YouTube動画ベスト2022~動画編~

YouTube動画ベスト2022~動画編~

映画のワーストテンを2022年から廃止しました。その代わり、今回は2022年に観て良かったYouTube動画について語っていきます。

1.【ASMR/DummyHead】睡眠導入眠れる心音長時間耐久ASMR💕heartbeats binaural【物述有栖】【にじさんじ】(♥️♠️物述有栖♦️♣️)


3月にはASMR動画を追っていたのだが、一本の動画に惹かれた。この時、私があそこまでVTuberにハマり自らVTuberをやるとは知る由もなかった。

このASMR動画は、にじさんじ所属のVTuber物述有栖さんが5時間に渡って自分の寝ている心音を聴かせる内容となっている。

半世紀以上前、アンディ・ウォーホルが友人である詩人のジョン・ジョルノが寝ている姿を撮り5時間以上の作品に仕上げた『スリープ』を発表した。本作は映画レビューサイトFilmarksだと苦しんで観たような感想が散見される。それに対して物述有栖さんが寝ているだけの動画には多数の好感コメントが寄せられ、10万回以上再生されている。VTuberを哲学の方面から分析する学会に参加したり、記号論を勉強する過程でこの現象の差を少し説明できるようになったと思う。

『スリープ』の場合、寝ているジョン・ジョルノを観るというよりも「アンディ・ウォーホルが撮った作品」として観る意味合いが強い。そのため、知らないおじさんが寝ている姿を長時間観る体験となり、結果として苦痛を伴うのであろう。一方、物述有栖さんのASMR動画は、「物述有栖さんを観る」が目的となる。コメントをしている方の多くが、推しである彼女が寝ている姿に癒されることを目的としていると思われる。2つの作品はどちらも「寝ている存在」を捉え続けているが、視聴者心理が異なるため、コメントに差が生じていると考えられる。実際に、自分も別の彼女のASMR動画を観る時、「物述有栖さんを観る」が第一の目的に置かれていたことを踏まえると腑に落ちる答えを出せたかなと思う。今年最大の映像体験であった。

2.松平健『マツケンサンバ』歌おうとしたら…(ガーリィレコードチャンネル)

YouTuberの動画の多くが平面的な画で構成されており、YouTuberの存在を予言したような作品である『デイヴィッド・ホルツマンの日記』で描かれたような空間内での語りは滅多に観られない。しかしながら、お笑い芸人ガーリィレコードのYouTubeチャンネルはフェニックスさんの長回しと立体的な空間構造が素晴らしく、映画の撮影監督になったら凄いことになるぞと思っている。そんなガーリィレコードチャンネルの動画の中で画期的な空間フォーマットがある。それは歌動画で観られる。扉の奥から歌声が聞こえ、恐る恐る開けると、コスプレした人(主に高井さん)が踊り狂っているといったものだ。まるでティツィアーノ「ウルビーノのヴィーナス」のような奥行きの差、そして扉越しに虚構が生み出される様に感動を覚えた。特にマツケンサンバ回は、高井さんの想像以上に機敏なダンスの意外性もあって腹筋が崩壊した。

3.俺は高校生イラストレーター、”しぐれういお”や。(しぐれうい)

イラストレーターでありVTuberである、しぐれういさんはフワフワした語りとは裏腹に高度な配信を行なっており、凸配信ひとつとっても公衆電話からイタズラ電話をかけているような空間を作る面白いVTuberだ。彼女が、男装した姿で登場する「俺は高校生イラストレーター、”しぐれういお”や。」は記号論の観点から興味深い演出がなされている。最初は恋愛ゲームの画面に映し出される「しぐれういお」がリスナーのコメントにツッコミを入れていく。しかし、12分過ぎに3D状態の「しぐれうい」が現れる。そして一人二役の芝居を始めるのだ。面白いのは、視聴者からは「しぐれうい」の後ろ姿しか映っていないので、口元が分からない。だから「しぐれういお」が話していても「しぐれうい」の口が動いてしまっている状況は見えない。なのでリアルな、2次元と3次元の掛け合いを見ることができるのである。また、「しぐれうい」が「しぐれういお」にイラストをあげる場面がある。画面上は、明らかに彼の目線からはイラストの中身を見ることができないのに、認識しているように振る舞う。そして意識していなければ視聴者も、この状況に違和感なく受容する。スクリーン内に構成された仮想空間だからこそ許される、見る/見られるの関係性に興味深いものを感じた。

4.【FULL】バブル前夜のテレワーク(フィルムエストTV)

フィルムエストTVが作る昭和のテレビっぽい映像は、俳優の絶妙な昭和語りの上手さもあり一見すると本物のアーカイブ映像に見えてしまう魔法がある。この動画はもしも昭和にテレワークがあったらといった設定で、絶妙に効率の悪い伝言リレーのおかしさが描かれている。本作最大の爆笑ポイントは、忘年会で映像を使うためキロバイト便でデータを送る場面。3000キロバイト分のデータを送る必要があるのだが、1回の上限が1メガバイト、つまり1000キロバイトしかキロバイト便では送れないとのこと。取材対象の長谷川さんは、念には念を入れて復唱する場面のまどろっこしさはツボであった。しかも、3つの大きな箱を手渡しで送っているところにまた魅力が詰まっていた。

5.【24時間生放送】第1部 #ぽんぽこ24 vol.4 あつまれパーリナイッ!!よりバーチャルホストクラブ(ぽんぽこちゃんねる)

