考察

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『DUNE/デューン 砂の惑星』ヴォイスが我々に語りかける

アレハンドロ・ホドロフスキーが頓挫させ、デヴィッド・リンチが失敗させてしまった悪夢の映画化『DUNE』にドゥニ・ヴィルヌーヴが名乗りを挙げた。すっかりSF超大作の人となった彼が『DUNE/デューン 砂の惑星』を映画化。2部作の前編が日本で公開された。Twitterでの評判はお葬式モードでした。確かに、それも納得な作品である一方で、『十戒』、『ベン・ハー』、『天地創造』といった50~60年代の超大作を彷彿とさせる見応え抜群な映画となっていました。

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【YIDFF2021】『発見の年』巨大化しすぎた敵に跪く

山形国際ドキュメンタリー映画祭の作品は、日本公開されないものも少なくない。超長尺映画となると尚更だ。故に、ドキュメンタリー映画好きとしては積極的に挑戦していきたいものがある。さて、本祭の超長尺映画枠としてスペインから『発見の年』がやってきた。本作は新大陸発見から500年後の1992年、オリンピックや万博の華やかな雰囲気の裏で蹂躙される市民の怒りを2画面で200分綴った超大作となっている。日本も2021年、東京オリンピックが開かれ、テレビでは華やかなニュースが流れる裏で、市民の猛烈な抗議が行われた。他人事ではない内容なので観てみました。

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【ネタバレ考察】『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』失われたマドレーヌを求めて

James Bond…License to kill…History of violence…

映画館ですっかり擦り込まれること約2年。ようやくダニエル・クレイグボンド最終章『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』が日本公開されました。Twitterでは台風の負けんじと10/1(金)初日に映画館に駆けつけたものの、あまりの微妙さに荒れている人が多数観測された。まさか007で、あの面白そうな予告編でそんな大暴投はないだろうと思ってTOHOシネマズららぽーと横浜で観てきました。確かに、大暴投はなかった。『闇の列車、光の旅』、『ビースト・オブ・ノー・ネーション』のキャリー・ジョージ・フクナガ監督なので堅実な映画作りをしている。だが、その真面目さ故かあまりにも退屈だった。007でここまでつまらなくできるのかと思うほどに退屈だったのです。今回は、そんな悲しい駄作『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』に対してネタバレありで文句を徒然なるままに書いていきます。

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【ネタバレ考察】『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』ハリボテのマスクは、アバターを現実に引き摺り出す

イメージフォーラム・フェスティバル2021でルーマニア・ニューウェーブの鬼才ラドゥ・ジューデの新作『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』が上映された。本作は第71回ベルリン国際映画祭で最高賞である金熊賞を受賞しており、またコロナ禍を扱っていることで話題となった作品だ。当ブログでも『THE DEAD NATION』、『UPPERCASE PRINT』を紹介し、監督のユニークな演出に驚かされてきたわけですが『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』それらを遥かに超える進化を魅せてくれました。尚、ネタバレ考察記事です。

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【ネタバレ考察】『空白』誤解の空白、赦しの空白

『ヒメアノ〜ル』、『犬猿』、『愛しのアイリーン』と今、脂が乗っている監督のひとり吉田恵輔の新作『空白』をユーロスペースで観てきました。現在公開中の『由宇子の天秤』同様、正義の暴走を重厚に捉えた2020年最重要作品のひとつでありました。例のごとく、思わぬギミックと笑いに満ち溢れた作品のなのでネタバレあり考察とします。

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【アニメシリーズ】『かげきしょうじょ!!』2020年代の縦社会魅せてあげます

今、Amazon Prime Videoで歌劇をテーマにしたアニメが配信されている。その名は『かげきしょうじょ!!』。斉木久美子の同名漫画のアニメ化である。これが、よくある青春キラキラもの、縦社会もののあるあるを次々と覆していく凄まじい作品であった。今や、コンプライアンスが重要視され、今まで習慣として存在していたものがパワハラ、セクハラとして認定される中でいかにして建設的な「高み」を目指す世界を描いていくのか。また、2010年代後半から『ハル×キヨ』、『羽柴くんは152センチ』などといった高身長をコンプレックスとして描く漫画が増えていった一方で、「アイドルマスター」の諸星きらりや「ウマ娘」のヒシアケボノ、「呪術廻戦」の高田ちゃんといった高身長を個性として捉えたキャラクターが次々と生まれていった。現実社会でも、2010年代後半からyoutubeやインスタグラムで高身長を売りにしたり高身長あるある動画でコンプレックスを共有する動きが出てきた。つまり日本において高身長女子の表象に多様性が生まれてくる中で、このアニメが制作されたことは非常に重要な意味を持っているのだ。今回、第11話まで観たのですが、毎回面白いギミックが凝らされていたので語っていきます。

