ベルリン・アレクサンダープラッツ(2020)
Berlin Alexanderplatz
監督:ブルハン・クルバニ
出演:ウェルケット・ブンゲ、イェラ・ハーゼ、アルブレヒト・シュッヘ、アナベル・マンデン、ヨアヒム・クロルetc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に驚くべきリメイクが出品された。その名も『ベルリン・アレクサンダープラッツ』である。お察しの通り、あのライナー・ヴェルナー・ファスビンダーがアルフレート・デーブリーンの長編小説を15時間のテレビシリーズとしてまとめ上げた『ベルリン・アレクサンダー広場』のリメイクである。リメイクといっても主人公を黒人難民に変え、新解釈として映画化している。
近年『華氏451度』がリメイクされたり、『透明人間』がDV問題を踏まえて再構築されたりと、往年の名作の勇敢なアップグレードが行われている。日本では2021年5月20日(木)よりMIRAIL(ミレール)、Amazon Prime Video、U-NEXTにて配信となる本作を株式会社ライトフィルムのご好意で一足早く観させていただいたので感想を書いていきます。
『ベルリン・アレクサンダープラッツ』あらすじ
アフリカからヨーロッパを目指す不法移民フランシスは、船が嵐に巻き込まれた際、無事に上陸できたら心を入れ替えて真面目に生きると誓う。運良くドイツにたどり着いたものの難民生活は困難を極め、裏社会に生きる狡猾な男ラインホルトの手引きで犯罪に手を染めていく。そんなある日、フランシスは1人の女性との出会いをきっかけに、自らの運命を変えようとするが……。
シン・ベルリン・アレクサンダー広場
近年『シン・ゴジラ』、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』、『シン・ウルトラマン』と「シン」という表記の活用法が注目されている。これには「新」だけではなく、「真」さらには”Sin(=罪)”といった意味が付加されており、「シン」と役割を確定させない表記にすることで観賞者に自由な考察の手綱を握らせていると考えられる。
その前提を踏まえるとこの意欲的なリメイクである『ベルリン・アレクサンダープラッツ』はまさしく《シン・ベルリン・アレクサンダー広場》といえよう。
ブルハン・クルバニ監督は、ドイツに適応しようとしてアイデンティティが失われていくアフリカ人の肖像を荒々しく画面に打ち付けている。本作では、アンゴラ、モザンビーク、ギニアビサウ、ガーナと様々なアフリカの国名が出てくる。しかし、それは表面的でその国の内部までは描かれない。本作に登場するドイツ人は、国名こそ知っているが最終的に「黒人」に収斂していき、雑にアフリカ人を扱っていく。主人公フランシス(ウェルケット・ブンゲ)は難民としてドイツに流れ着く。必死になってたどり着いたドイツに夢を抱き、少しでも幸せになろうとするが、ドイツ語はできない上に金もビザもないので、怪しげな労働に手を出さざる得なくなる。地の底にいるものにとって「真っ当な人間として生きる」ことは高嶺の花なのだ。そんな彼は、怪しげな男ラインホルト(アルブレヒト・シュッヘ)に惹かれていく。カルト教祖のように黒人の前に現れて電話番号を書いた札をばら撒く彼。明らかに怪しい男であるが、次第にフランシスは彼に取り込まれていき、危険な仕事に巻き込まれていくのだ。そしてドンドンと「真っ当な人間として生きる」ことから遠ざかっていく。代わりに、ドイツで生きる為にフランシスの名を捨て「フランツ」として生きるようになっていく。
本作は、移民・難民が自身の平穏を勝ち取る為にアイデンティティを捨てていく話だ。名前も国籍も捨てる。何者でもなくなった自分にハリボテのドイツというアイデンティティを注入していく。必死にもがくものの、蟻地獄のように危険から中々足を洗うことができない負のスパイラルを3時間に渡ってじっくり魅せていく。
都市における意識の流れを描いた『ベルリン・アレクサンダー広場』の骨格を用いることで現代ドイツないし先進国に暮らす移民・難民の慟哭を捉えることに成功した意欲作だといえよう。
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※imdbより画像引用