【ネタバレ考察】『エルヴィス』アメリカンドリーム、それは搾取せずにはいられない歴史だった

エルヴィス(2022)
Elvis

監督:バズ・ラーマン
出演:オースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリビア・デヨング、コディ・スミット=マクフィーetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

バズ・ラーマン久しぶりの新作映画『エルヴィス』をようやく観てきました。光の魔術師であるバズ・ラーマン映画は今回も豪華絢爛で素敵だった一方で、かなりトリッキーな作りをしていて困惑もした。だが、一見するとエルヴィス・プレスリーの伝記映画に見えて、実は『華麗なるギャツビー』に次ぐアメリカンドリームについての映画でもあった。今回は、ネタバレありで考察していくとする。

『エルヴィス』あらすじ

「キング・オブ・ロックンロール」と称されるエルビス・プレスリーの人生を、「ムーラン・ルージュ」「華麗なるギャツビー」のバズ・ラーマン監督のメガホンで映画化。スターとして人気絶頂のなか若くして謎の死を遂げたプレスリーの物語を、「監獄ロック」など誰もが一度は耳にしたことのある名曲の数々にのせて描いていく。ザ・ビートルズやクイーンなど後に続く多くのアーティストたちに影響を与え、「世界で最も売れたソロアーティスト」としてギネス認定もされているエルビス・プレスリー。腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特でセクシーなダンスを交えたパフォーマンスでロックを熱唱するエルビスの姿に、女性客を中心とした若者たちは興奮し、小さなライブハウスから始まった熱狂はたちまち全米に広がっていった。しかし、瞬く間にスターとなった一方で、保守的な価値観しか受け入れられなかった時代に、ブラックカルチャーを取り入れたパフォーマンスは世間から非難を浴びてしまう。やがて故郷メンフィスのラスウッド・パークスタジアムでライブを行うことになったエルビスだったが、会場は警察に監視され、強欲なマネージャーのトム・パーカーは、逮捕を恐れてエルビスらしいパフォーマンスを阻止しようとする。それでも自分の心に素直に従ったエルビスのライブはさらなる熱狂を生み、語り継がれるライブのひとつとなるが……。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などに出演したオースティン・バトラーがエルビス・プレスリー役に抜てきされ、マネージャーのトム・パーカーを名優トム・ハンクスが演じる。

映画.comより引用

アメリカンドリーム、それは搾取せずにはいられない歴史だった

てっきりエルヴィス・プレスリー目線の映画だと思ったら『アマデウス』だった。『アマデウス』がモーツァルト目線の映画ではなく天才の側にいたサリエリの眼差しを描いていたのと同様、『エルヴィス』はプレスリーのマネージャーであるトム・パーカー大佐目線から語られる。サリエリと違うところは、トム・パーカーはメフィスト的誘惑で、プレスリーを嵌めていく悪魔の側面が強いところにある。そして、映画はトム・パーカーが「俺はプレスリーを殺していない。」と弁護するところから始まる。

序盤は、びっくりするほど表面的なプレスリーが描かれていく。煌びやかで歌って踊るアイドルとして描かれ、中々内面が見えてこない。にもかかわらず、映画は走馬灯のごとく豪速球で駆け抜けていくのだ。現実味のない夢の世界に観客を誘うわけだが、その横で公民権運動やケネディ暗殺事件といった歴史的事実が並ぶとプレスリーに魂が注ぎ込まれる。そして大佐に反発するようになるのだ。これは、プレスリーが音楽に目覚めるきっかけになった出来事として黒人の宴に紛れ込む挿話と関係してくる。彼の幼少期を描いたパートがある。プレスリーは黒人が歌い踊り狂う宴に入り込む。そこには黒人しかいない。大人に見つかる。つまみ出されるかと思いきや、歓迎されるのだ。そのエピソードを背に持つ彼は、狂乱の人生の隙間にある「分断」が気になる。白人と黒人のコミュニティを自由に行き来するプレスリーは、分断を止める救世主だと自覚するようになり、表現の自由を弾圧しようとする社会に反発するのだ。

その過程で障害となってくる男が大佐である。大佐は不法移民として身分を偽りながら生きてきた。彼はアメリカンドリームを夢見て渡米し、プレスリーを搾取することで夢を掴んでいた。一度掴んだ夢は離したくない。そう考える大佐は、ワールドツアーをしたいプレスリーを邪魔する。自分が不法移民だとバレたら、夢が破れてしまうからだ。ステージとドラッグにプレスリーを漬け込み、骨抜きにしていく。だが、彼に搾取の自覚はない。それは、自分があの手この手で彼をプロデュースしてきて勝ち取った富であり、悪を働いている自覚がないのだ。

極貧の身分を偽り、ひたすら努力して富豪に成り上がり、意中の女性を手にしようとする『華麗なるギャツビー』と通じる話だ。そして『エルヴィス』ではアメリカンドリームの歴史と終焉を描いている。ヨーロッパから新天地を目指してアメリカ大陸へ渡った者は、先住民を蹂躙して財をなした。アメリカンドリームは搾取の上に成り立っている。エルヴィスは、アメリカンドリームの良心として搾取と戦い、分断を解消する者を目指す。しかし、アメリカンドリームの籠の中で飼い慣らされてしまう。それを象徴するのはラスベガスの摩天楼で孤独を増幅させるプレスリーの姿だろう。過密スケジュールにより、ステージと摩天楼に閉じ込められ、市民や家族から心身もろとも引き離された彼は亡くなってしまう。

テレビで「アメリカ史の一部を失ってしまった」と語られるが、それはまさしくその通りであろう。

狂乱の熱にうなされるようなアメリカンドリームの真相は搾取だった。エルヴィスの死でもって大佐の搾取が明らかとなった。バズ・ラーマンは、煌びやかな世界から観客を闇へ引き摺り込むことで、アメリカンドリームは終わった!目を覚せ!と語っているのであろう。

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※映画.comより画像引用

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