フランス(2021)
FRANCE
監督:ブリュノ・デュモン
出演:レア・セドゥ、ユリアーネ・ケーラー、バンジャマン・ビオレ、ブランシュ・ガールディン、Emanuele Arioli etc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
カイエ・デュ・シネマベストテン2021年5位に選出され、安定の評価となったブリュノ・デュモン新作『FRANCE』。ここ5年程、地方を舞台に素人俳優を起用した作品を作ってきた彼がレア・セドゥを主演にパリの映画を撮る。タイトルは『FRANCE』。この時点で若干不安があったものの、フランス人にとっての神であるジャンヌ・ダルクを民話として引きずり出した彼が、フランス社会そのものの風刺画を作るのは必然だったと言える。
カイエ・デュ・シネマベストテン2021
1.First Cow(ケリー・ライカート)
2.アネット(レオス・カラックス)
3.MEMORIA メモリア(アピチャッポン・ウィーラセタクン)
4.ドライブ・マイ・カー(濱口竜介)
5.France(ブリュノ・デュモン)
6.フレンチ・ディスパッチ(ウェス・アンダーソン)
7.À L’abordage(ギョーム・ブラック)
8.Das Mädchen und die Spinne(ラモン&シルヴァン・ツュルヒャー)
9.The Card Counter(ポール・シュレイダー)
10.Benedetta(ポール・ヴァーホーヴェン)
『FRANCE』あらすじ
A celebrity journalist, juggling her busy career and personal life, has her life over-turned by a freak car accident.
訳:多忙な仕事と私生活を両立させているセレブ・ジャーナリストが、突然の交通事故によって人生を狂わされてしまう。
死セル・フランス、仮面の告白
マクロン大統領の演説を取材しに来たFrance de Meurs(レア・セドゥ)は、質問という名の一方的な語りを魅せドヤ顔をする。撮れ高を得たら、最前列に座っているにもかかわらず同僚とふざけ倒す。彼女はニュースの顔として、大活躍。放送では論客を適当に捌き、戦場では撮れ高を撮るために手段を選ばない。兵士の取材では、舐め腐った態度で兵士と個人的な写真を撮り、滑稽な演技をさせることに全力を注ぐ。だが、放送の為の素材は神妙な顔をして「今、現場は大変です!」と語る。家では、家族の顔をする。クズでありながらも、他者に対して的確な仮面選びをしているのだ。
しかし、ある日バイクの男を車で轢いてしまったことで、仮面の切り替えができなくなっていく。涙を抑えることができず、ホームレスに「おい、泣いているぞ。果物だ。まだかじってないから食いなよ、クソアマが。」と言われ傷付き、精神が蝕まれていく。屋敷の中で「私は幸せじゃない」と独白し、夫や息子も離れていく中で自分の本当のアイデンティティはなんだったのかを見つめ直す。
本作はマスコミを風刺した作品でありながらもドライに事象を積み重ねていく。シャルリー・エブドのようなドギツイ煽りをする者にも人生があり、複数の顔を使い分けていることを引き伸ばしたカットを通じて捉えていこうとする。
例えば、France de Meursが戦場をリポートする場面。撮影できるポイントを探しながら、喋る場面がある。カメラ越しに彼女が報道する。カットは、報道の顔から素の顔になる瞬間までを捉えている。「ほら、早くいくぞ!」とカメラマンを引っ張るところが映ることにより仮面が外された瞬間が捉えられているのだ。
また、スキャンダルに見舞われても、ふてくされたような顔をして悲劇のヒロインを貫き通すところにグロテスクさがあり、本作で執拗に現れる「写真撮ってください」とせがむ一般人を通じて強調されるところにもブリュノ・デュモンの意地悪な良さがある。またマスコミはクソだで終わらせず、人生はそれでも続くに徹しているところも良い。どんなクソ野郎にも人生があり、自分のクズさ、仮面を付け替えているだけのアイデンティティ に気づいても前に進むしかないのだから。
主人公の名前がFrance de Meursなのも意図的であろう。死ぬmourirの活用系であるMeursにゴージャス感を与えるdeを与え、Franceに繋げる。日本語に強引に訳すならシセル・フランス(死せる・フランス)である彼女が生ける屍として、フランスの顔という十字架を背負いながら、己と向き合う。既に、仮面をつけることが当たり前となってしまっているので、簡単にもとに戻ることができず、涙でぐしゃぐしゃになった仮面をつけたまま告白をしなくてはならない。このような難しい役どころをレア・セドゥが見事に応えて、決定的涙の瞬間と歪んだ性格を魅せ続ける姿には脱帽した。
本作はドライな事象の積み重ねの副産物として衝撃的なギャグが潜んでいる。そうはならないだろうと思う車の運転が突然観客に襲いかかるのだ。日本公開は難しそうな作品であるし、共感で映画を観るのが好きな人には全くオススメできない映画だが、ブリュノ・デュモンのこの壮絶な風刺画は大傑作であった。
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※MUBIより画像引用