『黒い雨』戦争はまだ終わっていない

黒い雨(1989)

監督:今村昌平
出演:田中好子、北村和夫、市原悦子、沢たまき、三木のり平etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『オッペンハイマー』、『バービー』から生まれたネットミームが炎上している。原爆がカルチャーのおもちゃにされ、映画の宣伝がそれに乗ってしまったことで事態は大きくなってしまった。そんなアメリカの中にも原爆被害を伝えようとする団体や人もいる。アメリカのMUBIでは現在、今村昌平の『黒い雨』が配信されている。実際に観てみたのだが、これが想像以上に強烈な作品であった。

『黒い雨』あらすじ

昭和20年8月6日、広島に原爆が投下された。その時郊外の疎開先にいた高丸矢須子は叔父・閑間重松の元へ行くため瀬戸内海を渡っていたが、途中で黒い雨を浴びてしまった。20歳の夏の出来事だった。5年後矢須子は重松とシゲ子夫妻の家に引き取られ、重松の母・キンと4人で福山市小畠村で暮らしていた。地主の重松は先祖代々の土地を切り売りしつつ、同じ被爆者で幼なじみの庄吉、好太郎と原爆病に効くという鯉の養殖を始め、毎日釣りしながら過ごしていた。村では皆が戦争の傷跡を引きずっていた。戦争の後遺症でバスのエンジン音を聞くと発狂してしまう息子・悠一を抱えて女手一つで雑貨屋を営む岡崎屋。娘のキャバレー勤めを容認しつつ闇屋に精を出す池本屋。重松の悩みは自分の体より、25歳になる矢須子の縁組だった。美しい矢須子の元へ絶えず縁談が持ち込まれるが、必ず“ピカに合った娘”という噂から破談になっていた。重松は疑いを晴らそうと矢須子の日記を清書し、8月6日に黒い雨を浴びたものの直接ピカに合っていないことを証明しようとした。やがて庄吉、好太郎と相次いで死に、シゲ子が精神に異常をきたした。一方、矢須子はエンジンの音さえ聞かなければ大人しく石像を彫り続けている悠一が心の支えとなっていった。しかし、黒い雨は時と共に容赦なく矢須子の体を蝕み、やがて髪の毛が抜け始めたのだった。

※映画.comより引用

戦争はまだ終わっていない

1945年8月6日午前8時15分、原爆が広島に投下された。何気ない通勤の情景が一気に吹き飛び、ひしゃげた箱から這い出て、事態の深刻さよりも本能が生きよう生きようと出口を探す。あたりは崩壊、業火が容赦なく襲い掛かり、キノコ雲も見える。白黒映画だから、舞う煙、滴る黒い雨が恐ろしいものとして提示される。なんとか出口を探す中で、ぐちゃぐちゃに塗れた男の子が語りかけ、失明した男がビルから落下する。あの惨劇を徹底的に再現しようとした地獄絵図に目を思わず覆う。

映画は、戦後にシフトする。長閑な村の生活が映し出される。しかし、エンジン音が聞こえると、突然、住民がバッと飛び出して、怯えたり攻撃的になったりする。静けさに似つかない素早い運動が挿入される。これはトラウマのフラッシュバックにおける強烈さを映画的運動に置換したものといえる。戦後住民の平和に見える風景に対するアクション、時折引き戻される事件当時が混ざることにより強固な戦争悲劇のアーカイブになったといえよう。

また、本作を観ると、後に今村昌平が『カンゾー先生』を撮るのは必然だったともいえる。戦後パートは白黒になった『カンゾー先生』の感触が強いからだ。このタイミングで本作を観たのは重要な経験になった。『オッペンハイマー』が日本公開されると良いのだが果たしてどうだろうか。

P.S.本作はカイエ・デュ・シネマベストに選出されました。

1.ドゥ・ザ・ライト・シング
1.Red Wood Pigeon
3.彼女たちの舞台
4.戦慄の絆
5.カニバイシュ
5.ヤーバ
7.黒い雨
7.走り来る男
7.Little Vera
10.偶然の旅行者
10.お家に帰りたい
10.ジプシーのとき

※MUBIより画像引用

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