【ネタバレ考察】『THE BATMAN ザ・バットマン』闇の中の魑魅魍魎

THE BATMAN ザ・バットマン(2022)
The Batman

監督:マット・リーヴス
出演:ロバート・パティンソン、コリン・ファレル、ポール・ダノ、ゾーイ・クラヴィッツ、ジョン・タトゥーロ、アンディ・サーキス、ジェフリー・ライト、ピーター・サースガードetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

公開してから賛否両論が分かれている『THE BATMAN ザ・バットマン』。『JOKER/ジョーカー』路線のヴィジュアルで3時間の超大作となっていることから、私も期待と不安でいっぱいでした。というのも『JOKER/ジョーカー』が面白かった一方で、『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』のような作品を表面からなぞったような印象を受けてしまった。『THE BATMAN ザ・バットマン』も安易に『セブン』を引用した話に見えて結構不安だったのですが、往年の名作を応用させヒーロー論を重厚に語る作品に仕上がっており、カイエ・デュ・シネマが「競合他社が好む安易な抽象化やおふざけには決して屈しない地球人の映画だ。」と言いたくなるのも納得な作品でした。

ということでネタバレありで語っていく。

『THE BATMAN ザ・バットマン』あらすじ

クリストファー・ノーランが手がけた「ダークナイト」トリロジーなどで知られる人気キャラクターのバットマンを主役に描くサスペンスアクション。青年ブルース・ウェインがバットマンになろうとしていく姿と、社会に蔓延する嘘を暴いていく知能犯リドラーによってブルースの人間としての本性がむき出しにされていく様を描く。両親を殺された過去を持つ青年ブルースは復讐を誓い、夜になると黒いマスクで素顔を隠し、犯罪者を見つけては力でねじ伏せ、悪と敵対する「バットマン」になろうとしている。ある日、権力者が標的になった連続殺人事件が発生。史上最狂の知能犯リドラーが犯人として名乗りを上げる。リドラーは犯行の際、必ず「なぞなぞ」を残し、警察や優秀な探偵でもあるブルースを挑発する。やがて政府の陰謀やブルースの過去、彼の父親が犯した罪が暴かれていくが……。「TENET テネット」のロバート・パティンソンが新たにブルース・ウェイン/バットマンを演じ、「猿の惑星:新世紀(ライジング)」「猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)」のマット・リーブス監督がメガホンをとった。

映画.comより引用

闇の中の魑魅魍魎

スコープで建物を覗き込む。コスプレをした忍者のような存在が刀を振り回している。そこにスーツを着た男が現れる。すると、忍者は彼を切り裂く。突発的な暴力の瞬間にドキッとするが、それはどうも子どもの遊びだったようだ。スコープが上昇すると、暗闇に誰かがいる。政治家がテレビを観ながら右左に動く。その後ろで、マスクを被った今回のヴィラン・リドラーが、殺しのタイミングを図っている。50cm後ろにいるのに気づかぬ政治家。なかなか殺めないリドラー。時は来る。殺しは一瞬だ。その一瞬の殺戮に、ダクトテープをちぎりながら彼は興奮する。この映画は、ジャン=ピエール・メルヴィルのような、2010年代以降風に言えばS・クレイグ・ザラーを彷彿とさせる豊潤な間で「バットマン」を捉えていくのだと予見させる。

この緻密さの持続が3時間続くわけだが、その間には必ず意味があり、特に序盤ではこの物語のテーマを物語っている。治安が改善されないゴッサムシティ。ハロウィンになるとより一層、街は闇に包まれる。コンビニ強盗する男、建物にスプレーを描く男。それぞれ、自分の正義や哲学によって行動する。内なる闇を解放し、暴力を行使する。しかし、彼らが闇を観た時どう思うだろうか?ハロウィンマスクの男は、進行方向に見える闇に怯え始める。落書きする者は、落としたスプレー缶が闇へと吸い込まれ、嫌な予感を抱き逃げ始める。プラットフォームでリンチする男たちの前に現れた闇の間。彼らは逃げることができなかった。闇より出し者バットマンの存在から。


