【東京国際映画祭】『深海レストラン』デジタルシネマでジブリ的映像表現の限界に迫る

深海レストラン(2023)
原題:深海
英題:Deep Sea

監督:ティエン・シャオポン
出演:ワン・ティンウェン、スー・シンetc

評価:90点

以前、YouTube配信で有識者から「スゴい中国のアニメーションがある」と紹介していただいた『深海』が第36回東京国際映画祭で邦題『深海レストラン』として上映が決まった。

実は今回の映画祭の中で一番の目当てはこれであった。予告編の段階からディズニーピクサー、そして日本のアニメーションの要素を繋ぎ合わせて、それらが到達できない地点にまで達していたのである。実際、中国のアニメーションは『獅子少年/ライオン少年』もそうだが、相当レベルが高い。Blender等でCGアニメーションを作ったことがある方なら、異常なまでに繊細な動きに驚愕するであろう。

どれぐらい工数が掛かっているのか?

下手すれば人が死んでいるぞ?

と。

さて、実際に観てみるととにかく流体へのこだわりがえげつないこととなっていた。

『深海レストラン』あらすじ

父の再婚で孤独を感じる少女、シェンシウ。彼女はクルーズ中に海に落ちてしまう。気がつくと彼女はナンヘというちょっとおかしなシェフが働く水中レストラン「深海」にいた。

※東京国際映画祭サイトより引用

デジタルシネマでジブリ的映像表現の限界に迫る

マイ・エレメント』も水や火の描写へのこだわりが凄かったのだが、その比ではない。『もののけ姫』において線状の流体を手書きでやったことは伝説となっているが、デジタルシネマではどこまでいけるのだろうか?複雑怪奇、水滴から群になった波の運動、そこに金属やビニールといった異なるオブジェクトを交え、実写に近いレベルの運動をさせる。まずこの技術力の高さに圧倒された。アニメ映画史に残るレベルの仕事であったと言える。

そして内容が、中国アニメかつ子どもが主人公にもかかわらず鬱映画もとい心象世界を描いた形而上映画だったことにも驚かされた。弟(妹?)ができたことで親からの寵愛を受けられなかった子が海に転落し、死の淵を彷徨う。その中で内なる孤独と対峙していく。そこで生まれてくる邪悪な暴力性を、これまた流体で描く。つまり、感情というものは形はない。可変であるが、自己というフレームの内と外の境界線を引くことにより存在はする。それは得体の知れないものとして自己のある部分を蝕みモンスターとなっていく。それと対峙し、殻を破ることができるのか?

まさしくエヴァンゲリオンのテーマに通じる話をやってのけていたのだ。上映後の解説によれば、監督は宮﨑駿に影響を受けているとのこと。『千と千尋の神隠し』的深海レストラン、そしてダークな人間模様を通じて人間の葛藤を描き切る。これはとんでもない怪作であった。

※映画.comより画像引用