【ネタバレなし】『岬の兄妹』が超絶大傑作な5つの理由

岬の兄妹(2018)

監督:片山慎三
出演:松浦祐也、和田光沙、北山雅康、中村祐太郎、春園幸宏etc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

数ヶ月前から、日本のインディーズ映画に詳しい方々から『岬の兄妹』が素晴らしい。これは絶対に観なければいけないという声を聞いていました。遂に公開されたので観に行きました。予告編も観ず、あらすじも読まず観にいったのですが、日本映画でここまでできるのかと感動を覚えました。そして、本作は一見すると他人事のようにみえる世界の話なのだが、日本にゆっくり忍び寄る影を暗示している為、これはできるだけ多くの方に観てほしいと感じました。今日は、ネタバレなしで本作の魅力について語っていきます。上映館が少ないのと、1日1回しか上映しないところが多いのもあり、行かれる方は事前に予約することをオススメします。

『岬の兄妹』あらすじ


ある港町で自閉症の妹・真理子とふたり暮らしをしている良夫。仕事を解雇されて生活に困った良夫は真理子に売春をさせて生計を立てようとする。良夫は金銭のために男に妹の身体を斡旋する行為に罪の意識を感じながらも、これまで知ることがなかった妹の本当の喜びや悲しみに触れることで、複雑な心境にいたる。そんな中、妹の心と体には少しずつ変化が起き始め……。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の国内コンペティション長編部門で優秀作品賞と観客賞を受賞。
映画.comより引用

注目ポイント1:日本映画界が持つ貧困ポルノを打破する傑作

近年の日本映画界は『彼女がその名を知らない鳥たち』、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』、『万引き家族』などといった貧困をテーマにした作品がメインストリームを流れ評価されている傾向があります。しかし、常にブンブンが思うのは、「そこに本当の貧困はあるのか?」ということだ。確かに『万引き家族』は居場所を失った人々が互いの傷を埋め合うようにして生きる様を最強の役者陣と超絶技巧の演出で描き切った傑作である。日本人が、見ているようで見ていない。ワイドショーのおかずとしてしか出てこない貧困に対して問題提起をしている堅実な作品でした。ただ、ブンブンはどうも『万引き家族』にはもう一歩踏み込んで欲しかったなと思う。というのも、今の貧困というのは《絆》すら生まれず、路傍の石のように社会から扱われ、ひっそりと死んでいくパターンの方が多い気がするからだ。最近の貧困を扱った映画は、どうも愛とか絆で問題を解決しようとしがちだが、実際にはそれすらも築けなくなってしまっているのでは?片山慎三監督は『岬の兄妹』で身体障がい者の兄と知的障がい者の妹のサバイバルを通じて日本映画界にナイフを突き刺しました。

身体障がい者の兄と知的障がい者が貧窮に貧困を重ね、個人風俗店を始めるという想像しただけでもおぞましい内容。そして、カメラはその《おぞましさ》から決して逃げることはない。兄が妹の世話に苛立ち、暴行を加えるところ、妹が老人や高校生相手にセックスをする。それも乳房を吸ったり、下半身のエキスを吸ったりするよくR-15で収まったなと思う程に気持ち悪い場面の連続です。

しかし、観客はその地獄絵図を観て、現実を知る。見て見ぬ振りをしてきた現状にハッとさせられるのだ。ここ数年乱立する貧困をテーマにした作品の中では、『東京難民』に匹敵する真摯に貧困の実態と向き合った大傑作だと感じました。

注目ポイント2:意外とエンターテイメントなんです

そう聞くと、重くてなかなか劇場に足が向かないなと感じるかもしれません。しかし、この作品実はコメディなんです。劇中、何度も笑ってしまう場面があります。というのも、本作で初長編デビューを果たした片山慎三監督は、『母なる証明』、『マイ・バック・ページ』、『苦役列車』などといった作品で助監督、スタッフとしてキャリアを積んできた方なのです。シリアス路線でありながらもエンターテイメント性がある作品の現場を知っている人物なのです。そして、彼自身助監督からなかなか監督になれず苦労し、今回自分で脚本を作り、自分のお金で作った作品なのだ。それだけに、彼が今まで積み上げてきたものを全力で投入しているため、エンターテイメントとしての面白さも引き継がれています。

例えば、妹が老人相手にセックスをする際、老人の下腹部を唐突に揉みはじめ「チンチンふにゃふにゃ」と言ったり、妹とセックスを体験した高校生は天国を見るような眼差しで「海の香りがしました。生きているといいことがあるんですねぇ」と言い始めたり、セリフと間の面白さに満ち溢れた展開が数多待ち受けます。

