【JAIHO】『馬を放つ』キルギス、ケンタウロスは馬を放ちたい

馬を放つ(2017)
Centaur

監督:アクタン・アリム・クバト
出演:ヌラリー・トゥルサンコジョフ、ザレマ・アサナリヴァ、アクタン・アリム・クバトetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

JAIHOで珍しいキルギス映画『馬を放つ』を観た。キルギスは中国とカザフスタンに囲まれた国。映画.comに掲載されているアクタン・アリム・クバト監督インタビューによれば、キルギスではデジタルカメラによって一年で多い時には100本程の作品が作られるとのこと。昨年の中央アジア今昔映画祭でキルギス映画『ジャミリャー』を観て興味を持った国である一方、中々日本には入ってこない。ということで今回挑戦してみました。

『馬を放つ』あらすじ

『あの娘と自転車に乗って』(1998)、『明かりを灯す人』(2010)などで世界がその才能を絶賛したキルギスの名匠アクタン・アリム・クバトが、監督と同時に強い信念を秘めた寡黙な主人公ケンタウロスを熱演した渾身作。キルギスの第7回アク・イルビルス国家映画賞作品賞、監督賞他4部門、第67回ベルリン映画祭パノラマ部門国際アートシネマ連盟賞など、各国の映画祭で受賞を重ねる現代の寓話。かつてシルクロードの要所として繁栄を誇った山岳と草原の国キルギスを舞台に、自然光で撮影された映像は郷愁的で、観る者の心を揺さぶる。

 中央アジアの美しい国、キルギス。妻と幼い息子の3人で慎ましく暮らす男は、村人たちから“ケンタウロス”と呼ばれていた。そんな彼には誰にも打ち明けていない秘密があった―。豊かな大地を馬で駆け、自然の恵みを受けてきた遊牧民を祖先にもつキルギスの人々の心には、馬と人間を結び付け、村人たちを団結させてきた伝説が息づいていた。失われつつあるその伝説を強く信じているケンタウロスは、人知れず厩舎に忍び込み、馬を盗んでは野に放っていた。だが、馬泥棒の存在が問題になり、犯人を捕まえるために罠が仕掛けられる…。

JAIHOより引用

キルギス、ケンタウロスは馬を放ちたい

ケンタウロス(アクタン・アリム・クバト)は夜な夜な、敷地に侵入する。用を足す見張りの小屋に鍵をかけ、その間に馬を放つ。彼は、ろう者の妻マリパ(ザレマ・アサナリバ)と息子と慎ましく暮らしている。息子には言葉を話してほしいと、一生懸命キルギスの伝統的な話を聞かせ楽しませている。ケンタロウスは映写技師であったが、劇場がモスクになってしまい切なさを抱えている。そんな彼にはさらに秘密があった。屋台の女性シャラパット(タラキアン・アバゾバ)と親密な関係にあったのだ。

そんな彼の秘密の生活は徐々に陰りをみせていく。近所の女性がケンタウロスの不倫をマリパに伝えようとするのだ。このやりとりが興味深い。マリパに必死に伝えようとするが、言葉が通じない。筆談を試みるが、ロシア語でお願いしますとマリパは伝える。コミュニケーションの難しさを印象付けるシーンとなっている。

美しく広大な大地での物語ながらも、ケンタウロスが抱える秘密が徐々に彼を追い込んでいく。その中で、彼の信じるものが見えてくる。本作は文化に飲み込まれていく世界で、自分のアイデンティティでもある伝統を守り抜こうとする男の悲劇が描かれていく。そのプロセスはどこかフィルム・ノワールのよう。堕ちていく男を通じて人間のある心理を醸造する要素がキルギスの美しい景色の中に描きこまれていたことに驚かされた。


尚、本作で映るポスターの作品「赤いりんご(Красное яблоко)」はキルギス国立映画スタジオ公式youtubeチャンネルで配信されていました。

※映画.comより引用