『テトリス』このビジネスマン、狂人につき

テトリス(2023)
Tetris

監督:ジョン・S・ベアード
出演:タロン・エガートン、ニキータ・エフレーモフ、ソフィア・レべデヴァetc

評価:75点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

2010年代後半、テトリスが映画化される噂を耳にした。この時代、映画はゲームの映画化を模索していた流れがあったように感じる。潜水艦映画をまさかの宇宙人侵略ものとして映画化した『バトルシップ』を始め、ゲームのクロスオーバーとして『シュガー・ラッシュ』、『ピクセル』、『レディ・プレイヤー1』と進化していった。この流れがあるからこそ、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の成功があったんじゃないかなと思った。さて、『テトリス』が映画化されると聞いて真っ先に思ったのは『バトルシップ』のような宇宙侵略ものであった。謎の電波を受信してしまい、宇宙から大量のブロックが降り注いでいく。技術者たちが結託し、ブロックを結合していくことで除去していくおバカ映画を想像していた。しかし、どうやら違うらしい。『テトリス』の版権を巡る争奪戦を描いた実録ビジネス映画なんだとか。


2023年はスマホの元祖ブラックベリーの栄枯盛衰を描いた『BlackBerry』やペッツが転売ヤーと闘った背景をインタビューしたドキュメンタリー『ペッツ・アウトロー』、ナイキがマイケル・ジョーダンを引き込もうとする『AIR/エア』とビジネス映画が熱い年となっている。実際に観てみると、これまた意外で熱い作品であった。

『テトリス』あらすじ

落ちものパズルゲームの元祖であり、世界でもっとも人気のあるゲームのひとつとして誰もが知る「テトリス」が、いかにして見いだされ、世界中のプレイヤーの手に渡ったか。その過程をサスペンスフルに描いた実録ドラマ。

米ソ冷戦のただ中にあった1988年、アメリカのビデオゲームセールスマン、ヘンク・ロジャースはソビエト連邦のコンピュータ科学者アレクセイ・パジトノフが考案した「テトリス」の存在を知る。そのゲームを世界に発信しようと考えたヘンクは、危険を冒してソ連へと渡り、アレクセイに会う。2人はテトリスを大衆に広めるため奔走することになるが、そんな彼らの前には冷戦の東西陣営を隔てる鉄のカーテン、そして張り巡らされた嘘や腐敗した世界が立ちはだかる。

ヘンク・ロジャースを「ロケットマン」「キングスマン」のタロン・エガートンが演じ、ヘンクの妻役で「ばぁちゃんロード」の文音が出演。監督は「フィルス」「僕たちのラストステージ」のジョン・S・ベアード。Apple TV+で2023年3月31日から配信。

映画.comより引用

このビジネスマン、狂人につき

ビジネス映画は『成功の甘き香り』、『摩天楼を夢みて』、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』とアメリカが強いイメージがある。ヨーロッパから新天地を目指してアメリカへと渡り、自由という夢や残酷のもと、時として倫理的葛藤を乗り越えてきて発展してきたお国柄を反映しているのであろう。自由だからこそ、裏切られる。ルールはあるが、自分の信念が正しいと思えば、それを踏み倒し成功を掴もうとする。実話ものも多いことから、パワフルに前へと突き進む高揚感は悩める労働者に元気を与えてくれる。そんなアメリカビジネス映画の熱量はイギリス映画である本作に継承されていた。

ソ連が開発したゲーム「テトリス」を巡って版権争いが起きる。任天堂も絡む複雑な駆け引きの中、主人公であるヘンク・ロジャース(タロン・エガートン)は、開発者であるアレクセイ・パジトノフ(ニキータ・エフレーモフ)に会うことを決意する。周囲に「守りきれない」と言われ、本プロジェクトのために家を抵当に入れている状況。通常であれば腰が引けるであろう。しかし、この男狂人につき、そんなのはお構いなし。「テトリス」に賭ける情熱をバネに単身乗り込んでいくのだ。知り合いもいない状況、家族や会社の人間と通話すらままならない状態。ロシア語も少ししか分からないのに、無断で政府機関に直談判する重罪を犯してまで権利の調整を行うのだ。

そこにライバルも潜入していたり、そもそも当時のソ連が腐敗し切っており、プライバシーもない極限状態。映画はいつしか『アルゴ』さながらの脱出劇へと発展していく。ビジネス映画でもここまで緊迫感がある交渉劇はあまり見かけない。絶望的になるほど、中間に入る企業が多く、詰んでいる状況でも諦めずに交渉を続けていくヘンク・ロジャースの根性にひたすら殴られるような作品であった。自分もこんなメンタルがあればなと観ている最中思っていた。

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※MUBIより画像引用