ベナジルに捧げる3つの歌(2021)
Three Songs for Benazir
監督:エリザベス・ミルザイ、グリスタン・ミルザイ
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第94回アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞に山形国際ドキュメンタリー映画祭2021・アジア千波万波部門にて奨励賞を受賞した『ベナジルに捧げる3つの歌』がノミネートされていた。本作はアフガニスタンの難民キャンプを扱った作品でありNetflixで観ることができる。早速挑戦してみた。
『ベナジルに捧げる3つの歌』あらすじ
アフガニスタンの難民キャンプで暮らす青年は、結婚したばかりの妻、そして家族への責任と、国防軍に入隊して軍人になるという夢の間で大きく揺れ動く。
ボクらは学校にも軍にも入れない
アフガニスタンの難民キャンプ。陰りひとつない晴天、空には鯨のような白い気球が浮遊している。地上では、青年がやつれながらレンガを作っている。「こんなレンガ誰が買うんだ、クソみたいなこの国でどう生きればいいんだ。」とボヤいている。この国は、過激派に殺されるか、外国に爆撃されるかのどちらかだ。天に浮かぶ、邪悪のかけらも見せない気球は難民キャンプを監視する役割を担っているとのこと。どこにも行けないディストピアが広がっている。
青年は人生を変えようと父に学校へ通いたいと懇願する。しかし、周辺には学校がないのだ。ではどうやって自由を得るのか?それは軍に入ることだ。死と隣り合わせである軍隊が自由への切符となっている辛辣さが語られる。しかし、難民キャンプの者にとってその選択肢も存在しない。なぜならば、軍に入るためには学校に通う必要があるからだ。
デッドロックされた人生に残された道は、ケシの実を採取してアヘンを作ることのみ。青年は4年後、アヘン中毒者として病院に通うこととなってしまう。本作は、人生の選択肢が極端に少ない者の悲劇を描いている。難民の生き辛さを捉えたドキュメンタリーは数多くあれど、選択肢が少ないことへの生き辛さと安全圏から見つめているだけの先進国に対する憤りを確実に伝える作品であった。
第94回アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞は『オーディブル: 鼓動を響かせて』と本作の一騎討ちになりそうだ。
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