マルセル 靴をはいた小さな貝(2021)
Marcel the Shell with Shoes On
監督:ディーン・フライシャー・キャンプ
出演:ジェニー・スレイト、イザベラ・ロッセリーニ、ディーン・フライシャー・キャンプ、トーマス・マン、ローサ・サラザール、レスリー・スタールetc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第95回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされた『マルセル 靴をはいた小さな貝』が2023/6/30(金)より新宿武蔵野館、グランドシネマサンシャイン池袋ほかにて全国公開となる。本作品は、ディーン・フライシャー・キャンプが2010~2014年にかけてYouTubeにアップしたストップモーションアニメの長編映画化であるA24が北米配給したこともありアメリカで話題となった作品。またディーン・フライシャー・キャンプ監督は実写リメイク版『リロ&スティッチ』の監督にも抜擢されていることからも注目されている。今回、アスミック・エースさんのご厚意で一足早く鑑賞したので感想を書いていく。
『マルセル 靴をはいた小さな貝』あらすじ
実写とストップモーションアニメを組み合わせ、小さな貝のマルセルが繰り広げる冒険を描いた作品。
アマチュア映画作家のディーンは、靴をはいた、体長およそ2.5センチのおしゃべりな貝のマルセルと出会う。ディーンは彼が語る人生に感銘を受け、マルセルを追ったドキュメンタリーをYouTubeにアップするのだが……。
新進の映像作家ディーン・フライシャー・キャンプが2010年から14年にかけてYouTubeで順次公開し、累計5000万回再生を記録した短編作品を長編映画化。「ミッドサマー」や「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」などの話題作を送り出してきた製作・配給会社A24によって北米配給され、小規模公開ながら評判と話題を集めた。アニメ界のアカデミー賞と言われる第50回アニー賞では長編インディペンデント作品賞・長編作品声優賞・長編作品脚本賞を受賞、第95回アカデミー賞でも長編アニメーション賞にノミネートされた。
ドキュメンタリー?ストップモーションアニメ?A24が放つ新感覚映画
COMINGSOON.NETのインタビュー記事によると、マルセルのアニメが誕生したきっかけは「おふざけ」だっととのこと。友人の結婚式のために9人でルームシェアをしていた。ルームメイトのジェニー・ストレイトは、部屋の窮屈さを表現する声芸で周囲にユーモアを振る舞っていた。ある日スタンダップコメディ用の動画を作らなければならなくなる。そこでストップモーションアニメを作ることとなり、貝殻のキャラクター・マルセルにインタビューするシチュエーションを思いついた。マルセルにジェニーの声芸を重ね合わせることで誕生した。
さて、本作はあれから時間も経ち、長編化に合わせ一定の予算も獲得しているので、ゆるい作風に対してハードな技術が総動員されている。その結果、観たこともないような世界観が広がっている。なんといっても、犬や人間がカメラに映り込んでシームレスに動作する中で、貝殻のキャラクターたちがせっせと活動をしているのである。外から果物を採取するために、紐を使った大掛かりな仕掛けを用意したり、ポップコーンを作ったりする。連続的運動と離散的運動が共存する中で、この物語はホームビデオの体裁、ドキュメンタリーの体裁を撮っている。小さき存在にとって世界は広いが、同時にちっぽけな存在である自分に苦悩している。大人の貝殻はそんな現実を受け入れる中でどこか諦めの表情や哀愁を浮かべている。
そんなマルセルたちは、YouTubeを通じて世界と繋がる。ライブ配信をすると、世界中の人が好意的な目で彼のことを見る。しかし、家族のような心理的距離が近い状態での愛や温もりはそこにはない。ファンはそんなマルセルの心を癒すかもしれないが、本当に彼が必要としていることには手を差し伸べていないのではないか?彼はそう観客に問いかけてくる。
本作はコロナ禍の映画としてもよくできている。人はコロナ禍でリモートによるコミュニケーション方法を発達させてきた。しかしながら、インターネットを通じたコミュニケーションで心の底から関係を紡ぐことはできるのだろうか?孤独や窮屈感を癒すことはできるのだろうか?インターネット世界の広さと、小さき存在から見た空間の広さ、そこからちっぽけな存在である自己を捉えていき孤独を癒す方法を模索していく。
ユニークでユーモラスでだがスマートな映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』を興味深く観た。
20236/30(金)より新宿武蔵野館、グランドシネマサンシャイン池袋ほかにて全国公開。
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※映画.comより画像引用