YouTube動画ベスト2022~音楽編~

YouTube動画ベスト2022~音楽編~

2022年も残すところ1日を切りました。映画の年間ベストがTwitterを賑わせているこのところですが、今年から廃止したことがあります。

それは「ワーストテンを決めるのはやめよう」ということだ。正直ブログのアクセス数はワーストの方があるのですが、あまり書いていて面白くなかったというのと、ワーストテンを書くくらいならもっと推すべきものがあるだろうと考えるようになったからです。今年はYouTube動画の研究を行いました。12/29(木)には自らVTuberになって配信することにも挑戦しました。映画や記事執筆と同じく、YouTube動画も500本近く触れてきたので、良かった作品について語っていこうと思います。なお、上半期にベストを出した際、音楽系の動画ばかりになってしまったので、音楽編と動画編に分けてアップします。動画編は1/1(日)にアップします。

1.【MV】刀ピークリスマスのテーマソング2022 / ピーナッツくん(ピーナッツくん!オシャレになりたい!)

毎年クリスマスに、にじさんじ所属ライバーの剣持刀也さんとピーナッツくんが密会をする企画「刀ピークリスマス」が開催される。ピーナッツくんが剣持刀也さんに対する気持ち悪い恋情を綴った歌をプレゼントするのが毎年の恒例となっている。ピーナッツくんといえば、ラッパーとしても活躍しており、年数を重ねるごとに気持ち悪い歌詞と超絶技巧の音楽性のギャップの面白さが増していっている。その凄まじさから2021年の楽曲は700万再生を超える結果を叩き出した。いくら2022年、日本最大規模のヒップホップフェスPOP YOURSに出演したり、単独ライブWalk Through the Stars Tourを行ったとはいえ、ハードルが上がりに上がっている。ピーナッツくんはプレッシャーに負けてしまうのでは?遊びから始まったのに、いつしか真剣勝負の場になっていないか?そんな状況に一抹の不安を抱きつつ、観た。杞憂であった。例年のポップな音楽から少しトーンを落とし、大人な雰囲気を醸し出しながらコックカワサキ、からかい上手の高木さんといった固有名詞芸を仕掛け、人の飲み掛けのジュースを飲んでしまうほどの情熱という気持ち悪い感情を提示する。耳に残るサビ、ピー刀に対する配慮といった、「刀ピークリスマス」のクリシェを擦り倒す。伝統芸能と語っている通り、曲調は変わりつつも、的確にネタを挿入していく。そして、クリシェの外側にスタイリッシュな韻、世界観を紡ぎ出す。

君がケンならぼくはバービー
人形になって空までジャーニー
バラバラ 体
痛くて放心するパラダイス

特にこの歌詞が素晴らしく、「剣持刀也」からバービーのパートナーである「ケン」を連想し、恋愛の痛みと快感を部品が外れる人形に重ね合わせる想像力に感動した。ピーナッツくんの世界観は最高である。

2.IKZO x TM NETWORK 俺らゲットワイルドだ’19(ポンコツクリエイターch)


吉幾三の「俺ら東京さ行くだ」とTM NETWORKの「Get Wild」が対話している!そんな衝撃的なサンプリング曲。89年版の「Get Wild」のリズムに合わせて吉幾三が「テレビもねぇ、ラジオもねぇ」と語るところから始まる。途中から「Get Wild」の歌が始まるのだが、吉幾三が歌詞にツッコミを入れるような重ね合わせが行われる。

アスファルト タイヤを切りつけながら 暗闇走り抜ける
車もそれほど走ってねぇ
チープなスリルに身をまかせても 明日におびえていたいよ
数珠を握って空を拝む

このツッコミの鋭さと視点の面白さに下半期ヘビーローテーションしていました。

3.名取さな – モンダイナイトリッパー!【オリジナルソング】(さなちゃんねる)

VTuber名取さなさんの世界観を的確に再現した楽曲。ダジャレや言葉遊びを得意とする彼女の性格を体現するように「キボウ ヤボウ デクノボウ」と連装ゲームから始める歌詞。MVはインターネット世界のように、次々と異なる次元を飛び回り、ある種世界旅行ができてしまう様、物理的世界と仮想世界の縦横無尽な横断をコミカルに描いている。2020年代はコロナ禍で自由に旅行することが難しい時代、そんな時代に彼女の縦横無尽な旅の曲は私の心に染み渡った。

4.PAS TASTA – peanut phenomenon ft. ピーナッツくん (Music Video)(PAS TASTA)

ピーナッツくんがPAS TASTAと組んだ楽曲。マクドナルドのCMやスプーの絵描き歌、キーボードクラッシャーなどといったゼロ年代のネットミームのパロディを畳み掛けながら、曲調をコロコロ変えていく前衛的なスタイルはインターネットにおける情報の洪水を表現しているとみた。ピーナッツくんは映画好きでもあり、楽曲の中で『狂い咲きサンダーロード』や『グリーン・インフェルノ』を引用することがある。今回は、ネットミームを探す様子を『アンダー・ザ・シルバーレイク』に例えており、ピーナッツくんの映画に対する慧眼を目の当たりにした。

