『マイスモールランド』制度の前に広がる無力さ

マイスモールランド(2022)

監督:川和⽥恵真
出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズetc

評価:75点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第72回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に出品されたクルド人難民を描いた作品『マイスモールランド』が公開された。本作は、布陣が凄まじいこととなっており、製作に是枝裕和、NHKがおり、撮影は『ドライブ・マイ・カー』など今もっとも脂が乗った四宮秀俊が携わり、配給は意外なバンダイナムコアーツである一方、海外配給にはGAGAやARTEがいる。このような抜群の体制で作られた川和⽥恵真商業映画デビュー作は骨太な力作であった。

『マイスモールランド』あらすじ

在日クルド人の少女が、在留資格を失ったことをきっかけに自身の居場所に葛藤する姿を描いた社会派ドラマ。是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」の若手監督・川和田恵真が商業映画デビューを果たし、自ら書き上げた脚本を基に映画化した。クルド人の家族とともに故郷を逃れ、幼い頃から日本で育った17歳のサーリャ。現在は埼玉県の高校に通い、同世代の日本人と変わらない生活を送っている。大学進学資金を貯めるためアルバイトを始めた彼女は、東京の高校に通う聡太と出会い、親交を深めていく。そんなある日、難民申請が不認定となり、一家が在留資格を失ったことでサーリャの日常は一変する。自身も5カ国のマルチルーツを持つモデルの嵐莉菜が映画初出演にして主演を務め、「MOTHER マザー」の奥平大兼が共演。2022年・第72回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に出品され、アムネスティ国際映画賞スペシャルメンションを贈られた。

映画.comより引用

制度の前に広がる無力さ

在日クルド人のチョーラク・サーリャ(嵐莉菜)は、成績優秀、家族との仲も良好。日本語も流暢なので、外から見ると普通の学生に見える。しかし、日常の中ではヤスリで擦られるような痛さが潜んでいる。コンビニの店長の間合いの近さ、外国人ということでお客さんに絡まれる。クルド人と言うと差別されるかもしれないから「ドイツから来た」と偽る。家の大家からは、コインランドリーの使い方をまともに覚えない移民の代わりに警告文を翻訳しろと頼まれる。恐らく、無償であろう。このような居心地の悪さが横たわっていた。

そんなある日、父が時間をかけて準備した難民申請が棄却されてしまう。ビザも切れ、就労することすら禁じられてしまう。しかし、働かなければ家賃を払うことすらできない。生活が困窮する中、父親の不法就労が警察にバレてしまい、入管に収容されてしまう。残された3人の子どもたちは自分たちで生活しないといけない。アルバイト先のコンビニも、不法就労が罰せられることを知っているのでサーリャを解雇する。制度を前に無力であり、人情がひたすらへし折られていく様子が描かれていく。

本作は、当事者と非当事者の温度感を克明に描き出しており、非当事者の無意識なる加害の側面が捉えられているところが重要である。例えば、学校の先生はビザが切れているから行きたい大学に受験すらさせてもらえない実情に対して「頑張ろう!」と勇気づけるが、既に彼女は頑張ってきている。それを軽々しく「頑張れ」の一言で片付けてしまう残酷さが描かれている。また、同級生は落ち込む彼女を勇気づけようと、また彼女が金を必要としていることを察してか「たまにはパーッとしよう。」とパパ活へ誘う。同級生にとっては遊ぶ金を得るためのパパ活であろう。しかし、サーリャにとっては、家族を養うために汚れ仕事をしなければいけない覚悟を突きつけられているのだ。

このような、なんとなくの歩み寄りが露骨に当事者を傷つけてしまう様子を通じて、「見えない化」されている日本の問題を炙り出していると言えよう。

終盤の、ある人物が失踪する場面こそ、唐突で作劇として弱い印象を感じたものの、これは2022年日本映画において重要な一本であることは間違いありません。

※映画.comより画像引用