【ネタバレ考察】『ボーはおそれている/Beau is Afraid』奇妙な演出と影響を与えた映画13選について

【ネタバレ考察】『Beau is Afraid』奇妙な演出と影響を与えた映画13選について


当記事では、The Film Stageにて掲載されたアリ・アスター『Beau is Afraid』に影響を与えた映画13選に関する考察と、ネタバレとなる演出について書いていく。影響を与えた映画13選に関する考察は人によってはネタバレに感じると思うので、自分の感度に併せて読んでいただけたらと思う。後半は、完全にネタバレとなるので鑑賞後に触れることを推奨する。

【ネタバレなし】『Beau is Afraid』アリ・アスターは『オオカミの家』を作りたい

邦題『ボーはおそれている』で2024年2月16日劇場公開決定!

【考察】アリ・アスター『Beau is Afraid』の影響を与えた映画13選を読み解く

The Film Stage”Ari Aster Shares 13 Films to See Before Beau Is Afraid”のリストを基に以下のような解釈をした。

1.『鳥』(アルフレッド・ヒッチコック)

アルフレッド・ヒッチコックのパニック映画『鳥』では、家に籠城して襲いかかる鳥と戦う場面がある。『Beau is Afraid』の場合、鳥から人間に置換した籠城戦が描かれる。映画の序盤では精神衰弱状態のボー(ホアキン・フェニックス)が、窓から見えるヤバい人、玄関の外から感じる不穏な空気に怯え引きこもっている。しかし、あるトラブルにより、向かいのコンビニへ行く必要が出てくる。彼がコンビニで買い物をしている間に、通りにいる30人ぐらいもの群衆が彼の家に侵入してしまう。侵入を巡る攻防としてヒッチコックを参照したと思われる。これは興味深い使い方に感じた。

2.『厳重に監視された列車』(イジー・メンツェル)

一見すると、どこで引用されているのか分かりにくい。家が崩壊して虚構的混沌に投げ出される場面を引用したようにも思えるのだが、ある顔を見てピンときた。それはボーの幼少期パートである。ホアキン・フェニックスをアンチエイジングしたような少年が出てくるのだが、個人的には『厳重に監視された列車』の主人公に似ていた。そして童貞ムーブするあたりに『厳重に監視された列車』からの影響を強く感じた。

3.『臆病者はひざまずく』(ガイ・マディン)

アリ・アスターはCULT MTLでのインタビューでカナダの鬼才ガイ・マディンからの影響を熱弁している。17歳の時に作った短編映画が彼の作品のパクリであることを告白している。それだけに、『Beau is Afraid』では若干分かりにくい引用がされてくる。もちろん、女に対して罰を与えようとする展開は『臆病者はひざまずく』における堕胎させようとする動きと似ているのだが、罰としての首絞めの手つきが本作における乳房を掴もうとするものと類似していた。

4.『Stump the Guesser』(ガイ・マディン)

中盤でレオン&コシーニャとの合作アニメーションが始まる。演劇からアニメにシフトしていくのだが、劇場と観客との温度感は本作をかなり意識しているだろう。

5.『あなたの死後にご用心!』(アルバート・ブルックス)


『プレイタイム』と『天国への階段』を融合したような作品『あなたの死後にご用心!』は『Beau is Afraid』の軸となっており、この13本の中で最も重要な作品だと感じている。車との接触事故で死亡した男が、ジャッジメント・シティで審判の時を待つ。車との衝突シーンで登場する対向車のヴィジュアルが、『Beau is Afraid』の交通事故シーンとかなり似ている。また、『あなたの死後にご用心!』では前世を映す装置としてスクリーンが登場するのだが、『Beau is Afraid』でもボーの人生を映す鏡としてスクリーンが度々登場する。このギミックをアリ・アスターは応用しており、そこが面白い。

ボーは家でテレビを見つける。そこには自分が映っており、巻き戻すとさっきまでの行動が観られる。試しに早送りすると未来の自分が映りゾッとする。この試行錯誤の結果恐怖する演出を視覚的に魅せていくあたりに興奮した。

ちなみに映画を観ていると家系ラーメンの看板を背にアーティストがポーズを取っている謎写真が飾られていることに気づくが、これは『あなたの死後にご用心!』の寿司屋パートで「我々の郷土料理だ!」と釣り用透明ワームのようなものが映し出される変な日本描写のオマージュなのだろうか?