5.サカナクション / ショック! -Music Live Video-(サカナクション sakanaction)

このMVは空間演出が映画的で面白い。ステージで歌い踊るサカナクションにレポーターがマイクを向けるも応じない。スタジオでは、人々がやじを投げる。やがて、『ストップ・メイキング・センス』におけるデイヴィッド・バーンのようにステージから降り、山口一郎が歩き始める、カメラがぐるっと回るとスタジオに直結しており、彼のアクションがスタジオに影響を与えていく。スペクタクルが、人々の行動をコントロールする様を、テレビ映像というディスプレイ越しの映像体験と、物理的に行動が操られていく様子を並列に描くことで風刺として昇華させることに成功している。

6.POLYSICS『Let’s ダバダバ』(POLYSICS Official YouTube Channel)

個性と無個性の波をコミカルに描いたPOLYSICSのこのMVは観ていて楽しい。トレードマークの目隠しをつけた老若男女がストップモーションアニメのように次々と出ては消えてを繰り返して、群としてのアクションを展開する様にインスピレーション掻き立てられた。また、シームレスに回転する中ドラムを叩く人だけが切り替わる。アナログとデジタルの同時共存は、そこから発生する違和感が画や音楽への好奇心を引き立てるので、素晴らしい演出だなと感じた。

7.【歌ってみたので】chocolate box-RinPart-🍫【歌ってください】【物述有栖/にじさんじ】(♥️♠️物述有栖♦️♣️)

VTuberに注目し始めた3月頃、歌ってみた動画を調査していた。その中でも斬新だったのが、にじさんじ所属ライバーである物述有栖がボカロ曲「chocolate box」を歌ってみた作品。この楽曲はVOCALOIDである鏡音リン、鏡音レンの2パートからなる楽曲だが、彼女が歌うのはリンパートのみ。レンパートは視聴者に歌ってもらう形式を採用している。画もカラオケ風に作られており、まるで物述有栖さんとカラオケデートしているような体験を与える内容となっている。歌ってみた動画の多くは、元ネタのアニメ映像を引用したスタイルを取るが、カラオケスタイルでそれをやってみせるアイデアに衝撃を受けた。

8.びわ湖くん×ピーナッツくん – METAVERSE (Chapihara Remix)(メニホビ / Many Hobbies Lab)

12月はメニホビさんのRemix曲を聴きながら、世界遺産検定マイスターの勉強に励んでいた。メニホビさんの楽曲は元の曲の良さを引き出すのに長けており、例えばピーナッツくんの「グミ超うめぇ」はまるでグミを噛み締めているかのように、歌詞を強調する作品に仕上がっていた。そんなメニホビさんが、びわ湖くん×ピーナッツくんの楽曲「METAVERSE」のRemixを作ったのだが、これがまた良かった。どこか平成のトレンディドラマの主題歌を彷彿とさせるような質感のメロディがメニホビさんの手にかかれば、スタイリッシュにびわ湖くんの語りに応えていくピーナッツくんのビートアクションへと早変わり。ピーナッツくんのラップ部分が好きな私にとって素晴らしいクリスマスプレゼントであった。

9.【歌ってみた】ゾンビ/宇志海いちご(宇志海いちご)

にじさんじ所属ライバーの宇志海いちごさんがDECO*27の楽曲「ゾンビ」を歌った作品がハロウィン時にアップされた。恋に溺れる様をゾンビに喩えた原曲の視点は、映画ファンである私にとって「そんな解釈があるのか」と驚かされた。そんな「ゾンビ」だが、宇志海いちごの甘くて魔性な歌声と合わさると、ファムファタールなものへと早変わり。一度聴くと忘れられない悪魔の曲に仕上がっていた。

10.YAKISOBA(プロハンバーガーREMIX)/DJ マリアージュ(プロハンバーガー Pro hamburger)

中野界隈では株式会社おくりバント会長である高山洋平氏率いるDJ マリアージュがバイブスを上げていた。DJ マリアージュとは、外国人が日本語で歌った曲を集めて紹介していくDJ軍団である。そんなDJ マリアージュ最大のヒット曲であろうYAKISOBAを映像職人プロハンバーガーさんがMVに仕上げた。焼きそばを持ちながらフロアを上げている高山洋平氏。そこに挿入されるのがヨルゴス・ランティモス『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のスパゲッティシーン。焼きそばじゃないじゃんとツッコミを入れたくなるボケを挟みつつ、焼きそばのCMを合いの手として挿入し、サイバーおかんさんお手製の光る焼きそばがサイケデリックな空間を包み込む。映像による遊びに満ちた作品であった。