そして、笑った後にハッとさせられる。「これって、テレビ番組でカタコト外国人を笑うのと一緒じゃん」と。

片山慎三監督はブラックな笑いで持って観客に「気づき」を与えているのです。実は安全地帯から、無様な人々を観て楽しんでいるんじゃないの?この問い掛けは、日本の貧困映画に対する批評として鋭いナイフを突き立てています。

注目ポイント3:『(秘)色情めす市場』の再来

本作はある意味『(秘)色情めす市場』の2018年アップグレード版とも言えます。『(秘)色情めす市場』とは1974年に製作された日活ロマンポルノの大傑作です。大阪ドヤ街で知的障がい者の弟を養う為に売春をして生きる女性が時代の流れに取り残されてしまう様を描いた作品。ポルノと聞くと性的欲求を満たすコンテンツだと思いがちですが、本作は売春をしてしか生きられない女性の悲しさを痛烈に描いた社会派ドラマなのです。

『(秘)色情めす市場』は健常者と知的障がい者の組み合わせだったのに対し、本作では身体障がい者と知的障がい者の組み合わせだ。電気も止められ、ゴミを漁ろうとも健常者のホームレスに横取りされてしまう。食うものに困り、内職で作ったティッシュを食べて「甘いね」と言うことでしか空腹を満たすことができない。『(秘)色情めす市場』ではまだご近所付き合いというコミュニティがあったのだが、マンション社会になってしまった今、もはや社会から外れた人にコミュニティはない。そういった現代日本を反映している点で本作は、『(秘)色情めす市場』のアップグレード版といえることでしょう。

注目ポイント4:あなたは本当に《障がい》が見えているのだろうか?

さて、この作品最大の注目ポイントは、「あなたは本当に《障がい》が見えているのだろうか?」というテーマにあります。警察や「妹になにやらせているの?違法だよ!」と言う。確かに、法律では禁じられていることをしているし、倫理的にもアウトだ。しかし、法律を犯さなければ、モラルの壁を超えなければ彼らは生きることができないのだ。兄は叫びます。「法律?ああ破りますとも」「俺らが餓死してもいいのか?」。

最初は、仕事をクビにされた兄は、「リストラなんだって。だから辞めてやった。」とプライドによって自分を高く魅せようとしていた。そんな彼が悲惨な地獄を経て、ついには開き直り発狂する。

日本では自己責任論が蔓延しており「貧困になったのは、貧困になった人が悪い」と斬り捨ててしまいがちだが、どうだろう?この映画を観て本当に、彼らは努力していないといえるだろうか?

注目ポイント5:あなたも他人事ではない世界がここにある

確かに、この映画は身体障がい者と知的障がい者のサバイバルという我々の日常からかけ離れた世界を描いています。しかしながら、ブンブンはこう思います。「これって日本の未来なのでは?」と。日本は今や少子高齢化が著しく進んでいます。そして、介護業界は慢性的な人手不足となっており70歳を超えた人が従事するのも少なくなくなっています。実際にネットで調べてみると、「介護職で第二のキャリアをスタート 60・70・80代が介護の現場で活躍中」なんて謳い文句を目にします。70歳なんていったら、もう定年退職してのんびり余生を過ごしているんじゃないの?

ブンブン、おじいちゃんがアルツハイマーで老人ホームに入っていたので身に染みてわかるのですが、今や老人ホームや介護施設はどこも定員オーバーでなかなか入居先が見つからないのが実情となっています。また、おじいちゃんの介護を少し経験し、また大学時代には障がいを持った方の支援施設を取材したことがあるのでよくわかるのですが、介護はどんなに相手が好きでも心身共に辛いものを感じます。実際にブンブンの働いている職場では、仕事と両立することが難しく、介護離職する方が定期的にいます。

ブンブンは何を言いたいのか?本作は、やがて介護の側面で日本では、『岬の兄妹』に近い状況の方が増えてくるのではということです。介護施設に入れることができず、親戚の介護をするのだが、精神病に悩まされるようになり共倒れしてしまう。そこにはもはや絆も愛もなく、朽ちていく未来しかない。そう考えると、できるだけ多くの人に『岬の兄妹』を観てほしいと感じました。

おわりに

東京だと、新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、イオンシネマ板橋しか上映されていません。しかも1日1回上映だったりします。でも、ここまでハードコアなインディーズ映画がシネコンで上映できる現状に日本映画界の未来を感じます。

本作は、目を覆うシーンの連続ですが胸をはってオススメします。

是非劇場でウォッチしてみてください。

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