6.『悪魔の発明』(カレル・ゼマン)


小説の挿絵のような空間で人間が動く一度観たら忘れられない虚実の融合。これは中盤のアニメーションパートで実践されている。もちろん、レオン&コシーニャコンビの影響下にはあるのだが、実写とアニメ、そしてその中間演出としてのロトスコープ。これにより現実と悪夢との境目が消滅してしまった状況を表現している。この応用例に惹き込まれた。

7.『大砂塵』(ニコラス・レイ)

正直、一番分かりにくかった。ただ、男性的な西部劇を女性目線で描いた異色作として『大砂塵』を観ると、何もできないでいるボーの裏で女たちが物語を推進していくあたりに『大砂塵』要素があるのかなと思う。あるいは、ボーの母親の立ち振る舞いがどこかジョーン・クロフォードに似ているあたり関係あるのかなと。

8.『天国への階段』(パウエル=プレスバーガー)

死んでいるような生きているような狭間の悪夢として引用しているのは明白だが、舞台造形もかなり意識している。終盤に登場する円形ドームでの裁判シーンは明らかに『天国への階段』の円形遺跡であろう。

9.『プレイタイム』(ジャック・タチ)

社会システムに従って疑問を抱かずに行動する人々の間に異物を投入することで、社会システムの歪さを炙り出すジャック・タチ『プレイタイム』の概念部分を継承しているといえる。

10.『河』(ツァイ・ミンリャン)

ツァイ・ミンリャンは本作だけでなく『黒い眼のオペラ』など水のモチーフを用いる。『Beau is Afraid』では最初から最後まで水が意味ありげに登場するのだが、これはツァイ・ミンリャンを明らかに意識しているであろう。部屋に水がにじり寄る場面ではツァイ・ミンリャン要素が顕著だ。また、通路やエレベーターの映し方は『』を意識していると言える。

11.『荒野の千鳥足』(テッド・コッチェフ)


第二部で、交通事故にあったボーが歓待を受けつつ中々、母親の元へと移動ができない不条理劇が展開されるのだが、このモチーフとして『荒野の千鳥足』が使われている。オーストラリアの田舎からクリスマス休暇に彼女のいるシドニーへと行こうとするが途中の町で歓待を受けて脱出不能となる。天気は晴れているし、人も優しいが嫌な空気が流れるあたりもアリ・アスターは参考にしたに違いない。

12.『オオカミの家』(レオン&コシーニャ)


本作に惚れ込み、『骨』のエグゼクティブ・プロデューサーを務め、『Beau is Afraid』のアニメパートを依頼しただけに気合いの入り方が異なる。しかも、アリ・アスター自身が『オオカミの家』における時空間が変化する家描写を真似したいらしく、序盤から軋む家、崩壊していく部屋描写などにレオン&コシーニャ要素が散りばめられているのだ。

13.『骨』(レオン&コシーニャ)

レオン&コシーニャが手がけたアニメーションパートは『』における舞台装置を拡張したようなものである。実写とアニメを融合させて不気味な空間を作る。『骨』では白黒だったものがカラーへと変わり、それでもなお不気味さがビンビンに漂う。凄まじいマリアージュとなっている。

修羅場映画としての奇妙な演出

『Beau is Afraid』において修羅場映画としてよくできているパートとうまくいっていないパートがある。上手くいっている部分として、ボーが水を買いに行く場面がある。ヤバい人がたむろするストリートを掻い潜ってコンビニへと入る。商品の水を飲みながら会計をするのだが、クレジットカードは使えない。後ろを振り返ると、30人ぐらいいるヤバい連中が一斉に彼の家へと侵入していく。急いで会計をしようと札を出すのだが、微妙に金額が足りない。細々とした小銭を出しなんとかしようとする。このヤバい連中の侵入を防げるかどうかと支払いを完了できるかの宙吊り状態を同時に描いていくところがスマートであった。

また悪夢的描写として、風呂にボーが入ると、天井におっさんが張り付いていて、今にも泣き出しそうな仕草で落下しそうになっている。そんな彼を前に、風呂を出ようと、ジリジリ膝を出してくるあたりも見事であった。

一方で、出オチになってしまっている部分もある。特に雑だと感じたのは、男性器の悪魔のような存在と対峙する場面であろう。怖い表情をした男性器に怯えるボーの前に軍人が現れバトルが始まるのだが、唐突かつ雑に悪魔を成敗して処理していく。確かにクリーチャー造形は魅力的だが、魅せるならじっくり魅せて欲しかった。恐らくボーの童貞性が生み出した女性に対するトラウマ。女性を傷つけてしまう恐怖を象徴したものなんでしょうけどね。

参考資料

Ari Aster Shares 13 Films to See Before Beau Is Afraid(2023/3/30,Leonard Pearce,The Film Stage)
Ari Aster told us about shooting his new film Beau Is Afraid in Montreal(2023/4/19,CULT MTL,Justine Smith)
『オオカミの家』8月19日公開決定!予告編&場面写真&メイキング写真一挙解禁(2023/6/13,CINEMAS+,シネマズ編集部)
The Wolf House Directors Cristóbal León & Joaquín Cociña Team with Ari Aster in Exclusive Trailer for Los Huesos(2021/8/19,Jordan Raup)

※A24サイトより画像引用

※MUBIより画像引用