ザ・フライ(1986)
The Fly
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ジェフ・ゴールドブラム、ジーナ・デイヴィス、ジョン・ゲッツetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
デヴィッド・クローネンバーグ映画に対する理解はここ数年深められている気がする。このタイミングで最初に観たクローネンバーグ映画『ザ・フライ』を再鑑賞した。本作は中学2年生の時に観て、出産シーンが気持ち悪すぎて1週間ぐらいうなされる程のトラウマになった記憶がある。当時は、純粋なモンスターホラーとして観たのだが、クローネンバーグ映画の文脈で観ると面白い発見がある作品であった。なお、当記事はネタバレありである。
『ザ・フライ』あらすじ
科学者のセスは記者のベロニカに開発中の物質転送装置を公開する。生物の転送実験で失敗が続くが、やがてセスは自らの体を転送することに成功。しかもその後、彼の体には驚異的な活力が備わる。セスは、転送装置に一匹のハエが紛れ込んでいたこと、そしてそれが転送後にセスの体と遺伝子レベルで融合したことを知る。彼の肉体はみるみる変化し、ついには惨たらしい姿に……! 58年作「蝿男の恐怖」をリメイク。おぞましくも悲痛なドラマが展開する。
※映画.comより引用
取り憑かれた者の外側
デヴィッド・クローネンバーグは異界の扉を開いてしまった者の不可逆的な視点を描いている。『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』『ビデオドローム』『裸のランチ』と移動するうちに元の世界と切り離され、異なる視点を獲得していく。それを踏まえると『ザ・フライ』の視点は王道ながらもクローネンバーグ映画としては珍しいものとなっている。映画は一見すると科学者セスの目線に立っているようで、実はジャーナリストや彼女の元恋人目線である。「テレポッド」による人体実験で思考や感覚が変わってしまい、以前とは違った人物となってしまうセス。彼は顕になるハエの本能によって強引にジャーナリストやバーで会った女を。「テレポッド」に入れようとする。テレポッドの体験を信じるセスの異様さ、例え身体がぐちゃぐちゃになろうとも精神だけは一度落ち込むだけでポジティブに切り替わっていく様子の異様さ。これは『ビデオドローム』などにおいて妙な世界に落ちた者を外側から見た視点であろう。
本作はリメイクでありながらも、多くの作品で一貫して描かれる肉体と精神のモチーフが刻印されている。顕著に描かれるのはステーキ肉を転送する場面であろう。見た目は同じだが、味はプラスチックに変わってしまう。そこに精神や哲学を流し込むことで転送できるようになる。これが「テレポッド」を使ったことで、もはや違う存在になってしまうことへの伏線となっており。この演出の細かさはクローネンバーグらしいといえる。
ただ、今観ると残念な部分もある。ラスト、ハエ人間セスは「テレポッド」と合体するギャグエンディングとなっている。「テレポッド」と合体するなら、瞬間移動能力がついてもおかしくない。ハエ人間から進化したことで興奮するも、遺伝子レベルの暴走を引き起こして爆発四散するエンディングを期待していたのだが、単に機械と融合しただけに留まってしまい、勿体無いなと感じた。
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※MUBIより画像引用