『柳川』6割の対話、魂の会話

柳川(2021)
原題:漫長的告白
英題:Yanagawa

監督:チャン・リュル
出演:ニー・ニー、チャン・ルーイー、シン・バイチン、池松壮亮、中野良子、新音etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2022年は映画を525本鑑賞、YouTube動画約500本鑑賞、約40冊読書、記事を485本執筆(ブログ、寄稿、コメント)とインプット/アウトプットをたくさん行えた年であった。流石に記事を1ヶ月63記事書いた時は人間の生活を辞めかけたが、楽しく文化的な生活を送れたと思う。そんな2022年最後に観た映画は『柳川』だった。映画仲間から年末に観ると良い映画と聞いていたので新宿武蔵野館で観てきたのだが、これがとても良かった。

『柳川』あらすじ

「春の夢」などで知られる中国のチャン・リュル監督が、2019年製作の「福岡」に続いて日本を舞台に撮りあげた人間ドラマ。福岡県南部の柳川市を舞台に、喪失感を抱える人々の心情を静かなタッチで描く。

中年男性ドンは自分が不治の病に侵されていることを知り、長年疎遠になっていた兄チュンを誘って柳川へ旅行することに。柳川は北京語で「リウチュアン」と読み、それは2人が青春時代に愛した女性「柳川(リウ・チュアン)」の名前と同じだった。20年前、チュンの恋人だったチュアンは誰にも理由を告げぬまま突然姿を消し、現在は柳川で暮らしているという。柳川を訪れた兄弟は、ついにチュアンと再会を果たすが……。

「バーニング・ダウン 爆発都市」のニー・ニーがチュアン、「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」でも共演したチャン・ルーイーとシン・バイチンがドンとチュンをそれぞれ演じ、日本からは池松壮亮が参加。

映画.comより引用

6割の対話、魂の会話

外国語で会話する時、100%理解できなくても魂で通じ合うことがある。本作は、言葉が翻訳されるときにこぼれ落ちてしまうもの、それでも伝わるものを丁寧に見つめていく作品だ。兄チュン(シン・バイチン)と共に福岡・柳川にやってくるドン(チャン・ルーイー)。ドンは日本語が使えるので会う人が語る日本語をチュンに翻訳する。だが、通訳士ではないので間違ったことを伝えることがある。たとえば、柳川がジョン・レノンと関係あると船頭は語る。それはオノ・ヨーコの先祖が柳川出身だからとのこと。それをドンは「オノ・ヨーコの出身地」と伝えてしまう。実際にはオノ・ヨーコは東京出身である。

また、居酒屋で女将がチュンのことを「あなたモテるね」と語る。それをドンが翻訳すると、チュンは嬉しそうにする。だが、実は女将の言葉には続きがあって、ドンは可愛がられるでしょといったフレーズが語られる。それは翻訳されない。だが、そうした誤って翻訳される部分や翻訳されない部分は、そういうものだと受容されて日常は続いていく。

これが映画においてどういう役割を与えるのかと考えたときに、女将とリュウ・チュアン(ニー・ニー)が言葉は通じずとも恋の話で魂が通じ合う部分に繋がっていく。つまり、人生において言葉は完璧に伝わることはない。ひょっとすると6割ぐらいしか伝わっていないかもしれない。しかし、心の中で伝わっており、それが親密さに繋がると。不思議な語り口で人間の対話を見つめるチャン・リュル、噂通り面白い監督だと感じた。今後、注目していこう。

※映画.comより画像引用