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【ネタバレ考察】『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』ユーザはマニュアルを読まない

また2作目『映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』では、前作がオムニバス形式だったのに対し、一直線の物語に挑戦する。敵役すりかえ仮面(小林よしひさ)が何故イタズラするのかを掘り下げる。その理由が、イタズラをして他者に認知してもらわねば消滅する運命を抱えていたというもので、いじめっこを排除することが平和に繋がらないことを訴えていた。子ども映画の倫理譚は『それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星』における産業廃棄物問題を始めとして深い領域まで掘り進めており感銘を受ける。また、映像面でもフレームの外側を活用し、ガラピコぷ〜の民が目に映らぬところでどんちゃん騒ぎする様子が描かれている。幼児の眼を信じての演出。スクリーンには草むらしか映ってないのに、幼児たちが爆笑していたのが印象的であった。

さて、今回シリーズ3作目ということで朝イチで観てきました。

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『鳩の撃退法』藤原竜也から煌めく胡散臭さを引き出す方法

私も映画好きとしてよく訊かれるのですが、正直「あなたの生涯ベストを教えてください」よりも難しい。というのも、私はあまり俳優で映画を観ることはな異からだ。なので、好きな俳優はほとんどいないのが実情である。特に女優は困る。仕方がないのでエル・ファニングと言ったりして誤魔化している。そんな私にも、積極的に拝みたい俳優は数人いる。ジェイソン・ステイサム、草彅剛、そして藤原竜也だ。彼らが出ていると元気が貰える。観るレッドブルとして出演作が公開されれば、なるべく観に行きます。

さて、今回は藤原竜也The Movie『鳩の撃退法』を観に行きました。

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『レディ・イン・ザ・ウォーター』シャマランが考える多様性とは?

M・ナイト・シャマラン『オールド』が公開されるや否や、Twitterでは賛否両論が分かれている。M・ナイト・シャマランはかつて町山智浩が『シックス・センス』や『ヴィレッジ』がパクリ映画だみたいなことを言ったこともあり、また『シックス・センス』のどんでん返しが凄すぎたこともあり、割と過小評価されがちの監督である。だが、彼の醍醐味はどんでん返しがどうとか、スリラーがどうとかそこにはなく、独自の歪んだハリウッド映画を魅せてくれるところにある。『アンブレイカブル』でアメコミヒーロー映画の最初にありがちな平凡な男がヒーローに目覚めるまでの過程をじっくりと描いた後、10年以上の時を経て『スプリット』、『ミスター・ガラス』と2010年代映画のテーマである「ユニバース」の文脈に歩み寄ってみせた。『サイン』、『ヴィジット』ではよくあるハリウッドポップコーン映画の文法で作りながら、時折シャマラン独自のユーモアを挿入してきてスパイスとなっていた。こうした、クリシェ外しがカイエ・デュ・シネマにウケているせいかたまに年間ベストに入ったりします。

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【ネタバレ考察】『オールド』シャマラン最高傑作!ある日本映画のラブレターでは?

M・ナイト・シャマランといえば『シックス・センス』でどんでん返しの人のイメージがついてしまい、毎回その呪縛と闘っているような監督である。だが、実はその呪縛というのは観客の心を縛っているに過ぎず、実は彼は一貫して俺的ハリウッド映画を作り、そのねじ曲がったもう一つのハリウッド映画像が面白さに繋がっている。例えば、国際的にカイエ・デュ・シネマぐらいしか評価していない『レディ・イン・ザ・ウォーター』を例に取る。一見すると、ウンディーネ的話の翻訳や、怪物映画として失敗しているように見える。ある意味、それは正しい。あの映画には怪物はいらなかった。彼は寓話を通じて、多様性と言いつつもバラバラになってしまっている現代人を繋ぎとめようとしたのだ。宗教が、人々をあるベクトルへ向けさせるのと同様。寓話を通じて絆の温もりを描こうとした。と同時に、その絆も禍々しい側面、ある種の陰謀論的危うさをも示唆しており魅力的であった。『ミスター・ガラス』では、シャマランなりのヒーローユニバースを築きあげた。さて、『オールド』はどうだろうか?今回はネタバレありで『オールド』の謎に迫っていこうと思う。