【ネタバレ】『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』クズ男・スネ夫は引きこもる

映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021(2021)

監督:山口晋
出演:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、香川照之(市川中車)、松岡茉優、朴ロ美(朴路美)、梶裕貴、諏訪部順一etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

コロナ禍で公開が延期となり、2021とあるのに2022年まで公開がずれ込んだ『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』。1985年に公開された作品のリメイクである。特撮へのロマン、ピリカ星描写がジョージ・オーウェルの「1984年」を彷彿とさせるディストピアが魅力的なドラえもん映画の中でも指折りの名作をリメイクすると聞いて私はワクワクしながら映画館へ向かった。今のロシアのウクライナ侵攻が連日ニュースで報道される中本作を観るとグロテスク極まりないのですが、その心苦しさを踏まえても面白かった。そして何より大人になったこの物語に触れてみて、政治ドラマとして秀逸だったので今回はその辺と特撮周りを中心に語っていく。

なお、ネタバレ記事である。

『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』あらすじ

国民的アニメ「ドラえもん」の長編映画41作目。1985年に公開されたシリーズ6作目「映画ドラえもん のび太の宇宙大戦争(リトルスターウォーズ)」のリメイク。夏休みのある日、のび太が拾った小さなロケットの中から、手のひらサイズの宇宙人パピが現れる。パピは、宇宙の彼方の小さな星、ピリカ星の大統領で、反乱軍から逃れて地球にやってきたという。スモールライトで自分たちも小さくなり、パピと一緒に時間を過ごすのび太やドラえもんたち。しかし、パピを追って地球にやってきた宇宙戦艦が、パピを捕らえるためのび太たちにも攻撃を仕掛けてくる。責任を感じたパピは、ひとり反乱軍に立ち向かおうとするが……。監督は「ケロロ軍曹」劇場版シリーズなどを手がけ、「映画ドラえもん のび太の月面探査記」では演出を担当した山口晋。脚本に「さよなら、ティラノ」「サイダーのように言葉が湧き上がる」「交響詩篇エウレカセブン」などアニメ作品を多数手がける佐藤大。

映画.comより引用

クズ男・スネ夫は引きこもる

スネ夫宅にて撮影が始まる。巨大なセットを組み、宇宙叙事詩を生み出そうと、子どもたちが汗水たらしながら決定的瞬間を映すため躍起になっている。ドラえもんも加勢し、クロマキを用意する。水槽に液体を垂らし、それを合成していく。皆の創意工夫でもって世界が生み出される。この創作の感動をオープニングで手際よく捉えていく。これは単なる特撮ファンへの目配せではない。後に、ジャイアンのパワー、ドラえもんの機材調達能力、スネ夫のアイデア力、のび太のトラブル誘発能力を手繰り寄せて小さな星を救うクリエイターの勝利を象徴する場面であるのだ。

本作は二部構成となっており、地球パートでは特撮の魅力をメインに、ピリカ星パートでは政治戦をメインに物語る。

第一部は、なんといっても視点の捉え方への拘りが魅力的だ。小さなパピを覗き込むのび太とドラえもん、フォーカスを意識したショットをキメる。ドールハウスで遊ぶ場面では、断面になっている部屋の利点を活かして下の階から上の階に向かって話しかける非日常の構図を形成する。お風呂で遊ぶ場面は、まるでプールのジャンプ台のような空間にいるような構図の中で会話をさせる。一つ一つは地味ながらも的確に、小人の視点から映せる非日常を抑えていく。

そして、パピを追ってきたドラコルルに急襲される場面で、その緻密さは花開く。スモールライトで小さくなったドラえもんたちが撮影する。スネ夫の作ったセットがよりダイナミックになる。土の粒子が相対的に大きくなり、火星のような空間に化ける。彼らが車で爆走していると、天が暗くなる。ドラコルルの戦艦が現れるのだ。元の姿だと大したことない戦艦だが、パピサイズとなった彼らにとっては脅威だ。熱線で火の海と化すセット。クロマキで虚構が強調されていた空間も、業火によって現実の脅威となってのび太たちに襲いかかる。なんとか逃げ出す彼ら。それを追う戦艦だが、さらに巨大なトラックに跳ねられあっさり撃沈する。のび太たち、戦艦、トラックと複数のサイズの提示による力関係を華麗に表現した素晴らしいシーンだと言えよう。

第二部では、ピリカ星に乗り込み独裁政権を倒す物語が描かれる。ここではパピの大統領としての政治的考えとジャイアンを筆頭に暴走する正論が対立する。パピは若くして大学を卒業し大統領となった。大人の社会特有の政治的振る舞いを知っている。一方で、ジャイアンたちはそれを知らない。故に「仲間が痛い目に遭ったらぶちのめす」、「困っている仲間を助けないのはおかしい」と詰め寄り、事態を混乱させてしまう。パピは人々の士気を高める瞬間はどこかを考えており、それはギルモア将軍に負けを認め退官式に出席する素振りをみせて革命演説を仕掛けることにあった。事前にリークされたら終わりの計画。いつ、どこでバレるか分からない。だからのび太たちやピリカ星の人々にもバレないように行動するが、いちいち邪魔してこようとする。このような面従腹背や情報流出防止の為に仲間に手の内を明かさないシビアな政治的テクニックをのび太たちは理解できない。そのもどかしさの中暗躍するパピにハラハラドキドキさせられる。

またクズ役が多いスネ夫だが、今回はそのクズ描写への解像度が高かったのも良かったポイントだ。スネ夫からしたら、セットは破壊され、撮影は難航し、おまけに不必要に戦争へ巻き込まれてしまう。しずかちゃんを前に背伸びしてみたりするが、いざ危機が目前に迫ると怖くなってしまう。スネ夫は本作で数度に渡り引きこもる。その際の翳りは碇シンジに近い共感を生み出す。スネ夫をただのボンボンとして処理せず歩み寄っているところに好感を持った(1985年版は小学校の時に漫画で触れたレベルなのでスネ夫描写の解像度があの時も高かったのかは覚えていない)。クズにも理屈はあるのです。

ピリカ星の人々の声優が棒読み気味だったり、肝心な宇宙戦争場面では地球パートのようなダイナミックさがなくなってしまっていたり粗も少なくはないが、これはかなり楽しめました。

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※映画.comより画像引用