考察

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【ネタバレ考察】『子供はわかってあげない』当事者の危機感ゼロに戦慄する『荒野の千鳥足』

沖田修一監督は深刻な内容をゆる〜く描くのを得意としている。『おらおらでひとりいぐも』では話し相手のいない黄昏に生きる老人の終焉を、イマジナリーフレンドとの掛け合いでユーモラスに描いていた。『横道世之介』では突然、「死」が浮かび上がり、『滝を見にいく』では老人が山で迷子になり生死をかけたサバイバルとなる。さて、最新作『子供はわかってあげない』はどうだろうか?田島列島の同名漫画の映画化。私は原作未読で挑んだのですが、これがトンデモナイ作品であった。

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【ネタバレ考察】『フリー・ガイ』They Did

ウォルト・ディズニー配給でありながらディズニー+行きを免れた『フリー・ガイ』。2010年代以降流行したゲーム世界映画に名を刻む作品であるが、ストーリー面でとても評価されている。微妙に忙しく、中々観に行く時間が取れなかったのですが、これは劇場で観た方が良さそうだと思いTOHOシネマズ海老名に行ってきました。監督のショーン・レヴィと言えば、『ナイト ミュージアム』シリーズや『インターンシップ』、『リアル・スティール』といった年間ベスト級でないものの気楽に楽しめる娯楽映画の名匠。その名に恥じず、今回もNice Guyな映画を作ってきました。今回はネタバレありで語っていきます。

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【ネタバレ考察】『ドライブ・マイ・カー』5つのポイントから見る濱口竜介監督の深淵なる世界

本作は村上春樹「ドライブ・マイ・カー」の映画化であるが、映画の始まりは肉体を交える度に物語る女を描いた「シェヘラザード」である。この引用に私はしびれた。「ドライブ・マイ・カー」は幾ら戦略的に描かれているとはいえ、2013年時点で「男らしさ/女らしさ」を語る手法に古臭さを感じた。村上春樹の女とはこうあるべき論が批判的に描かれているように見えて、彼の本心なんじゃないかと思うところがあった。

映画では、そういった原作にある「男らしさ/女らしさ」の話を巧みに解釈し、2020年代に相応しい普遍的な物語へと昇華している。

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【ネタバレ考察】『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』高橋渉の経済学入門

Twitterでクレヨンしんちゃんの新作がやたらと評判が高い。ヴィジュアル的に、大晦日にやる「笑ってはいけない」シリーズの様な雰囲気がバリバリに染み出していて傑作という雰囲気ではないのだが、絶賛一色に染まっている。監督を確認したら、今回は髙橋渉監督回だった。なるほど傑作な訳だ。彼は、監督デビュー作『劇場版3D あたしンち 情熱のちょ~超能力♪ 母 大暴走!』でシンエイ動画が欲を出して不要と思われるアニメなのに、3D演出を盛り込んだせいで上映時間が43分とテレビ放送2回分レベルの尺となってしまう大惨事の中で、才能を得た者が承認欲求を満たせなかった際に如何にして暴走するかを映画の中で描いた。その後、『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』で胸熱ヒーロー映画としてクレヨンしんちゃんを盛り上げた熱い歴史を持つ監督である。そんな彼の新作を観にいったのですが、これが凄まじい。子ども映画でありながら経済学、政治学について切り込み、トーマス・バッハの様なバケモノや日本の汚職が何故生まれるのかを「尻」でもって風刺してみせた。本記事ではネタバレありで『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』について書いていく。

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【ネタバレ考察】『竜とそばかすの姫』仮面の告白

さて、細田守映画は毎回賛否が別れることで有名だ。大衆向けのヴィジュアルが特徴的で、その特徴から金曜ロードショーで放送されることも少なくない。だが、よくよく映画を観ると倫理的にぶっ飛んでいる部分が多い。『おおかみこどもの雨と雪』は狼との間に子どもを授かってしまった母の育児が描かれるのだが、病院等に相談せず、片田舎女手一つで子どもを育てようとする男性の女性に対する楽観視が問題となった。『バケモノの子』では異世界転生したため、住民登録が不備となっている男が現実世界でたらい回しに遭う様子が描かれている。『未来のミライ』では、主人公のくんちゃんがお尻に異物を入れて欲情する謎の場面が挿入されている。このような異常展開は時たま議論の棚に持ち上げられ賛否両論となる。ただ、これはアニメである。観客を共犯関係に引き摺り込み、倫理を超えたその先を魅せるのがアニメないし映画の役割の一つではないだろうか?そして、その共犯関係になれるかなれないかが細田守映画を絶賛するか酷評するかの境目となっていると考えることができる。私は、『おおかみこどもの雨と雪』は倫理的な部分で大嫌いだったのですが、『未来のミライ』は大好きである。今回、ぶっ飛んだ映画と噂される『竜とそばかすの姫』を観たのですが、確かに狂っていた。細田守はこの映画を作るために、今までの作品が存在したのかと思うほどに集大成だった。というわけでネタバレありで考察していく。

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【カンヌ国際映画祭特集】「ドライブ・マイ・カー(原作)」人は誰しも演技する

本作を読んでいる時、「いつ書かれた作品だ?」と背表紙を見て絶望した。そこには「2013年」と書いてあったからだ。2010年代はスマートフォンとSNSの台頭で老若男女世界中の情報が洪水のように我々を呑み込んでいった。これにより、世界中の社会問題も明るみに出て、抑圧される女性像も世界中に伝播し、少しずつ「男らしさ」「女らしさ」の呪縛から解放する動きが活発となっていった。村上春樹は「海辺のカフカ」で、図書館のトイレを通じて公共とジェンダーの関係について論じていた。「ドライブ・マイ・カー 」も恐らくは、意図的に女性蔑視を描いているのだと思う。だが、その癖が強すぎるもとい少し古くて拒絶反応が出てしまった。

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【ネタバレ考察】『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』メルヴィル、ザラーにならないように、うっかり殺めないように

暴力は突発的に起きる。突発的な暴力に支配された世界では、殺しは静かにやってくる。冒頭、夜の繁華街で襲われる女。すると突然、暴力漢の脳天が撃ち抜かれる。場面は切り替わり、公園でヤクザのような人が犬を連れて話していると、これもいきなり突然死する。車では、怯える女を連れて男が車を走らせようとすると、何者かに首を掻っ切られる。そのまま激しいカーレースとなり、岡田准一演じるファブルはトム・クルーズさながらの曲芸を魅せつける。息を呑むようなアクションはハリウッド大作を観ている気分にさせられ、これだけでこの映画の勝利は確約されている。このドライで、大胆かつ厳格なショット捌き、語りではなくアクションで映画を語ろうとする職人芸はジャン=ピエール・メルヴィル、S・クレイグ・ザラーを彷彿とさせる。

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【ネタバレ考察】『ヒノマルソウル』から観るプロパガンダ映画論、或いは想像したくない東京五輪

まず、1994年リレハンメルオリンピックでの場面。街中のディスプレイ前に群衆が集まる。その中で、原田雅彦(濱津隆之)は痛恨のミスで金メダルを逃す。群衆が、一斉にヤジを飛ばす。記者会見のシーンでは、必死に震えを押さえ込み苦笑いする原田に記者が圧をかける。このシークエンスにより、金メダル獲得がいかに日本にとって重要かが観る者に刷り込まれる。そして数分に一度「金メダル」という単語が発せられ、いく先々で金メダルが取れないことによる呪いを向けられる。この積み重ねにより、終盤誕生するパワーワード「ヒノマルソウル」に熱が宿る。