【ネタバレ考察】『映画大好きポンポさん』映画とは時間のエンターテイメントだ!

映画大好きポンポさん(2021)
POMPO:THE CINEPHILE

監督:平尾隆之
出演:清水尋也、小原好美、大谷凜香、加隈亜衣、大塚明夫、木島隆一etc

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ここ最近は、本業が繁忙期ということもあり、映画館で上映されている作品を追えていない。何が公開されるのかもギリギリまでわからなくなっており、Twitterでの情報がライフラインとなっている。そんな中、『映画大好きポンポさん』という作品が公開されることを知った。杉谷庄吾【人間プラモ】の同名漫画の映画であり、映画の製作現場を描いているとのこと。先日、Twitter企画 #映画製作映画ベストテン に参加しただけあって、また映画に取り憑かれた人間としてこの映画はアタリだろうと思った。という訳でTOHOシネマズ海老名で観てきた訳だが、皆が大絶賛するような作品ではなかった。確かにすごい作品である一方で問題を多く抱えている作品でもある。と同時に、自分の内面にある「映画とは何か?」をポンポさんとの対話を通じて深めることができた。今回はネタバレありで感想を書いていく。

『映画大好きポンポさん』あらすじ

杉谷庄吾【人間プラモ】の同名コミックを劇場アニメ化。大物映画プロデューサーの孫で自身もその才能を受け継いだポンポさんのもとで、製作アシスタントを務める映画通の青年ジーン。映画を撮ることに憧れながらも自分には無理だと諦めかけていたが、ポンポさんに15秒CMの制作を任され、映画づくりの楽しさを知る。ある日、ジーンはポンポさんから新作映画「MEISTER」の脚本を渡される。伝説の俳優マーティンの復帰作でもあるその映画に監督として指名されたのは、なんとジーンだった。ポンポさんの目にとまった新人女優ナタリーをヒロインに迎え、波乱万丈の撮影がスタートするが……。「渇き。」の清水尋也が主人公ジーン役で声優に初挑戦。新人女優ナタリーを「犬鳴村」の大谷凜香、ポンポさんをテレビアニメ「スター☆トゥインクルプリキュア」の声優・小原好美がそれぞれ演じる。監督・脚本は「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」「劇場版『空の境界』第五章 矛盾螺旋」の平尾隆之。

映画.comより引用

映画とは時間のエンターテイメントだ!

映画製作映画は数多ある。そして監督の想いが強くなる傾向が多く、総じて熱量は高くなり、映画好きの評価も高くなる。しかしながら、ここまで映画に対する哲学を観客に提示した作品はあっただろうか?

B級映画ばかりプロデュースするポンポさんことジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネットは、車の中でアシスタントのジーンにこう語る。

「私、泣ける映画で観客を泣かせるよりも、おバカ映画で観客を泣かせたいんだよね。」

また、彼女は不朽の名作『ニュー・シネマ・パラダイス』をバッサリと斬る。

「長い映画よりも90分ぐらいの映画の方が好き。短い時間の中で感情を詰め込んでこそ映画だと思うの。」

ゴダールか誰かが言っていた「2時間の映画を作るより、1時間の映画を2本作った方が良い」哲学を継承している。この時点で、単なる映画愛映画の範疇から一歩抜け出しているのだが、凄まじいのは、この映画自体が上映時間90分ぴったりであり、超絶技巧の編集によって一切無駄がない作りとなっている。

『映画大好きポンポさん』は編集の映画だ

ケヴィン・ブラウンロウの「サイレント映画の黄金時代」によれば、映画はサイレント時代が完璧であったとのこと。技術革新により、音声が映画に載せられるようになると、画で魅せる映画の特性が段々と軽視されるようになったと言及されている。そして、映画史が進んでいくとカメラの小型化、技術の発展により、長時間撮影できるようになった。映画監督は自分の技術力の高さを示すため、長回しに拘るようになっていった。人生はある種の長回しな映画。そこには無駄なショットが多い。しかし映画は、完璧で無駄のない人生の長回しを捉えることができる。その差に観客は、特に映画に取り憑かれた者は興奮するのだ。

