【東京国際映画祭】『輝かしき灰』人生とは川の流れに火事があるものだ

輝かしき灰(2022)
原題:Tro Tàn Rực Rỡ
英題:Glorious Ashes

監督:ブイ・タク・チュエン
出演:コン・ホアン・レ、バオ・ゴック・ゾリン、フオン・アイン・ザオetc

評価:40点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第35回東京国際映画祭コンペティション部門に出品されていたベトナム映画『輝かしき灰』を観た。これがクセの強いスローシネマであった。

『輝かしき灰』あらすじ

ベトナムを代表する作家グエン・ゴック・トゥの小説を映画化。ベトナム南部の海沿いの村を舞台に3人のヒロインとそれぞれの男性との関係を描く。監督は『漂うがごとく』(09)のブイ・タック・チュエン。

※第35回東京国際映画祭より引用

人生とは川の流れに火事があるものだ

作家の高野秀行が「語学の天才まで1億光年」の中で、コロンビアでの体験を例にマジックリアリズムは中南米の現実であると語っている。国家警察は決して辿り着けないし、誰も場所を知らないが旅行者がうっかり迷い込んでしまうコカイン工場のエピソードを基にマジックリアリズムを語っている。現実離れした状況が現実のものとして捉えられる感覚は南米だけの感覚ではない。東南アジア、例えばアピチャッポン・ウィーラセタクンやアノーチャ・スウィチャーゴーンポンが撮るような時空の不思議な流れを捉えた映画にこのような感覚の片鱗が感じられる。

『輝かしき灰』はまさしく、そのタイプの作品であり、内容自体はクズ男と女の関係を描いたありがちな作品に思えるのだが、映画に流れる奇妙な時間が観る者を異界へと誘う。業火を背に料理をする強烈な場面から始まる。草むらに隠れて営む男女。男がフッと魂が抜けたようにぐったりとし、女は水の闇へと消えていく。かと思えば、海にぽつんと立つ小屋が映し出される。登場人物の関係性がよく分からないまま、断片的に画が繋げられていく。しかし、そのひとつひとつにやたらと時間をかける。

一旦、映画の内容を理解するのをやめ、感覚に身を任せてみると、心地よさと妙な面白さが染み出していく。お経を唱えるお坊さんにヘビをけしかける女。その女だろうか?のちに物陰から飛び出すヘビにビビる。因果応報と思しき場面が突然展開されていくのである。また、ムスッと口を利かない女の船に乗ったら、アクション映画さながらの爆走を始め、乗客がゲロを吐くハリウッドアクション映画で観るようなギャグパートが差し込まれたりする。

やがて、クズ男とそんな男に愛を捧げようとする女の物語が浮かび上がってくるのだ。そして、物語を突き動かす発火装置として、火事が使われる。人生とは川のように流れる。その時々で、火事のような大きなイベントが発生する。それを象徴しているのではないだろうか。だから、火事の原因みたいなものはあっさりと扱われる。この時間跳躍、と引き伸ばされた時間のアンサンブルは映画祭でしか観られないような体験であり、退屈はしてしまったものの面白い映画を観たなという気分にさせられるのである。

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※第35回東京国際映画祭サイトより画像引用