【MUBI】『MUNA MOTO』カメルーン、この子は私のもの

MUNA MOTO(1975)
THE CHILD OF ANOTHER

監督:ジャン=ピエール・ディコンゲ=ピパ
出演:David Endene、Arlette Din Beli、Gisèle Dikongue-Pipa etc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

MUBIに文献上の存在だった幻のカメルーン映画『MUNA MOTO』がやってきた。しかもリストア版である。本作はアフリカ映画をまとめた「ブラック・アフリカの映画」にて言及されている。演劇界出身のジャン=ピエール・ディコンゲ=ピパ監督がフランス海外協力省と国立視聴覚研究所(INA)の援助で制作した作品。ワガドゥグ全アフリカ映画祭グランプリ(1976)受賞の他、ジュネーヴのフランス語圏の作品を取り扱う映画祭での受賞、ヴェネチアのビエンナーレ企画上映を果たしカメルーン映画が国際的に注目されるきっかけとなった映画である。皮肉にも、本作は国際的に評価された一方国内では理解されず、次作『自由の代償(Le prix de la liberté,1978)』は大衆に受け入れられた一方国際的な評価はイマイチだったとのこと。さて、実際に観てみると映画的希少性というバイアス抜きで素晴らしい作品であった。

『MUNA MOTO』あらすじ

Ngando and Ndomé are in love. They wish to marry but Ngando cannot afford her dowry. However, when Ndomé becomes pregnant, tradition demands her to take a husband and a marriage with Ngando’s uncle is quickly arranged. In his despair, Ngando decides to do the unthinkable on the day of the wedding.
訳:ンガンドとノドメは愛し合っている。二人は結婚を望んでいるが、Ngandoは持参金を払う余裕がない。しかし、ンドメが妊娠すると、伝統的に夫を持つことが要求され、ンドメの叔父との結婚がすぐに決まりました。絶望したンガンドは、結婚式の当日、想像を絶することを決心する。

MUBIより引用

カメルーン、この子は私のもの

祭が始まる。右から左から老若男女が行進する。伝統的なものから、近代的な物質を使って音を奏でていく。その渦の中で、男の鋭い眼差しがある。女性を見つめる気持ち悪い目線。その先にいる女性に接触しようとすると、男が遮る。パートナーがいた。やがて、男は赤子を抱えた女性を見つけ、近づき赤子に触れ、そのまま誘拐する。女性は当然ながら追いかける。やがて彼は群衆に追い詰められる。すると、穴が見え、男はそこへ落とそうとする。これをサイレント映画のようにほとんどセリフなしで描いていく。バスター・キートンの『セブン・チャンス』を意識した群れ描写を入れつつ、倒れながら誘拐犯と女性が戦う生々しい戦闘や、穴を少し魅せ、画で説明させる描写に応用を感じさせる。

演劇出身監督と聞いて、舞台をそのまま撮ったような平坦な空間の作りを想像していたが、映画の作り方をしていて安心する。本作は、『砂の女』やロベール・ブレッソンの演出を応用している形跡があり、監督の技術として取り込まれていくところに良さがある。例えば、女性同士会話する中でンガンドが「おい飲み物を出せ」とやって来ると、女性たちは手作業に眼差しを向け、少しだけ軽蔑の目を彼に向ける。空気がいきなり冷徹になり、アクションが凍りつく。ブレッソンの冷たさにシフトチェンジさせるのだが、この動きが鋭い。女性たちの一斉に動く鋭い眼差しの変化が冷たい空気感を生み出している。

また、ンガンドとノドメの愛情を強調するような、切り株を切断する描写がある。一人で切り落とそうとしても中々、切断されない。ノドメが協力しはじめるが、それでも中々切り落とされない。その描写からも二人の愛の困難さが強調されている。その困難さからくる、ぐちゃっとした愛を砂の山の中で表現していく。

カメルーン映画史初期の作品ながら、登場人物の一部をあえてフレームの外側においてみたりと映画が選択しなくてはいけない何を映して何を映さないかと真摯に向き合っており、大満足な作品であった。

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※MUBIより画像引用