【A24】『Everything Everywhere All at Once』これぞ本当のマルチバース・オブ・マッドネスだ!

Everything Everywhere All at Once(2022)

監督:ダン・クワン、ダニエル・シャイナート
出演:ミシェル・ヨー、ジェイミー・リー・カーティス、ステファニー・スー、ジョナサン・キー・クァン、ジェームズ・ホン、アンディー・ルetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

A24が『スイス・アーミー・マン』のダン・クワン&ダニエル・シャイナートとタッグを組み製作したマルチバース映画『Everything Everywhere All at Once』を観ました。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』とエンドゲーム以降のMCUはマルチバースの可能性を模索した作品が作られているが、個人的にマルチバースとしての解像度が弱いと考えている。マルチバースとは時空間の結合なわけで、異なる質感が共存する世界観を作る必要があり、それは単に過去作からの侵食や、MCUとは別次元にある監督の作家性をぶつけるだけでは物足りない。『スパイダーマン:スパイダーバース』レベルまで、異なる質感をぶつける必要があるのだ。アニメと実写がヌルヌル共存するように、また今いる世界線とは合わないような色彩や造形がその場にいるべきだと考えている。

『Everything Everywhere All at Once』では、MCUを意識したVFXの中で圧倒的手数を用いて新たな表現の可能性を模索した意欲作であった。

『Everything Everywhere All at Once』あらすじ

An aging Chinese immigrant is swept up in an insane adventure, where she alone can save the world by exploring other universes connecting with the lives she could have led.
訳:年老いた中国人移民は、狂気の冒険に巻き込まれる。彼女だけが世界を救うことができ、彼女が送ったかもしれない人生とつながる別の宇宙を探索するのだ。

IMDbより引用

これぞ本当のマルチバース・オブ・マッドネスだ!

コインランドリーを経営するエヴリン・クワン(ミシェル・ヨー)は国税庁の監査を控えておりピリピリしている。仕事と家族との慌ただしい日々を送りながら、いざ国税庁へ向かう。エレベーターに乗っていると突然、夫のウェイモンド(ジョナサン・キー・クァン)が何者かに憑依され、傘で監視カメラを塞ぎながら、とある行動をするようにと紙を渡してくる。あまりの急な展開に狼狽する彼女だが、指示に従い、靴の右左を入れ替える行動を取ると魂が別次元と繋がる。「普段しない行動」をすることで異次元と繋がることを知った彼女は、宇宙の崩壊に繋がる存在を食い止めるため壮大な旅へ出ることになる。

本作はまさしくマルチバース・オブ・マッドネスな作品であり、今いる世界線では国税庁の担当者と話しているのに、魂の一部は倉庫で、刺客と戦う。その動きが今いる世界線でもシンクロしていくという奇妙なアクションのもと進行する。その膨大な情報量を2時間20分ノンストップで魅せていくので、観賞後にはドッと疲れるものがある。そして、本作におけるマルチバースの解像度が非常に高いところに注目してほしい。

異次元が今の次元に侵食してくるのだが、異次元における物理法則が今の次元と一致するとは限らないのだ。なので次元が融合すると、後ろから身体を抑え込んだにもかかわらず、後ろから顔が生え、銃を撃とうとしてもシャボン玉に変わってしまう。硬い存在である手が、ふにゃふにゃになってしまったりするのだ。そして異次元からの刺客やエヴリンは、次元間でシンクロを行うために、リップクリームを食べたり、オフィスの冷蔵庫にあるジュースを一気飲みしたり、アヴェマリアを熱唱したりするのだ。

そして、メロドラマの世界、カンフー映画の世界、アニメ、そして言葉を失い念で対話する世界を行き来しながら戦う中で、家族や人生と向き合っていくのだ。

『Everything Everywhere All at Once』は荒唐無稽なアクションコメディ映画であり、本格的なカンフーアクションを拝める作品であるが、「どこへでも行けそうでどこにも行けないアメリカ像」の映画とも取れる。移民として、アメリカンドリームを掴むためにやってきたが、コインランドリーを経営しながら慎ましく暮らしており、国税庁にはある種蔑視の眼差しが注がれている。テレビモニタに映るミュージカル映画のような華やかな夢はない。家族にも縛られているので、自由の国にいながらも自由はないのだ。実際に映画は、壮大な旅を描いているにもかかわらずほとんどクワンは国税庁から出ていないのだ。巨大な社会システムの中に押し込められてしまっている存在として描かれているのだ。では悲観的な映画かと訊かれたら「否」である。

様々な領域、様々な可能性を認知し、全く異なる法則に飲まれながらも、自分の中に落とし込んでいく。その過程を通じて、自分の人生を定義しなおす。それにより少しでも人生を明るくできるのではと語っているように見える。よく、人生に絶望しないように趣味をたくさん持てというが、それはマルチバースの扉を開くことでもある。ではどうやってマルチバースの扉を開けるのか?それは普段やらない行動を取ることに尽きる。開けた次元は、常識とは全く異なり混乱することもあるだろう。しかし、その中で自分を見つけることで自分を救い、家族を救い、意外と世界を救うかもしれない。ダン・クワン&ダニエル・シャイナート監督は、ITの発達や猛烈な勢いでシステム化されどんどん小さくなっていく世界の中で、絶望せずに自分の人生を見出す方法をこっそりこの映画に隠したんだと感じた。

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※MUBIより画像引用

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