『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』壮大な後始末

ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス(2022)
Doctor Strange in the Multiverse of Madness

監督:サム・ライミ
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、エリザベス・オルセン、ベネディクト・ウォン、レイチェル・マクアダムス、キウェテル・イジョフォー、ソチル・ゴメスetc

評価:30点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

エンドゲーム以降、ディズニーのビジネス手法への幻滅もあってか、MCUへの関心が薄れてしまい気乗りがしなくなってきたのだが、『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』の監督がサム・ライミと知り今回は観ることにした。しかし、もはや映画の顔をしなくなった本作についていけなくなったのでした。

『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』あらすじ

元天才外科医で最強の魔術師ドクター・ストレンジの活躍を描くマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の「ドクター・ストレンジ」シリーズ第2作。2016年に公開されたシリーズ第1作以降も、「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」(18)、「アベンジャーズ エンドゲーム」(19)、そして「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」(21)など一連のMCU作品で活躍してきたドクター・ストレンジが、禁断の呪文によって時空を歪ませてしまったことによって直面する、かつてない危機を描く。マルチバースの扉を開いたことで変わりつつある世界を元に戻すため、アベンジャーズ屈指の強大な力を誇るスカーレット・ウィッチに助けを求めるストレンジ。しかし、もはや彼らの力だけではどうすることもできない恐るべき脅威が人類に迫っていた。その脅威の存在は、ドクター・ストレンジと全く同じ姿をした、もう一人の自分だった。ドクター・ストレンジを演じるベネディクト・カンバーバッチをはじめ、ストレンジの盟友ウォン役のベネディクト・ウォン、元恋人クリスティーン役のレイチェル・マクアダムス、兄弟子モルド役のキウェテル・イジョフォーら前作のキャストが再結集。物語の鍵を握る新キャラクターのアメリカ・チャベス役でソーチー・ゴメス、ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチ役でエリザベス・オルセンも出演。「スパイダーマン」3部作(02、04、07)を大ヒットさせたサム・ライミが監督を務め、「オズ はじまりの戦い」(13)以来となる長編映画のメガホンをとった。

映画.comより引用

壮大な後始末


スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』もそうだったが、サノスを倒した後の世界線は一層壮大な内輪揉めの要素が強まったといえる。国家間、惑星間のマクロな政治的軋轢を、スーパーヒーローたちの政治的立ち位置、つまりミクロな視点で紐解いていく内容であった。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、ピーター・パーカーの敵であれ救うべきという思想と、分かり合えない敵は倒すべきと考えるドクター・ストレンジの対立が事態を深刻化させた話と言える。ドクター・ストレンジの傲慢で、冷静に判断している態度が大惨事を引き起こし、その尻拭いを行う。だから話は、会社間での上司と現場の対立と大差ないものだったりする。

今回の『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』はその側面が強まっている。マルチバースからやってきたアメリカ・チャベス。彼女をどうにかしようと、ワンダ・マキシモフのもとを訪れるが、早々に思想の相違を引き起こし戦争が勃発してしまう。戦争を引き起こすまでの流れがあまりに早く、ドクター・ストレンジが無能に見えてくる。

さて、本作は厄介なことにどうも『ワンダヴィジョン』を観ていないとよく分からない内容となっている。ワンダがなぜ、こうも激昂してアメリカ・チャベスを奪おうとしようとしているのかが分からないまま、マルチバース上の人間をハッキングするといった高度な技術を駆使してドクター・ストレンジを追い詰めていく。また、マーベルのあんなキャラクターやこんなキャラクターがゲスト出演のように現れては、消えを繰り返しており、完全に一見さんお断りな映画となっているのだ。これは果たして映画なのだろうか。

映画とは、閉じた世界の中、2時間ぐらいで人間関係を描くものだと思っている。確かに、情報過多な時代、SNSで様々な属性がマルチバースのように邂逅し、時に対立する時代において、映画も映画の外側に広がるのは分かる。しかし、本作で登場するワンダ、然り他のマーベルキャラクターの人物描写があまりに雑すぎて、何故彼らは怒っているのか理解する前にアクションが起き、そして終わってしまっているのだ。

これは恐らく、サム・ライミが自分色のホラーをやろうとするものの、2時間で処理する情報が多過ぎて中途半端になってしまった点も関係してくるだろう。サム・ライミは序盤のアクションで、ビルの壊れ方を自身が監督した『スパイダーマン』に合わせていたり、ワンダがヌルッと襲ってくる場面や、ドクター・ストレンジがマルチバース上の他者に憑依してカクカク動きながら追い詰めていくところに『死霊のはらわた』テイストを持ち込んだり遊び心溢れるサム・ライミワールドを展開を披露している。でも、これだったらシンプルにサム・ライミホラーを観たかったと思った。

というわけで結果としては、この壮大な後始末はカタストロフを引き起こしたヘドロのような映画であった。MCUから気持ちが遠ざかってしまった。