感想

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【ザカリアス・クヌク特集】『One Day in the Life of Noah Piugattuk』英語という不平等

『氷海の伝説』で第54回カンヌ国際映画祭カメラ・ドールを受賞後、ドキュメンタリー、劇映画を幾つか制作してきた。2016年にはザカリアス・クヌクがイヌイットとしての先住民意識が芽生えた作品であるジョン・フォード『捜索者』をリメイクした。そして2019年。ヴェネチア・ビエンナーレでは今回紹介する『ᓄ ᐊ ᐱ ᐅ ᒑ ᒼ ᑑ ᑉ ᐅ ᓪ ᓗ ᕆ ᓚ ᐅ ᖅ ᑕ ᖓ(英題:One Day in the Life of Noah Piugattuk)』と併せて、イヌイット史に関するインスタレーションが展示された。本作は、1961年に起きた事件の映画化だ。

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【特集ザカリアス・クヌク】『氷海の伝説/ᐊᑕᓈᕐᔪᐊᑦ』急襲受けたら裸で走れ、地の果てまで

昨年、私は米国iTunesで謎の言語で書かれたタイトルに惹き込まれた。『ᒪᓕᒡᓗᑎᑦ(英題:Searchers)』はなんとイヌイット語の作品であるだけではなく、ジョン・フォードの不朽の名作『捜索者』のリメイク作品だったのです。酷寒の地域の作品故か、人間の膠着した動き、そこから突然動き出すアクションが独特であり私の好奇心を刺激した作品であった。だが、私としたことかブログに書き忘れて1年が経ってしまった。ふと最近、『ᒪᓕᒡᓗᑎᑦ』を再観してブログに書こうかと思って米国iTunesを開いたら、本作の監督であるザカリアス・クヌク監督作品が結構観られることが判明した。しかも、彼が第54回カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞した作品は『氷海の伝説』という邦題で岩波ホールにて上映された過去が明らかとなったではありませんか。しかもAmazonではパンフレットが売られている。というわけで、この夏はザカリアス・クヌク特集を組むことにしました。今回は彼の代表作『氷海の伝説』について語っていこうと思います。

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『イン・ザ・ハイツ』American Dreams are Dead.

うちの職場は意外とゆるいところがあって、仕事の士気を上げる為にラジオの使用が許可されている。先日、音楽ジャーナリストの宇野維正が『イン・ザ・ハイツ』を楽しそうに紹介していて少し興味を持った。正直、予告を観るとミュージカル映画お馴染みバークレー・ショットを何の批評性もなく使用している感が強く不信感を抱いていたのですが、夏映画を浴びたいということもあり映画館に行ってきました。結論から言うと、テーマは興味深いが演出が凄惨で退屈な作品でありました。

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【ネタバレ考察】『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』高橋渉の経済学入門

Twitterでクレヨンしんちゃんの新作がやたらと評判が高い。ヴィジュアル的に、大晦日にやる「笑ってはいけない」シリーズの様な雰囲気がバリバリに染み出していて傑作という雰囲気ではないのだが、絶賛一色に染まっている。監督を確認したら、今回は髙橋渉監督回だった。なるほど傑作な訳だ。彼は、監督デビュー作『劇場版3D あたしンち 情熱のちょ~超能力♪ 母 大暴走!』でシンエイ動画が欲を出して不要と思われるアニメなのに、3D演出を盛り込んだせいで上映時間が43分とテレビ放送2回分レベルの尺となってしまう大惨事の中で、才能を得た者が承認欲求を満たせなかった際に如何にして暴走するかを映画の中で描いた。その後、『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』で胸熱ヒーロー映画としてクレヨンしんちゃんを盛り上げた熱い歴史を持つ監督である。そんな彼の新作を観にいったのですが、これが凄まじい。子ども映画でありながら経済学、政治学について切り込み、トーマス・バッハの様なバケモノや日本の汚職が何故生まれるのかを「尻」でもって風刺してみせた。本記事ではネタバレありで『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』について書いていく。

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【ネタバレなし】『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介の新バベルの塔

第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞(日本映画初と報道されがちですが、厳密にはアレクサンドル・ソクーロフ『モレク神』がいるので日本初ではない)した濱口竜介監督。昨年の『スパイの妻 劇場版』で第77回ヴェネチア国際映画祭で黒沢清が監督賞(脚本参加)を受賞したのを筆頭に、『偶然と想像』で第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)、そしてカンヌを制覇。三大映画祭を実質ストレート制覇し、大暴れしています。そんな彼の『ドライブ・マイ・カー』の試写会にフォロワーさんからお誘いいただきお邪魔しました。

社会派映画でない原作ものはカンヌ国際映画祭ではかなり不利となる。イ・チャンドンが村上春樹の「納屋を焼く」を映画化した『バーニング 劇場版』が批評家評判高かったにもかかわらず無冠に終わった雪辱を果たすように脚本賞を仕留めた訳ですが、これがトンデモナイ傑作でありました。

試写会に臨むにあたって、原作が収録されている短編集「女のいない男たち」と関連作品であるチェーホフの「ワーニャ伯父さん」を読了。後者はモスフィルムのyoutubeチャンネルで配信されているアンドレイ・コンチャロフスキーが映画化した作品を観た。劇中に登場する「ゴドーを待ちながら」はMUBIで配信されている映画版『The Churning of Kalki』を観て万全の体制で観ました。

これが驚き、驚き、驚きの連続であり、原作の解体/再構築が凄まじく、これぞ映画の翻訳だと思いました。

当記事は2021年8月20日公開に併せてネタバレなしで感想を書いていきます。ただ、2点だけ感想を書く上で語らなければいけない部分があるので、正直私の記事は日本公開まで読むのは待った方がいいかもしれません。少なくても、「ワーニャ伯父さん」の人物関係だけは押さえて観て欲しいと助言します。

それでは感想書いていきます。

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【ドン・ハーツフェルト特集】『明日の世界』原始的無意識への渇望

少女エミリーはある日遠い未来からの交信を受ける。同じくエミリーと名乗るその女性は、彼女のクローンなのだという。未来のエミリーは、少女エミリーを、彼女の暮らす未来の世界へと連れていく。そこで待ち受けていたのは、「死」が消えて、永遠に生きることを余儀なくされた人々の、ボンヤリとして切ない人生の物語だった。