『水の声を聞く』宗教の本質と本音

水の声を聞く(2013)

監督:山本政志
出演:玄理(玄里)、趣里、村上淳、鎌滝秋浩、中村夏子etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

U-NEXTに山本政志監督作品がたくさん配信されている。『水の声を聞く』も入っていたので観てみた。本作は2014年のキネマ旬報ベスト・テンに選出された作品。この年は、シネコン作品が不作だったため、ミニシアター系の「いつ上映されていた?」と思う作品が多数選出されており、この作品も当時「なんだ?」と思った記憶がある。実際に観てみると山本政志らしい作品であった。

『水の声を聞く』あらすじ

「闇のカーニバル」「聴かれた女」などで知られる山本政志監督が、すがるもののない不安定な現代社会に生きる人々の姿を、宗教団体の教祖になってしまった偽物の巫女を中心に描いたドラマ。東京・新宿のコリアンタウンで、軽くひと稼ぎをしようと巫女を始めた在日韓国人のミンジョン。水や緑からメッセージを聞きとるという彼女に救いを求める人々は後を絶たず、やがてその集まりはミンジョンを教祖と仰ぐ宗教団体「真教・神の水」となる。後戻りのできない状況になってしまい、救済を求めてくる信者たちに苦悩するミンジョンだったが、次第に偽物だった宗教にも心が宿り、ミンジョンは不安定な現代社会を救おうと大いなる祈りをささげはじめる。2013年には、山本監督がプロデュースする実践映画塾「シネマ☆インパクト」の第3弾で、本作の序章にあたる短編「水を聞く プロローグ」も製作されている。

映画.comより引用

宗教の本質と本音

新興宗教の怪しげな儀式が行われる。映画はすぐさま、そのバックサイドを描く。

「重要なのは特別な力があるかないかじゃない。特別な力があるんじゃないかと信じさせる力よ。」

と赤裸々に宗教とビジネスの関係性について語り始める。冒頭から鋭利な切り口だ。ミンジョンは自分にスピリチュアルな能力がないことを知っているが周囲の言葉を頼りに、助けを求めてくる人に手を差し伸べる。やってくる人は皆、精神衰弱しており、居場所のないものだ。彼ら/彼女らに信仰の場を与えることで居場所を作り出すのだ。その本質があるため、クズな家族が寄生虫のように拠点に住み着くも追い出すことができない。このクズ男は妙に信者に気に入られており、その居心地の悪さが映画を支配していく。

新興宗教を扱った映画は『ザ・マスター』、『教祖誕生』、『愛のむきだし』などがある。その多くが新興宗教を怪しいものとして描いている。しかし、本作は、徹底して内部に歩み寄っている。例え、ビジネス宗教だとしても、必要としている人に手を差し伸べる活動は、誰かを救うのだと物語っているのだ。そしてスピリチュアルな話をしながらもイメージ戦略としてミンジョンが必要だと事務所の仲間が語る場面を入れることで宗教とビジネスとの関係性に説得力を持たせている。

無論、本作は顔のアップと語りで乗り切ろうとしており、映画を観ているような感覚にはならない作品である。だから映画としてはあまり良い作品とはいえない。それでも、宗教団体の揉め事の直後にヤクザの強烈な暴力描写を挿入する山本政志監督らしい唐突さもあって嫌いにはなれない作品であった。

※映画.comより画像引用

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