トップクラスの個人勢VTuberであるぽんぽこさんとピーナッツくんは定期的に24時間テレビのような企画「ぽんぽこ24」を行う。その企画はどれも面白いのだが、その中でも群を抜いて面白かったのがバーチャルホストクラブだ。ピーナッツくん、卯月コウさん、コーサカさんの3名が3分間で女性VTuberを口説いて、どれだけ高い注文を受けられるかを競い合うもの。ピーナッツくんと卯月コウさんがポンコツな会話デッキで望む中、コーサカさんが仕掛ける超絶技巧な語りが凄まじいものとなっている。特に郡道美玲パートにおけるコーサカさんのテクニカルトークは、思わず日常で活かしたくなるほど、シンプルかつ鋭く相手の心を鷲掴みにするものがあった。ネタバレになるので、詳しくは動画を観て確かめてくれ(5:05:00付近から観られる)。

6.EQUALINE – RTA in Japan Summer 2022(RTA in Japan)

ゲームをどれだけ早くクリアするかを披露するチャリティイベントRTA in Japan。2021年夏から存在を知り、毎回楽しみにして観るのだが、解説もプレイも素晴らしかったEQUALINE回を推したい。数字と記号を組み合わせて指定の数字を作るシンプルなゲームのRTAなのだが、目にも止まらぬスピードで次々と攻略していく走者。それも物腰柔らかな口調で走っていく姿が素晴らしい。そして解説者が、目にも止まらぬスピードで駆け抜けていく彼が何をしているのかを丁寧に解説していく。そのため、全くこのゲームのことが知らなくても面白く楽しむことができる回となっている。このゲームの開発者も駆けつける緊張感の中、なかなかステージ解除条件を満たせない焦りの中、手汗握る曲芸を華麗に決めていく姿に胸躍らされた。

7.【今までで一番の苦行】クリアするのにノーミス前提で●●●●時間かかる史上最凶のクソゲー【要塞の剣:ソードオブフォートレス】(からすまAチャンネル)

いわゆるクソゲー配信者のからすまさんのクソゲーに捧げる愛情は本物である。単にひどいゲームだからと茶化して数十分プレイして終わりにすることなく、クリアを目指して奮闘する姿はゲームセンターCXの有野課長を彷彿とさせる。そんな彼が「水族館プロジェクト」、「ちびまる子ちゃんおこづかい大作戦!」を超える凶悪なゲームに挑戦した。それが「要塞の剣:ソードオブフォートレス」である。敵の攻撃は一発アウト。死んだら1からやり直しの極限状態で、敵の体力がどんどん倍になっていき、数体目に挑む頃には数時間にも渡って弓矢で狙撃し続けないといけない拷問のような内容となっている。20時間に渡って挑戦し続けた彼のレポートの凄まじさ。まさしくデスゲームに挑む勇姿に感動した。

8.え〜今日の晩御飯ゴーヤチャンプルか代(油粘土マン)

タイパが求められる時代、YouTube界にもショート動画や1分動画が散見されるようになった。その中でも、コント動画をアップし続けている油粘土マンの作品はどれも面白くて毎回チェックするようにしている。彼の動画はたとえば「タネマシンガンを撃つウソッキーのモノマネ」という題で、マシンガンを装備したウソッキーが暴れる作品がある。実在しないにもかかわらず「モノマネ」と称する謙虚さがツボである。さて、そんな彼が「君が代」とゴーヤチャンプルに対するぼやきをマリアージュした本作は、日常の一コマが荘厳な国家と重なる異様さが刺激的な作品であり、今年最も攻めた作品として私の心に刺さったのであった。

9.【ドッキリ】昆虫採り中に目の前でカブトムシ食べてみた!!!(ぽんぽこちゃんねる)

ぽんぽこさんが、時折ガチ恋モードになる。萌え声で辛いものや昆虫を食べるギャップギャグを動画に収める。バラエティ番組でタレントが激辛料理や昆虫を食べる様子を観るのはあまり好きではない。タレントが苦しんでいる様子を観ると居た堪れなくなるからだ。VTuberがアバターの姿を介してこの手の企画をやると、直接食べる場面が映し出されないから、視覚的キツさが中和される。良し悪しは置いておいて、この感覚は今年観た映画『Il n’y aura plus de nuit』と重ね合わせると興味深いものを感じる。この作品は全編暗視カメラの映像を通じて戦争による凄惨さがどこか他人事に思えてしまう感情を炙り出す作品となっている。

ガチ恋ぽんぽこさんの企画する強烈な激辛料理動画や昆虫食動画は、本人が抱く痛みから視聴者を遠ざけている気がした。一方で、ぽんぽこさんはそれを利用して、昆虫食に果敢に挑戦し、ついには昆虫食専門店TAKEOとコラボ商品を制作。ぽこピー展で販売すると瞬時に完売する状況を生み出した。技術によって、昆虫食を広めた功績は評価すべきであろう。話を動画に戻すと、本作はカブトムシ採り中に食用のカブトムシを食べるドッキリ企画となっている。このアイデアだけでも面白いのだが、なんとこれがガチ恋ぽんぽこさんの新衣装発表の場であるという衝撃。ぽこピーは企画力が凄まじいのだが、このバラエティ番組顔負けなアイデアには脱帽した。

10.【コウメ1-GP①テイル】コウメ太夫×最低やさいコーナー(『アルピーテイル』公式)

コウメ太夫のシュールで難解なネタがアニメになったことで、世界観が明らかになる。その視点を見つけたこの動画にただただ脱帽する。ヤマタノオロチを華麗に倒すも、そこから初恋の女の子が出てきた時の絶望感。滑稽なヴィジュアルなコウメ太夫のネタが如何に切ない話かがよく分かる。2つ目の綿菓子マシンを買ったと思ったらアンドロメダ銀河でしたネタは、綿菓子マシンの回転から宇宙を想像する視点がある解釈が画で提示され腑に落ちるものがあった。コウメ太夫のネタの難解さを画で言語化するのに成功した素晴らしい例といえよう。