【セルゲイ・ロズニツァ特集】『破壊の自然史』廃墟の中で生きた証を残す

破壊の自然史(2022)
The Natural History of Destruction

監督:セルゲイ・ロズニツァ

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

セルゲイ・ロズニツァのアーカイブドキュメンタリーシリーズ『破壊の自然史』を観にシアター・イメージフォーラムまでやってきた。イメージフォーラムでは『オオカミの家』が異例の連日満席となっているようで個人的に嬉しいものがある。話はさておき、本作は相変わらず強烈な作品であった。

『破壊の自然史』概要

「ドンバス」「バビ・ヤール」などで世界的に注目されるウクライナの映画作家セルゲイ・ロズニツァが、第2次世界大戦下で連合軍がドイツに対して実行した史上最大規模の空爆を題材に制作したドキュメンタリー。

第2次世界大戦末期、連合軍はナチスドイツに対し、イギリス空爆の報復として絨毯(じゅうたん)爆撃を行った。連合軍の戦略爆撃調査報告書によると、イギリス空軍だけで40万の爆撃機がドイツ131都市に100万トンの爆弾を投下し、350万件の住居が破壊され、約60万人の一般市民が犠牲になったとされる。

技術革新と生産力向上によって増強された軍事力をもって一般市民を襲った未曾有の大量破壊の顛末を、当時の記録映像を全編に使用して描き出す。

映画.comより引用

廃墟の中で生きた証を残す

骸骨が映し出され、その直後に路上に放置されている死体が提示。セルゲイ・ロズニツァは「よく撮られていたな」というものを見つけて来て編集するのに長けた監督ではあるが、本作でもその技術を発揮。どこか人間の心を失ってしまった者が淡々と検証や部品を作っている。『カメラを持った男』のような高揚感はなく、ひたすら冷たい。しかし、兵器が完成に近づくほど、人々から笑みが溢れる。ものづくりの快感を宿したような笑みは、街に破壊をもたらす。白黒で映し出される爆撃。しかし、画はカラーに切り替わる。白黒の画は今や他人事、遠い存在に思えてしまうが、突如カラーになることで自分事へと引き摺りこむのだ。そして、廃墟となった街には生存報告が刻まれている。破壊の中で少しでも自分の生きた証を刻み込もうとしているのだ。相変わらずフッテージだけで、強いメッセージを打ち出すセルゲイ・ロズニツァ。『カメラを持った男』を応用したような演出に唸ったのであった。

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※映画.comより画像引用