『47歳 人生のステータス』黄昏の見えざる呪い

47歳 人生のステータス(2017)
Brad’s Status

監督:マイク・ホワイト
出演:ベン・スティラー、オースティン・アブラムス、ジェナ・フィッシャー、マイケル・シーン、ジェマイン・クレメント、ルーク・ウィルソンetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

私も今年で27歳と学生時代がだんだん遠くなっていくこのところ。この頃になると中学、高校、大学時代の友人とは人生の道が大きくかけ離れて行きます。大手企業に入り、趣味で株の勉強をしてインスタグラマーになる人や公務員として堅実に人生をやっている人、会社を辞めて起業する者、船乗りになって世界を駆け回る者と多種多様である。そんな私もサラリーマンをしながら映画の伝道師として毎日映画ブログを更新し、最近はパンフレットに執筆したりトークショーをしたりしている。学生時代は、皆が前へ倣えと同じ空間で同じ勉強をさせられていたのがいつの間にか一人で道を切り開くことになる。そのことに気づいた時、ふと「自分の人生は正しかったのか?」と思うことあるでしょう。そして、年を重ねるごとにそれが重みとなっていく。そして時に嫉妬したり、隣の芝生に羨望の眼差しを向けたり、ドス黒い感情を内なる虚空にぶつけることでしょう。

さて、6月11日(金)よりMIRAIL(ミレール)、Amazon Prime Video、U-NEXTで1本の映画が配信となる。

『47歳 人生のステータス』だ。

本作は『スクール・オブ・ロック』や『ナチョ・リブレ 覆面の神様』、第93回アカデミー賞視覚効果賞にノミネートされた『ゴリラのアイヴァン』の脚本を手がけたマイク・ホワイト監督がベン・スティラー主演に描いた辛辣なファミリードラマである。

ライトフィルムさんのご好意で一足早く観させていただいたのですが、これがとんでもない大傑作でした。確かに一見地味な映画であるため日本紹介まで3年以上かかってしまいましたが、コロナ禍で人生を見つめ直すことが多い今観ると心に沁みる作品となっております。

『47歳 人生のステータス』あらすじ

「ナイト ミュージアム」シリーズのベン・スティラーが主演を務め、中年男性の悲哀と再生をユーモラスに描いた人間ドラマ。やりがいのある仕事と愛する家族に囲まれ、平凡ながらも順風満帆な人生を歩んでいた47歳のブラッド。大学進学を目指す息子と2人でボストンを訪れた彼は、そこで旧友たちと再会する。経済的にも社会的にも成功を収めた彼らの姿を目の当たりにしたブラッドは、自分が築いてきた家族や仕事は本当に最高のものなのかと疑問を抱き、人生を見つめ直していく。共演に「ケミカル・ハーツ」のオースティン・エイブラムス、「俺たちフィギュアスケーター」のジェナ・フィッシャー、「チャーリーズ・エンジェル」シリーズのルーク・ウィルソン。「スクール・オブ・ロック」の脚本家マイク・ホワイトが監督・脚本を手がけた。2021年6月11日から、MIRAIL、Amazon Prime Video、U-NEXTでオンライン上映。

映画.comより引用

黄昏の見えざる呪い

ブラッド(ベン・スティラー)は非営利企業で働く47歳。彼には公務員の妻メラニー(ジェナ・フィッシャー)と大学受験が控えている息子トロイ(オースティン・エイブラム ス)がいる。そんなブラッドの心は晴れない。このところ、かつての友人たちの生活レベルの差が気になってしょうがないのだ。周りはビジネスクラスで家族旅行したり、テレビに出演して名声も得ている。何年か前に事業を始めようとして、パッとしない成果だったブラッドは旧友たちの集まりに行ってもどこか蚊帳の外だ。今年は息子の大学受験がある。息子の教育費を捻出できるであろうか?そんな数々の不安が彼を覆い尽くす。

そんなある日、息子が大学受験の準備でボストンに行くこととなる。ブラッドはその付き添いでサクラメントから旅立つ。だが、息子と旅をする道中であっても脳内は常に大きく差がついてしまった友人とのライフスタイルへの羨望がチラつく。「自分の人生は意味があったのか?」と時あるごとに考えてしまうのだ。そして、それが虚栄心へと繋がって行く。空港のロビー。彼は周囲に目をやる。黄昏を生きる初老が映る。ふと横を見るとキラキラした子育てパパが映る。ここで彼は息子の為にビジネスクラスに変更しようと思い立つ。しかし、カウンターでクレジットカードのレベルが足りずビジネスクラスへ変更できないと宣告されてしまう。

華やかでゆとりのあるファーストクラス、ビジネスクラスを抜けて彼らは狭い狭いエコノミークラスで息もできないような閉塞感を抱きながらボストンを目指す羽目となるのだ。

ベン・スティラーといえば『ナイト ミュージアム』シリーズや『LIFE!』のように人生のストレイ・シープ(=彷徨える羊)を演じる印象が強い。だが、『LIFE!』のように抑圧された会社勤めから解放されグリーンランドやアイスランド、アフガニスタンを旅して自分探しするようなことは本作において不可能である。なぜならば、彼には「家族」という縛りがあるからだ。

だから彼は無意識にドンドンとドス黒い膿に支配された海を内に形成し、それが無意識に息子へと向けられていく。トロイと夕飯を食べる。すると彼から「ハーバード大学を目指している」と告げられる。ブラッドは知らなかった。息子が優秀でハーバード大学合格圏内にいることに。ブラッドは嬉しい一方、学費の心配がよぎる。そして、かつて自分がイェール大学に行けなかった辛酸の味を思い出す。冴えない人生を歩んで来たと思い込んでいる彼は、息子が大物になって旧友たちをギャフンと言わせたい欲望、そして息子が自分のように受験に失敗していることを少し望んでいる気持ちが融合していき、言葉の呪いをかけるようになってくる。自分の大学受験失敗したことを棚に上げて、その道に息子が落ちることを望んでいるように振舞ってしまったり、家計の話をして息子の心を沈没させたりするのだ。

映画を観ていると、この綻びからブラッドのエゴがひっぺ剥がされていく。大学との手続きででトラブルが発生した際に、カッコ悪い方法で抗議したり、ハーバード大学に通う大学生に論破されたりと彼のハリボテの鎧がバリバリ剥がされていくのです。

本作は、我々が散歩しながら人生を考えるように常にブラッドの自問自答と回想が駆け巡る小説のような作品でありながらも、ベン・スティラーの常に鬱屈とした表情と隣の青き芝生を見ようとする眼光によるショット、空間と色彩の巧妙な切り替えによって生々しい等身大の閉塞感を捉えることに成功している。

これは思わぬ大収穫でした。

※映画.comより画像引用

 

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