『セクシードライバー』スクリーンが4つある空間で私が観たものとは?

セクシードライバー

作・演出・映像:江本純子
出演:遠藤留奈、鈴木将一朗、江本純子

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、私に一通のLINEが入った。

「これを観に行かない?」

作品名は『セクシードライバー』。Filmarksにも映画.comにも登録されていない謎の作品だ。どうやら80分の長回しが見られるらしい。北千住から徒歩10分。私が辿り着いたのはカフェであった。北千住BUoYの地下に入る。すると?…?????????。暗闇に4つのスクリーンがあり、東南アジアの帽子を被った女性が、「お好きな席にお座りください」と案内しているのだが、その場所にはビーチにおいてあるような椅子が沢山並べられていた。後で知ったのだが、ここは元々銭湯だったようで、妙な空気感が流れていた。江本純子が語る。

「真夜中3時に演劇を観に来た。私ひとりしかいなかった。私だけだと消化しきれないから映像に撮った。今日はそれをシェアしたい。」

そんな真夜中に演劇をやるなんてことがあるのか? 無数のクエスチョンマークが脳裏に浮かぶ緊張感の中、映画を目の当たりにした。

『セクシードライバー』あらすじ

深夜の湾岸埠頭にて。タクシーに携帯電話を忘れた女。携帯電話を届けに現れたタクシードライバー。二人の寂しさの放出、止まらない・・・

毛皮族公式サイトより引用

ねっとり男VSメンヘラ女

てっきり室内演劇かと思っていたら、高架下の謎の空間で演劇が始まっていた。本作は20分の長回しと80分の長回しの2部構成になっている。壁から覗き込むように、電話をする女に迫る。すると、彼女は携帯電話ではなく公衆電話から話していることが分かる。それも、不法投棄されたような機械の上にちょこんと乗った公衆電話からであり、通話はできているようだけれども異界と接続されてしまっているのではと思う禍々しさが漂う。どうやら彼女は、携帯電話をタクシーに忘れてしまい、わずかながらの小銭で連絡を取り合っているらしい。しかし、オペレーターの川口さんは下痢らしく頻繁に席を外している。なんとかタクシーが呼べたらしいところでタイトル『セクシードライバー』が表示される。

驚いたのは、本作は役者が生でアフレコするタイプの作品だということ。つまり活弁上映なのだ。役者は足音含めその場で演技をスクリーンに付与させていく。それもTM NETWORKのライブステージと思わせるブースで。当然ながらオープニング曲も、その場でつけていく。江本純子が走り回り歌い狂う。それをスタッフが手持ちカメラで撮り、スクリーンに反映させていくのだ。一回性の映画として、いや映像を用いた演劇作品として提示していくのである。

さて、ここからが本題である。タクシー運転手が現れる。彼は1万円近い料金を請求する。しかし、払いたくない女は逃げようとする。ねっとりとした会話で彼は逃さない。この追う、追われるの関係を高架下で繰り広げるのだ。会話劇でありながらも、妙な間合いが癖になる。一度タクシー運転手と別れたかと思うと、ニカって顔をしながら全速力で彼女を追いかけてくる怖さがスパイスとなり、その異様さに笑いすら込み上げてくる。いつしか、話はオペレーターの川口さんが中心となる。タクシー運転手は川口さんのことが好きらしい。いかに良い女かを語る。だが、その語りの一つ一つが気持ち悪い。例えば、無線で「好きです」と告白し始めるのだ。そのキモさに対する我々の感情を代弁するかのように彼女がツッコミを入れる。最初こそは言葉のドッジボールだった関係に何故だか親密さが生まれてくる。その親密さにつけこんでタクシー運転手は、「今度川口さんと俺とで合コンしませんか、一番ヘンタイな男連れて行きますので。」と謎の取引を仕掛けるのだ。

この曲芸みたいな話芸のドリフトレース。真夜中3時から段々と陽が昇り明るくなっていく時の美しさが作品を盛り上げ、見事私の心を鷲掴みにした。今年、トップクラスの体験であった。
※毛皮族公式サイトより画像引用

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