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【ネタバレ考察】『われらの時代』レイガダスから自慰映画を考える※酷評注意

【ネタバレ考察】『われらの時代』レイガダスから自慰映画を考える※酷評注意

われらの時代(2018)
英題:OUR TIME
原題:Nuestro tiempo


監督:カルロス・レイガダス
出演:カルロス・レイガダス、ナタリア・ロペスetc

評価:15点

東京国際映画祭目玉の作品カルロス・レイガダス監督の『われらの時代(OUT TIME)』。カルロス・レイガダスは『静かな光』でマーティン・スコセッシの目にとまり、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。『闇の奥の光』では、同祭監督賞を受賞した。しかしながら、1%ぐらいの人にしか刺さらない作品を作るため、毎作強烈なバッシングが投げつけられる監督だ。今回、6年ぶりに発表した本作は、主演を監督が演じ、妻役を監督の妻に演じさせ、内容が妻に不倫された男がネチネチと自問自答する内容故に、ヴェネチア国際映画祭では酷評された。ヴァラエティ誌では、

A self-indulgent patience-tester that appears to be a work of self-analysis, full of mundane comments about masculine toxicity without any interest in how to combat the machismo.
自堕落な自己分析の作品に成り果てたように見える忍耐テストは如何にして男らしさと戦うのかという全くもって関心の持てない毒性ある男性性に関して世俗的なコメントに満ち溢れている。

ヴァラエティ誌のレビュー全文

と辛辣な序文から本作を批判している。

またMUBIでのインタビュー記事では、

NOTEBOOK: And the experience of working with Natalia? She was your editor in your two previous films, and now is acting here…

REYGADAS: With Natalia it was the same. At the time of work she stopped being my wife and became an actress. With the proviso that she became more strict than a regular actor. However, we had an agreement, that she had to do what I said. When she works as the director and I work as his actor, I will do what she says. That, at the human level, was somewhat more complicated. But it still allowed us a lot of things because there is a previous understanding and an ease of communication.

質問者:ナタリアとの仕事はどうでしたか?彼女は前2作では、編集者でしたが、今回の演技は…

レイガダス:ナタリアとの仕事は今回も変わらないさ。仕事をする時、彼女は私の妻ではなくなり、女優に変わるんだ。ただし、他の役者と比べて厳しくなる条件付きで。しかしながら、私は彼女が私が言ったことをしなければならないという合意がありました。 彼女が監督として働いていて、俳優として働いているとき、私は彼女の言うことをやります。 それは、人間のレベルでは若干複雑なことです。 ただ、それは以前の理解とコミュニケーションの容易さがあるので、私たちには多くのことが許されていました。

MUBIのインタビュー記事全文

と、サラッと狂気に満ちたことが語られていた。妻を男性的に支配しているように見えるレイガダスに対し、応える妻。新手のDVなのではないか?そして実際に映画を観ると、これは《自慰映画》のあり方について非常に考えさせられる作品であった。

『われらの時代』あらすじ

メキシコのカウボーイは、妻がアメリカ人カウボーイに不倫していることに気づき妻を問い詰める。倦怠が渦巻き、妻は夫の元を去ってしまう。彼は、嫉妬とモヤモヤから自問自答を始める…

自慰映画

この世には自慰映画というジャンルがあるとブンブンは信じている。自慰映画とは、監督の個人的な想いを観客のことを無視して描くというジャンルである。古くは、カメラとフィルムが一般人でも変える価格帯にまで値が下がってから登場した、ダイレクト・シネマ、シネマ・ヴェリテ、はたまた日記映画の時代1960年代にまで遡る。ジョナス・メカスのように、自分の目の前にある事象を捉える。誰が観るかよりも、自分が撮りたいものを欲望向くまま捉えていく作品がこの時代増えていった。やがて、自分の本能ありきで撮る。私的感情を優先して映画に挿入する作風を武器にしたデヴィッド・リンチやポール・トーマス・アンダーソン、テレンス・マリックの、河瀨直美ような監督が生まれていった。そして、ここ近年、映画が今以上に手軽に撮れる時代になり、マンブルコア映画という非常に個人的で視野の狭い作品が生まれていった。

この手の自慰映画は、強烈な賛否両論を生み出す。観客よりも自分の感性を優先する為、難解だったりナルシズムが存分に発揮されていたりして、観客の神経を容易に逆撫でしていくのだ。と同時に、感情を前面に出している為、監督の気持ちとシンクロできた途端、観客はその映画に対し、大傑作という烙印を押すのだ。つまり、100点か0点かの世界になりがちなのである。

