花子(2001)
監督:佐藤真
評価:95点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
サンクスシアター追い込みでラインナップを見ていたのですが、なんと佐藤真監督作品があることに今更ながら気づいた。佐藤真監督といえば、新潟水俣病を描いた『阿賀に生きる』や牛腸茂雄を追った『SELF AND OTHERS』で知られるが、いまだに自分の中で言語化できていない。両作品とも、他のドキュメンタリー感覚とは一線を画する。凄い監督なのは分かるのだが、何がどう凄いのかが言語化できない。さて、食べ物を並べてアート作品を作る障がい者を撮った『花子』を観たのですが、言語化できそうだったので感想を書いていこうと思います。
『花子』概要
京都府大山崎町で両親と姉の4人で暮らす22歳の今村花子は、頑固な性格の知的障害者。平日は障害者支援センターに通い、週末には絵画教室やバスケットを楽しむ日々を送っている。そんな彼女が、毎晩夕食後に畳の上をキャンバスに夕飯の残りを使ったたべものアートなる作品を作るようになって6年。今は、それを写真に撮ることが母・知左の日課だが、父・泰信はまだ未だに汚い残飯としか思えない。そうした、今村一家の変わらぬ明るい日常。しかし、姉・桃子は花子との間にあった確執を思い出として語り、独立の準備を進めている。
※映画.comより引用
私が勝手に”作品”と呼んでいるだけ
キャンバスに本能あるがまま、赤・緑・青の絵の具を塗りたくる。それを部屋に並べて、サイケデリックな空間を作り出し「花子」とタイトルを出す。忌野清志郎の感傷的なメロディーと共に、花子を中心とした家族の肖像がカメラに収められる。
佐藤真の撮るショットは、ドキュメンタリー映画として正攻法、真正面から被写体を撮る。そして、コンビニでぐずる花子、立ち止まり下に小枝を落とそうとする花子を近くから遠くから、多角的に捉えていく。
一見するとありのままの姿を捉えている普通のドキュメンタリーに見えるが、母親にインタビューする場面。畳の上に放射線状に食べ物アートの写真を並べ、その中で「私が勝手に写真に撮って、それをアートと呼んでいるだけ」と翳りある表情で語る場面に鳥肌がたった。極めて映画的、劇映画ならお涙頂戴の場面で流される演出が、現実として眼前に提示されているのだから。
花子にとってアートとはなんだろう?きっとアートを認知できていないだろう。本能が、彼女に食べ物を並べさせているだけだ。それに母は意味を持たせることで自己を保とうとしているのではないだろうか?それと対比するように、30年以上働いてきた会社をリタイヤした父親が登場するが、完全に諦め切った顔をしている。
カメラはフレームの外側にいる姉・桃子を捉える。フレームの外側とはいえ、カメラを前にしている。だから、当たり障りのないことを言おうとしている姉。しかし、そこには壮絶な歴史。花子のせいで恐らく人生を壊され、そこから生まれる憎悪を必死に押し殺そうとしている姉の絞り出される声がそこにある。
勉強をできる環境じゃなかった。
部屋にいても怒鳴り込んでくる。
私だって反撃することはある。
もう、この家を出ようと思う。
ここに介護の限界を見た。微かな希望の中やつれながら生きる母親、諦め虚無に生きる父親、ここから逃げ出し自分の人生を掴もうとする姉。単なる障がい者の生き方を賞賛したり、頑張る家族を外野が応援する映画に留まらず、家族だけで介護する状況の限界を告発していた。
今、日本では自己責任が横行している。人々の心も貧しくなり、確かに法を犯すのは悪いが、何故法を犯すのかと向き合わずに、それと向き合おうと問題提起する人に石を投げるようになってしまった。人々はyes/noで容易に判断し、他者の叫びに歩み寄ろうとしなくなった。
もし佐藤真監督が生きていたら、今の日本をどのように捉えていたのか、とても気になる。これが観られたこと大変嬉しく思っています。
※Mini-Theater AIDより画像引用
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