインは歴史上の人物の宿命を吸血鬼に置き換えている。このアプローチが興味深い。また、そのギミックを応用している場面がある。たとえば、突然9.11の話をする場面がある。多くの人にとって9.11はアメリカ同時多発テロ事件のことを思い浮かべるであろう。しかし、チリにとって9.11は 1973年9月11日のチリ軍事クーデターのことを示している。永遠の命をピノチェトに与えることで、この二つの9.11を紐づけていく当たりは面白くみた。

ところで、本作は吸血鬼映画のイメージが強いので、ホラー演出が強いと思う方は少なくないだろう。また、アウグスト・ピノチェトのクーデター描写に力点を置いているのでは?と思う方もいるかもしれない。しかし、映画は廃墟での隠居暮らしが中心となっており、画としては地味だったりする。これはパブロ・ララインが『ザ・クラブ』を撮ったことを踏まえると納得がいく。『ザ・クラブ』は性的虐待をしたカトリック司祭たちが、事実を風化させようと隠居暮らしをする作品である。立場が悪くなったピノチェトが隠居暮らしをして、都合のいいように世論を動かそうとする演出と全く同じことをしているのだ。思い返せば、彼は歴史として語られるものと個人の思惑を一貫して描いている。『スペンサー ダイアナの決意』や『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』を観ても明らかであろう。このように考えると『伯爵』はパブロ・ララインにとって集大成だといえる。個人的に、白黒にしたおかげで画の面白さが弱くなってしまった印象は否めない。またハイコンテクストな映画だったので分からない部分も多かったのですが、このアプローチは興味深く観た。

※映画.comより画像引用