しかし、それでいいのだろうか?映画は演劇よりも漫画に近い特性がある。カットの繋ぎによって様々な意図を持たせることができる。いくら素材がよくても、編集によってその素材を生かすことも殺すこともできる。編集こそが生殺与奪の権利を握っているんだ。と本作は映画全体を通して観客に語りかけてくるのだ。

アニメは描いたものしか眼前に提示できない。偶然による産物が眼前に提示されることがほとんどない。それ故に、移動や登場人物の表情、仕草を手短に繋いでいき、テンポよく製作現場の狂気を捉え続けているのだ。そして、デフォルメや誇張が実写以上に容易かつ、観客を共犯関係に巻き込みやすいアニメだからこそ「編集」シーンに力点を置けると判断した点も鋭かったりする。

編集は素材の生殺与奪を握っている一方で、客観的にみると地味だ。いかにして編集作業を魅力的に映すのか?『映画大好きポンポさん』では、72時間もある素材を勢いで組み上げて、そこからカットをする。そして気に入らなかったらはじめからやり直して、解体と再構築していく姿を、心象描写、無数のフッテージの陳列、逆再生による音を利用したサントラでもって盛り上げている。これは実写でやると違和感が生じて興醒めしてしまう非常に危険な描写だが、アニメ=デフォルメされた現実という共犯関係が観客との間で生まれているため、この描写こそが本作で一番輝いていたりする。

現代のアイダ・ルピノ=ポンポさん

また、1950年代、単身で男どもに負けんじと『ザ・ビガミスト』や『ヒッチ・ハイカー』といった90分以内で観客の心を鷲掴みにする映画を撮り続けたアイダ・ルピノを彷彿とさせるポンポさんのプロデューサーとしてのキャラクター像がこれまた面白い。

彼女はおバカ映画で観客を泣かせたい人であるが、ジーンに撮らせる映画『MEISTER』はお涙頂戴映画である。自分がプロデュースする映画の監督が新人で、役者も大御所と大根役者が共存している。通常だったら、プレッシャーで映画に口出しするでしょう。でもポンポさんは違う。あくまでプロデューサーとして人のアサインや機材の手配、メンタルケアに務め、映画製作自体はジーンに任せているのだ。放任主義ながらも、追加撮影が決まった際には裏で暗躍する。『映像研には手を出すな!』における金森氏さながらの敏腕さが光る。またアニメの特性を生かして、小柄なポンポさんをダイナミックに動かすことで彼女の複雑な表情を余すことなくスクリーンに映している。

現場を統括したり、オーディションを行う際、部下を叱る時には高いところに配置させる。それにより大物感を醸し出す。一方で、目上の人に媚を売り、愛されキャラに徹する時は低い場所からピョンピョン飛び跳ねる。かと思えば、銀行員とビジネストークをしたり、ジーンと対等に話す場面では椅子座る等して目線の位置を合わせる。このようにTPOに合わせて彼女の視線の位置を変化させるのは実は映画よりもアニメの方が向いていたりする。そして今回はそれがうまくいっていたと言えよう。

ではこの映画は傑作なのか?

個人的にはそこまでいい作品だとは思わなかった。

理由は大きく分けて3つある。

ダメダメポイント1:映画に無駄は必要だ!

本作は編集の映画であり、ポンポさんの哲学に従い、余計なサブプロットはトコトン削ぎ落として、移動の場面も徹底的にショートカットを駆使して描かれている。その完璧なカット繋ぎが仇となっている気がした。

完璧な映画からは閉塞感が漂いがちだ。

ペドロ・コスタ『ヴィタリナ』を例に挙げる。本作はカーボヴェルデからポルトガルに移住し、名もなきアフリカ人として亡くなった者の魂に触れる物語である。絵画のように洗練された陰影と構図の美学がポルトガルの閉塞感を強調していた。