本作のバットマンは、精神衰弱している。警察から疎まれ、自身の正義のあり方に対して自問自答し、内なる闇に侵食されつつあるのだ。つまり、これは『田舎司祭の日記』の骨格を持つ「バットマン」と言え、ポール・シュレイダーが『ライト・スリーパー』や『魂のゆくえ』、『The Card Counter』でやろうとしていたことを「バットマン」で魅せてくれるとも捉えられる。そう考えると、安易な日記で息苦しさを吐露するシーンが挿入されそうで不安になる。確かに、バットマンは独白するし、日記を書く場面もある。しかし、終盤でリドラーが自分の内なる闇を吐露するように膨大な書類を作成していたことが分かる場面でもって高度かつ本質的な応用をしていることに気づかされる。

つまり、本作は内なる闇に取り込まれそうになっているバットマンがキャットウーマンやペンギン、リドラーといった魑魅魍魎を通じて自分を客観視し、正気を取り戻す物語なのだ。リドラーの書類は、本来バットマンが内なる闇を吐き出す行為を肩代わりしており、正義の表裏一体を象徴している。そして、警察に疎まれているバットマンが、自分と向き合い、正面から公共福祉に関わることが真の正義だと光に向かっていく姿は、個人主義で拗らせまくっているMARVEL映画に対する批評にもつながって来るといえる。

全体像を話したところで、細かく掘り下げていく。

まず『THE BATMAN ザ・バットマン』はコメディ映画として秀逸である。コメディ映画ほど真面目であるべきジャンルはない。真面目さが空回りするからこそ、痛々しく愛おしく、おかしい。バットマンは、いわば精神が病みまくっているコスプレ男だ。警察からは「おいおい、マジだろ」とドン引きされるのはもちろん、ペンギンが経営するクラブに正面から訪問するも、「あんたはダメだよ」と警備員に止められ、ブチ切れながら押し入る。そして暴れるバットマンをなだめるようにペンギンが介護し始める。高いところからグライダーのように街を駆け抜けていくも、平気で事故る。でも彼はいたって真面目だ。キャットウーマンも素顔隠し切れていない、古風なコソ泥姿だが、彼女自身はその格好を気に入っているようだ。リドラーはバットマン愛が好きすぎて、何時間も彼が電話の受話器を取り、ナゾナゾに参加してくれるのを待ち続ける。どこか空回りしている正義に痛々しさと可愛らしさを感じてしまうのだ。

だが、映画は決して茶化すことはない。小ボケを入れている素振りも魅せず進行する。アクションに関しては、数十年前のスペクタクルを思い出させてくれる立体的な空間を描いてくれる。都市が爆破され、水没していく。地上は水浸しだ。その数十メートル上の鉄骨で、リドラーの分身とバットマンが格闘する。華麗に、ワイヤーで吊っていくバットマン。モニターが、銃撃で、ドンドン暗くなっていき、落下しそうになりながら、泥臭く体勢を整えていく。銃弾を受けても大抵は弾き返せるが、当たりどころが悪ければ、すぐに立ち上がれない様子も描いている。そこまで戦闘力高くないであろう敵のクリティカルヒットによりダウンし、応戦するキャットウーマンも絶体絶命となる。そこで、彼は決死の鎮痛剤を打つ。


マット・リーヴスは『クローバーフィールド/HAKAISHA』でも、ジャンル映画でありながら、怪獣の見える/見えないを泥臭く描いていた。本作にもその泥臭さからくる人間味が染み出しており、どこか神話的だったDCを我々の物語(=民話)に落とし込むことに成功していたんじゃないかと感じた。

『クローバーフィールド/HAKAISHA』はカイエ・デュ・シネマの年間ベストに入っていることから、DC映画2度目のカイエベスト入りを果たせそうな予感がした傑作であった。

P.S.本作は頻繁にバットマンのテーマが流れるのだが、終盤にアベ・マリアと融合したバットマンテーマが流れる場面で腹筋崩壊しそうになった。これは面白すぎる。

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※映画.comより画像引用