ブンブンは、自慰映画を観る時の評価軸として、如何にして映画表現として面白いかということを注目している。例えば、『レディ・バード』の場合、幾つもの挿話が彼女の成長と自立を表現する層になっておらず、ハリボテに見えてしまった為、低い評価となった。一方、『EIGHTH GRADE』では、青春の終わりに輝ける青春体験を欲する不器用な少女が自らの壁を破ろうとする様子を、空間配置で表現していくところに映画表現としての技巧の高さが伺えたので高評価を出した。

こう考えると、今回の『われらの時代』は映画的表現に関して非常に問題ある作品であった。幾つかピックアップしてみる。

ポイント1:意味をなさない独白とメール文

本作では、遅々として全貌が見えない前半部分が瓦解する場面でナレーションが使われている。前半1時間ぐらい、壮大な自然とそこで生きる人々が説明描写なしに押並べられていた。しかしながら、中盤で、少女が男の感情を語り始める。妻の不倫に対してやるせない気持ちが延々と語られるのだ。映画の中の独白、それも文学的独白は、《小説》としての強みを浮き彫りにさせる為、映画としての味が損なわれる危険性がある。新海誠映画のように、美しいビジュアルの中独白することで、《エモーショナル》を強調させる手法があるものの、本作には新海誠のような美は存在しない。ただ、扉から出入りする家族を映しながら、男の気持ちを吐露させていくのだ。

さらに追い討ちをかけるように、次のシーンではメール文で男の気持ちが吐露される。この男、妻への想いをなんでも文章で説明するのだ。そして、誤っているように見えて自分には否がないように書き綴っている。この気持ち悪さに辟易させられる。そもそも、このメールのシーンはナレーションが文章に変わっただけなので、映画的技巧があるのかと訊かれたら断じて否となる。

ポイント2:批評性ない強烈なナルシズム

上記で述べたように、本作は不倫され、妻に去られた男の自己弁護を3時間も聞かされる映画だ。しかも主演はレイガダス監督自身で、妻役は実妻に演じさせている。強烈なナルシズムの塊だ。その異常さが、生理的不快感を催す。例えば、去った妻とのテレビチャットシーン。男は、妻に胸を出せと強要し、スクリーンの中央に片方の乳房が映るように妻を移動させるのだ。

テレンス・マリックのように、ナルシズムが人間の本質を暴いているのならば、それは成功と言えるのだが、これはまさしくカウンセラに語るべきことを垂れ流しているだけだ。ただただレイガダス監督の男尊女卑、男性性をひけらかしているだけになっている。

その支配欲の強い男らしさは映像に不協和音をもたらす。

男が、哀しみを癒すために馬に歩み寄る場面。ここでは『リーン・オン・ピート』や『The Rider』のように馬との対話が描かれる。しかしながら、本作はただただ馬を支配しようとしているだけ、対話が皆無なのだ。物語として、男の成長は描かれず、この馬のシーンは無駄となってしまうのだ。

ポイント3:人工と自然の無意味な対比

本作は、大自然、馬牧場界隈の人々が描かれるのだが、時折唐突に都会が映し出される。飛行機の着陸、ティンパニの演奏、都会の喧騒etc…通常こういう描写は、本能と理性の対比、原始的、本能的生活の強調として描かれる。しかしながら、ここではただ監督が思いついたように置かれているだけ。しかも、ティンパニの演奏は、演奏を映すことから逃げている。カットで、誰もいないロビーを映し始め、全然ティンパニの演奏を魅せてくれないのだ。故に、観る者にもどかしさを与えてしまうのだ。

冒頭とラストはよかった

こうも酷評したが、良かったところもある。それは最初30分の自然描写とラストだ。冒頭、子どもたちが泥んこまみれになりながらキャッキャ遊ぶところは、人間の本能を浮き彫りにする描写として凄まじいキレがある。映像美に説得力がある。また、ラスト牛が自由奔放に霧の中を動くのだが、フッと一斉に同じ方向を向き去っていき、《Nuestro tiempo》とタイトルが出る。この描写からは、人間も動物もある引力に惹きつけられるという森羅万象の秘密が読み取れ、それに説得力がある。

なので、この自慰映画、最初と最後を組み合わせて1時間の映画だったら大傑作だったと言える。とにかく、この退屈で不快感溜まるレイガダス監督のマスターベーションにげんなりしたブンブンでした。

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