一方で、『映画大好きポンポさん』は開かれた夢を描いている。根暗なシネフィルであるジーンは、ポンポさんに見出されたった1年のアシスタント時代を経て映画監督に就任する。しかも大物スターであるマーティン・ブラドックを起用して映画を撮ることとなる。また、大根役者ナタリー・ウッドワードもいきなり主演女優に抜擢され、バイトを辞め大スター・ミスティアの家に住み込むこととなる。まさしくシンデレラストーリーだ。しかし、編集により極限にまで切り詰められた物語の中にいる彼/彼女は窮屈そうにみえます。

また、映画製作現場にありがちな不測の事態に対する解決も一瞬で終わってしまう。山小屋が崩壊し、撮影で起用するはずだった無数のヤギは狼に食べられてしまう。天候も不安定で、撮影期間も限られている。という状況下で、ジーンは霧と立て看板を使ったハッタリ演出を思いつく場面がある。これを思いつくまでがあまりにも短すぎるし、スタッフと対立したり、士気が下がってもおかしくない状況なのに、そこの感情の起伏はガッツリカットされていたりする。映画製作映画なのだから、こういった修羅場に力入れて欲しかったと思う。

ダメダメポイント2:銀行員のコンプライアンス問題

映画は夢を売るものだとよく言う。私もそう思うのだが、銀行員アランが融資を募るため不意打プレゼンを行う場面は流石にコンプライアンス的にクビどころじゃない危険さがあってドン引きしてしまった。

会議室に隠しカメラを設置し、融資を断られたタイミングで「実はこの会議全世界に配信されてます」というのは守秘義務を破っているし、会社としての信頼を著しく損なう行為だ。

自分が社会人になって、守秘義務とかそういったことを気にする仕事をしているだけに、このファンタジーが持つ暴力性と、お咎めなしで突き進んでいく物語は到底受け入れられるものじゃないなと思いました。

ダメダメポイント3:致命的な大谷凜香の演技力

そして、ナタリー・ウッドワードを演じた大谷凛香の演技が棒読み大根芝居だったのも興醒めしたポイントである。大根役者が成長する物語を誇張して描いているのかなと最初は思いました。あまりにも棒読みで、フラストレーションが多あるほど前のめりなドジっ子ブリっ子っぷりに唖然としたわけだが、これは映画が終わるまで改善されることはありませんでした。つまり大根演技なままだったのです。そして幾ら映画の中で彼女が田舎娘を演じているとはいえ、外国人の名前を名乗っておきながら服装から佇まいから、高校の夏合宿における部屋着姿であの棒読みを魅せられ、それでもってニャカデミー賞女優賞を獲るとか映画をナメているとしか思えなかった。

ちなみにジーンが撮った『MEISTER』はニャカデミー賞主要5部門全制覇したようだが、本家、米国アカデミー賞主要5部門を制覇した作品は『或る夜の出来事』、『カッコーの巣の上で』、『羊たちの沈黙』の3作品だけである。これらの作品と肩を並べられるのか?と訊かれたら疑問が残る。編集で無駄を極限まで削ぎ落とした結果、『MEISTER』がいかに傑作かが全く伝わってこない結果となりました。

最後に…

絶賛評が巷に溢れる中、大変恐縮ですが結論、NOT FOR MEな作品でありました。一方で、ゴダールの映画みたいな実験映画でしかみかけないような、映像が観客に語りかけ「映画とは何か?」を脳内で白熱教室させる側面は非常に興味深かったし、面白かった作品ともいえる。

一刻も映画呑み仲間には『映画大好きポンポさん』を観ていただき、議論を交わしたいところである。

P.S.『映画大好きポンポさん』を観て、マリア・スペト監督が『Mr. Bachmann and His Class』を製作した際、200時間のフッテージを編集し最初のバージョンが21時間だったのを3時間半まで削ったエピソードを思い出した。 編集って楽しいけど大変だよね。

おまけ:CHE BUNBUNの映画製作映画ベストテン

1.ホーリー・モーターズ
2.ナイフ・プラス・ハート
3.Le Concours
4.The Green Fog
5.人生タクシー
6.ある学生
7.ラストムービー
8.100人の子供たちが列車を待っている
9.暗くなるまでには
10.旧支配者のキャロル

 

 

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