『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー/Crimes of the Future』外科手術は新たなるセックスだ!

クライムズ・オブ・ザ・フューチャー/Crimes of the Future(2022)

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:クリステン・スチュワート、レア・セドゥ、ヴィゴ・モーテンセン、スコット・スピードマン、タナヤ・ビーティーetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第75回カンヌ国際映画祭でデヴィッド・クローネンバーグ最新作が公開された。タイトルは『Crimes of the Future』。まさかの初期作『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』と同名タイトルだった。しかし、本作はリメイクでも続編でもない。「機能なき完璧な臓器」の要素を掘り下げた作品であった。

※2023/8/18(金)日本公開決定

『Crimes of the Future』あらすじ

Humans adapt to a synthetic environment, with new transformations and mutations. With his partner Caprice, Saul Tenser, celebrity performance artist, publicly showcases the metamorphosis of his organs in avant-garde performances.
訳:人間は人工的な環境に適応し、新たな変身や突然変異を遂げる。著名なパフォーマンス・アーティストであるソール・テンザーは、パートナーのカプリスとともに、前衛的なパフォーマンスで臓器のメタモルフォーゼを公に披露しています。

IMDbより引用

外科手術は新たなるセックスだ!

デヴィッド・クローネンバーグといえば、形而上学から未来の生活様式をピタリと当てる予言映画を作る傾向があり、『ステレオ/均衡の遺失』ではSNSにおける人間の内面を忠実に、『裸のランチ』ではノマドワーカーの存在を、『コズモポリス』は仮想通貨による感情の機微やゆっくり茶番劇買収騒動を当てていた。では今回は何を語るのか?事前情報では、てっきりメタバースにおける新しい肉体を手にする者が、メタバースに興味を持つ胡散臭い者や制度に蹂躙される物語かと思ったら違った。バーチャル美少女ねむが「メタバース進化論」で語っていたファントムセンスを掘り下げていく内容であった。

「外科手術は新たなるセックスだ!」

相棒カプリス(レア・セドゥ)と共に、自らの肉体から存在しない臓器を取り出すパフォーマンスをする男ソウル・テンサー(ヴィゴ・モーテンセン)。ゲーミングPCのような光り方をする臓器型のコントローラを駆使し、公開手術を行い人々を衝撃の渦に包んでいたが、そこに異変と男の影が忍び寄る。

VTuberが3D配信をすると、明らかに現実の動きよりぎこちない運動が行われるが、そのぎこちなさに快感を覚えるように、ソウル・テンサーは明らかに動き辛そうな動作をする。しかし、存在しない臓器により得る新しい感覚に酔いしれ、痛みと快感の狭間を泳ぎ回る。それでも、食道が細くなり、食事を身体が拒絶するようになる。新しい肉体感覚に対する適応の渇望と肉体の拒絶が議論の中心となっており、仮想環境で現実に存在しない感覚が芽生える世界を見据えた物語に見える。

そしてデヴィッド・クローネンバーグが慧眼なのは内面の表象である。よく、「外見ではなく内面を見てくれ」と言うが果たして内面は綺麗なのか?VTuberは美しい仮面をつけ配信を行う。現実で「与えられた」肉体から解放され、カスタマイズされた美でもって他者から内面への興味を抱かせようとする。しかし、内面が綺麗だとは限らない。内なる闇や穢れの存在が軽視されているのではないか?クローネンバーグは『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』の時とは違い、仮想世界に言及することなく、肉体的描写でもって、内なる美の存在に疑問を呈したのだ。これによりメタバースだけでなく、普遍的な人間の肉体と精神の関係性を捉えたと言えよう。

正直、例のごとく数年立たないと何を言わんとしているかは分からないし、映画的運動が少ない作品なので観る人をかなり選ぶが私は大好きであった。なんとなく、ジャン=ポール・サルトル「嘔吐」を読むと深い理解につながる気がした。

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※IMDbより画像引用