『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』楔形文字の研究者とアンドロイド、意外な共通点とは?

アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド(2021)
原題:Ich bin dein Mensch
英題:I’m Your Man

監督:マリア・シュラーダー
出演:ダン・スティーヴンス、マレン・エッゲルト、サンドラ・フラーetc

評価:85点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

最近ChatGPTを始めとするAIに興味を持っていて、社内外のAI関連のコミュニティに参加している。それだけにSF映画やAIにまつわる作品への鑑賞意欲が高まっている。積映画していた『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』がAmazon Prime Videoにあったので観た。これが傑作だった。

『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』あらすじ

実写版「美女と野獣」のダン・スティーブンスが“完璧な恋”を仕かけるアンドロイドに扮したラブストーリー。ベルリンの博物館で楔形文字の研究をしている学者アルマは研究資金を稼ぐため、ある企業が実施する極秘実験に参加することに。彼女の前に現れたハンサムな男性トムは、初対面にも関わらず積極的に彼女を口説いてくる。そんなトムの正体は、全ドイツ人女性の恋愛データ及びアルマの性格とニーズに完璧に応えられるようプログラムされた高性能AIアンドロイドだった。「3週間の実験期間内にアルマを幸せにする」というミッションを課せられたトムは、抜群のルックスと穏やかな性格、豊富な知識を駆使したあざやかな恋愛テクニックで、過去の傷から恋を遠ざけてきたアルマの心を変えようとするが……。アルマを「まともな男」のマレン・エッゲルトが演じ、2021年・第71回ベルリン国際映画祭で最優秀主演俳優賞を受賞。2人の実証実験を見守る相談員を「ありがとう、トニ・エルドマン」のサンドラ・フラーが演じた。ドラマ「アンオーソドックス」など監督としても注目を集める女優マリア・シュラーダーがメガホンをとった。

映画.comより引用

楔形文字の研究者とアンドロイド、意外な共通点とは?

レストランでトム(ダン・スティーヴンス)という男に出会うアルマ(マレン・エッゲルト)。親密な瞬間が訪れるのかと思いきや、突如トムの動きが怪しくなる。彼はアンドロイドだと分かる。実はこのレストランも、良いデート空間を生み出すためにホログラムで人を増やしていたりするのだ。ドイツ人女性の93%をメロメロにできるようアルゴリズムが組まれているトムはアルマと3週間の共同生活を送ることになる。これは治験のようなものだ。楔形文字の研究者である彼女は資金を集めるために、このプログラムに参加している。しかし、彼女はそもそも恋愛に対してドライであり、さらにアンドロイドは所詮アルゴリズムであり親密な会話は生まれないとATフィールドを張っている。金のためだけに参加した彼女を果たしてトムは落とすことができるのだろうか。

本作は楔形文字の研究者がアンドロイドと共同生活を送る一風変わった設定の作品である。しかし、この設定こそが本作の本質に繋がっている。楔形文字を研究することで過去の人間の風習や心理に触れることができる。論理的に冷静に文字に触れながら人間の心を掬い上げる仕事をしている。アンドロイドも膨大な人間の行動を論理的に分析しアリゴリズムとして行動へ置換することで人の心を汲み取る。どちらも論理的アプローチから人間という時に非論理的な行動をする存在について掘り下げていくのである。アルマはアンドロイドに対してアルゴリズムだけの存在と不気味の谷を見るような嫌悪の眼差しを向けるが、実はそこの境界線は曖昧であり段々と心が揺さぶられていく。全体的に会話劇であるが、この曖昧さに気付かされるような映画的運動をここぞという時に発動する。それは人間的動きとアンドロイド的動きのギアチェンジといった形で現れる。これが映画に驚きのスパイスをもたらし、後味を残してくれるのだ。ベルリン国際映画祭で俳優賞を獲っている作品なのになぜ放置していたのだと思った私であった。

※映画.comより画像引用