【東京国際映画祭】『親愛なる同志たちへ』自己矛盾に追われる女

親愛なる同志たちへ(2020)
Dear Comrades!

監督:アンドレイ・コンチャロフスキー
出演:ユリア・ヴィソツカヤ、Vladislav Komarov, Andrey Gusev etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第77回ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞を受賞したアンドレイ・コンチャロフスキー監督作『親愛なる同志たちへ』を東京国際映画祭で観てきた。アンドレイ・コンチャロフスキー監督は『パラダイス』や『白夜と配達人』と2作連続でヴェネツィア国際映画祭監督賞を受賞しており、本作も審査員特別賞を受賞する凄腕監督ながら、日本では映画祭や一部上映会でのチャンスを逃すと中々観ることが難しい監督である。1962年ソ連で起きたストライキ事件を描いた作品ということで身構えていたのですが、これがとても面白かった。

『親愛なる同志たちへ』あらすじ


1962年、ソ連南部の町ノボチェルカッスクにおいて労働者の不満が溜まっていた。公務員の女性は娘のデモ参加に反対するが…。ソ連時代最大級の労働者蜂起の顛末を、母娘の物語を交えて名匠監督が鮮やかに活写する。
※東京国際映画祭サイトより引用

自己矛盾に追われる女

リビングで男と女が愚痴を言い合っている。1962年ソ連では、社会主義国家でありながら度重なる物価上昇と物資不足に人々のストレスが溜まっていた。特にスターリン時代を知っている人にとって、フルシチョフ時代の物価上昇は強い嫌悪を感じる要因となっていた。リューダ(ユリア・ヴィソトスカヤ)は市政委員会の職員である。彼女が人でごった返し罵声飛び交う食料品店に入ると裏口に通され、物資を融通してもらえる。彼女は共産主義者であり、今の状況に不平不満を言う人に「そういうこと言うんじゃない」と怒ったりするが、そもそも彼女は優遇されている身である。若干の矛盾を抱えているのだが、忙しなく朝から動き回っている。彼女だけでなく、町や家にいる人までもが、分単位秒単位で生活しており、1日16時間労働を我慢しているのだが、その余裕のない動きで閉塞感を表現して魅せるコンチャロフスキーの技量にまずまず感心する。

さて、そんなある日、彼女が今日も役所で会議に励んでいると、外から大きな音がなる。そして電話がかかってきて、工場で大規模なストライキが発生したと連絡が入る。これが工場の外に広がったらまずいということで、現場に向かうのだが、怒れる労働者に囲まれ袋の鼠となる。やがて、町でのストライキを隠蔽しようと軍が動き始め第殺戮が行われる。リューダの娘がその騒乱の中で行方不明となってしまい、彼女は娘を探すため、戦場を東奔西走する羽目となる。

本作は光州事件のように、電子通信網が発達していない時代にあった大規模隠蔽工作の渦中にいる、比較的恵まれた人が動き回るうちに自己矛盾にお苦悩していく話である。彼女はなんとなく助かったりする。軍に捕まっても割と簡単に釈放されたりする。それ故に常に傲慢な態度をとっている。だが、他の職員同様いざ自分の身に何かあると流れに身を任せるしかない。アンドレイ・コンチャロフスキーは『戦艦ポチョムキン』オマージュな殺戮の世界で、1960年代ソ連の人々が、己の矛盾に折り合いをつけたり、あからさまにおかしい状況に声をあげる様子をスクリーンに焼き付けていた。

※imdbより画像引用

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