【 #サンクスシアター 13】『あとのまつり』イシキノユラギ、エイガヲシンショクスル

あとのまつり(2009)
What’s Done Is Done

監督:瀬田なつき
出演:中山絵梨奈、福田佑亮、仲野太賀(太賀)etc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

Mini-Theater Aidの返礼であるサンクスシアターの期限が迫っているので、もうそろそろ本気を出さなければと思いつつも『ジョギング渡り鳥』や『ポルトの恋人たち〜時の記憶』のようなイマイチな作品と出会ってしまったり、『イエローキッド』や『SYNCHRONIZER』のように凄さは分かるが自分の心にガツンと響く作品出なかったりと涙目です。若干、心折れているのですが瀬田なつき監督の『あとのまつり』がめちゃくちゃ面白かったので気力を取り戻しました。感想を書いていきます。

『あとのまつり』感想

女性監督による映画製作・上映企画「桃まつり」の第2弾として、9人の新人監督が「キス」をテーマに競作した短編オムニバス「桃まつり presents kiss!」の1編。記憶を失うことが日常となっている街。13歳の少女ノリコと友人のトモオは、遠くの誰かに自分たちが存在したことを知ってもらうため、手紙を書いて風船に託すことに。やがて、トモオはノリコのことを忘れてしまい……。監督は、オムニバス映画「夕映え少女」収録作「むすめごころ」の瀬田なつき。

映画.comより引用

イシキノユラギ、
エイガヲシンショクスル

瀬田なつきは思春期少女の有り余る力が、身体を制御できずふわふわと突き動かす状況を捉え続けるユニークな監督だ。そのルーツはどうもジャック・リヴェットの浮遊感に由来するようなのですが彼女の場合、日本の少女の爆発的な感情に特化している。また、瀬田なつき自体が内なる感情を爆発させ、前衛的な手法をたたみかけてくるので好き嫌いが露骨に分かれがちな監督ともいえる。

ただ、彼女の手法は決して気まぐれによるものではない。いや、ひょっとすると気まぐれかもしれないが、映画の特性に沿ったものと言えよう。本作の場合、意識の揺らぎを映画の文法に落とし込んでいる。

舞台は、記憶を失うことが日常となった世界。少女ノリコ(中山絵梨奈)が鏡に向かってこの世界について語る。

「はじめまして」と鏡に映る自分に向かって話すのだが、鏡に映る彼女と実像の彼女の表情を変えて、間を与えて切り返すことで、まるで別人と対話しているような錯覚をもたらす。記憶が揺らぎ、自他が移ろいゆく過程をカット繋ぎで表現してみせるのだ。

そして時は2095年。パソコンのディスプレイ越しに失われた過去へ飛び込む。映像は、既に撮られたものなので一意に定まるのだが、その映像の中では少女の主観によって語られるため、不安定だ。自分の意識の中で認知の歪みが発生しているように、男の子が走っていくショットが切り替わると、あり得ない方向から彼が出現したり、ノリコも瞬間移動する。そして、歌ったり立ち止まったり突発的な感情をぶちまけながら疾走していくのです。

ファーザー』がアンソニー・ホプキンス演じる老人の意識の揺らぎを、カットと長回しと一貫性のない時空の歪みによって巧みに演出していたように『あとのまつり』も意識の揺らぎを超絶技巧の編集テクニックで捉えた傑作でありました。

P.S.サンクスシアターは迷ったら濱口竜介か瀬田なつき映画ですね。

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※映画.comより画像引用